25.気のいい炭鉱夫達
あからさまな男の敵意に俺は、いつでもリボルバーが抜けるよう動きを追う。男が小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
瞬間、男の手が腰の銃へと伸びる。俺は迷いなく、コートの中のショルダーホルスターからリボルバーを抜いた。
構えながら撃鉄を起こす。リボルバーの照準をピタリと、男の心臓へと向けた。
男は銃を抜いたものの中途半端な体勢で止まる。俺の方がホルスタードロウが速かったようだ。場に再び静寂が落ちた。
(俺に撃つ気はない、が……。どうするか)
男が退かなければ、撃つしかない。狙うなら肩か、それとも銃を持つ手か。
店内で騒ぎを起こしたくはなかったのだが、仕方ない。真っ直ぐと見据えた男が、ゴクリと喉を鳴らしたのが聞こえた。
「ふっ。や、やるじゃねぇか。きょ、今日のところはこれくらいにしと、しといてやるよ!!」
男は所々声を裏返しながら銃をホルスターに仕舞う。両手をヒラヒラとさせながら、俺の横を足早に通り過ぎた。
俺はリボルバーを下ろし、男の背を追って振り向く。ガンッ! とスイングドアに何処かをぶつけ「いってぇ!!」と、喚きながら男は去っていった。
「えぇ……? 何なんだ??」
取り残された俺は、疑問符を飛ばすしかなく。アルラも「分からん」と、呆れたような溜息を吐いていた。
不意に誰かが「ぶはっ!!」と吹き出す。それを皮切りに、店内にいた人々に笑いが広がっていった。
「だっはっはっはっ!!」
「気にしなくていいぜ、兄ちゃん!」
「駄目だねぇ、あいつは」
やれやれと言いたげに、男達は肩を竦める。俺とアルラは顔を見合わせ、小首を傾げた。
「いやぁ、兄ちゃん強いねぇ!!」
「いいもん見たぜ! よし、こっちこい!」
先ほど俺が冒険者ではないことに落胆していた男が、席を立ち俺達に近寄ってくる。俺とそう歳の変わらなさそうだった。
「俺はチャールズってんだ。この炭鉱を任されてる! よろしくな」
握手を求められ、俺はそれを受ける。
「俺はヴェルユスです。この子が」
「アルラと言う!!」
「短い滞在になるとは思いますが、よろしくお願いします」
「ゆっくりしてけ! 今日は俺の奢りだ!」
肩を組まれて、俺はオロッとしてしまう。奢られる心当たりが全くなかった。
「……え? いや――」
「デザート付きか!?」
アルラが嬉しそうにとび跳ねる。男、チャールズは優しげに目尻を下げた。
「おー! いいぞいいぞ! おい!!」
「はいはーい。アルラちゃんね。こっちおいでー」
端の席にいた女性達の中の一人が立ち上がる。アルラの手を握ると、その席へと連れて行こうとした。アルラは俺を振り返り、親指を立てる。
(不安しかない……)
俺は一応「デザートの前にご飯だからな!!」と、釘を刺しておく。アルラではなくその若い女性が「はーい」と返してきた。
「パパは厳しいのねぇ」
「そうでもないぞ!」
「あら、仲良しさん」
父親ではないのだが、ここで否定するのも違うだろう。俺は何とも言えない心地になって苦笑した。
「あんたは、こっちな!」
「飲めるよな?」
「マスター!! ビール!!」
俺の返事も聞かずに、炭鉱夫の一人がビールを頼む。普段は飲まないが、断るわけにもいかずに好意を受け取っておくことにした。
「ありがとうございます」
椅子に座る前に俺は、リボルバーをホルスターに仕舞おうとする。しかし「待て待て!」とチャールズに制止され、俺は疑問符を浮かべながらも手を止めた。
「そのリボルバー、見ていいか?」
「え? あぁ、いいですが」
「マジか!?」
チャールズは子どものように瞳を輝かせ、俺がテーブルに置いたリボルバーを眺めだす。
その横顔が、次兄と重なって見えた。
旅に出て直ぐ、このリボルバーを見つけた時の俺も同じような顔をしていたのだろうか。
「いいねぇ! やっぱリボルバーだよな!」
「あいつ、ガンマン気取ってる癖にオートマだもんなぁ」
「何でだよ! マジで!!」
国境兵もだったが、この国では銃といえばリボルバーらしい。
俺は炭鉱夫達の言葉に、先ほどの光景を思い返す。確かに男が持っていたのは、自動式拳銃だった。
「ええと、あの方はいったい?」
「あぁ、あいつなぁ。ギルドの依頼を見てきてくれたんだが……」
「もう一ヶ月だぜ? 全っっ然! 倒してくんねぇの」
「一匹狼だのなんだので、一人討伐する気らしいがね」
「無理だろ」
チャールズの言葉に、全員が頷く。俺は何と言えば角が立たないかと考えたが、どれも無理そうだったので苦笑いを浮かべて流した。
ビールが入った樽ジョッキが運ばれてきて、俺は有り難く受け取る。「ようこそ! 採掘の町、ディバイン鉱山へ!!」と、チャールズがジョッキを掲げた。
炭鉱夫達の「カンパーイ!!」の声に、俺もジョッキを合わせる。
(賑やかで明るい町だな)
俺はビールを流し込みながら頬を緩めた。
ちらっとアルラの方を見遣る。楽しげにハンバーグを頬張っていた。女性達が世話を焼いてくれているのを見て、胸を撫で下ろす。
「チャールズさん、依頼ってのはどんな内容なんですか?」
「ん? あぁ、ディバイン鉱山には主がいるのさ」
「主、ですか?」
「そうだ。空色のドラゴンでなぁ。いつの間に住み付いちまったのか……」
チャールズが困ったように溜息を吐き出す。炭鉱夫達も首を左右に振る者、肩を竦める者。様々だったが、困っているのは同じようだ。
「つっても、町に降りてくることはねぇから心配するな!」
「たまに、炭鉱の近くに来やがるのさ」
「追い払ってくれるだけでもいいんだがねぇ。魔法が使えない状態では無理だそうだ」
チャールズがビールを勢いよく煽る。確かにドラゴン討伐では、魔法使いの力が必要だ。
身体強化や武器に魔法を纏わせたり。それだけではなく、魔法防壁はかなり助かる。
(俺もドラゴンに会敵したら、よく逃げてたからなぁ)
アルラと出会う前は、かなり苦戦したものだ。よく生き残っているなと自分でも思う。
(助けになれるならなりたい、が……。アルラに危険が及ぶのは俺も困る)
あの腕輪がある限り、アルラは魔法が使えないのだから。
「このまま上手く付き合っていくしかねぇのか」
「まぁ、今のところ。被害は出てませんからねぇ」
「若けぇのは、震え上がってるが……」
「だなぁ……。まぁ、いい! 今日は楽しく飲もうぜー!!」
チャールズが出した陽気な声に、空気は暗くならずに済む。チャールズ達のリボルバー談義を聞きながら、俺も久方ぶりに美味しい酒を飲んだ。




