22.魔法禁止国家・ベベルギオーア
関所を無事に通過していった隊商に手を振って別れる。俺たちの番になり、俺は初手からアルラを抱えておくことにした。
「お前達は、冒険者か?」
「いえ、ギルドには所属していません」
「珍しいな……」
国境兵が不審な目で見てくる。「訳ありか?」と、声に警戒が乗った。俺は仕方がないと目を伏せる。
「西の大国から来ましたので」
国境兵は「西の……」と思案するように黙る。合点がいったのか。冷たい目を俺に向けた。
「仇討ちの旅人か」
「……はい」
「道理で」
冷笑を滲ませた兵に、新人だろうか。若い兵が「どういう意味ッスか?」と、疑問符を浮かべた。
「西の大国の意味の分からん慣わしだよ。仇討ちの旅では、どこにも属してはならんらしい」
「何でなんスか?」
「知らんよ。そいつにでも聞け」
顎で俺を指した上司の言葉を素直に聞き、若い兵が俺に顔を向ける。純粋な疑問の乗ったそれに、俺は眉尻を下げつつも笑った。
(上手く笑えてたらいいが)
アルラの方から不機嫌そうなピリッとした空気を感じて、宥めるように背を優しく叩く。
「楽しい旅であってはならないので」
「ふーん?」
若い兵は、理解不能といった風だ。「よくやるよ」と、冷笑していた兵は一周回って憐れむような目を俺に向ける。
「そんな小さい子連れて大変ッスねぇ」
「え? あぁ、いや、この子は――」
「ヴェル、お腹すいたぁ」
アルラがキュルンッとした上目遣いで俺を見上げる。若い兵は騙されたのか、「それは大変ッスね。先輩、早く検査終わらせてあげましょーよ」と言い出した。
それにアルラは俺にだけ分かるように、ニンマリと悪い顔で笑う。俺は本当に頼りになるよと、アルラの頭を撫でた。
「まぁ、お尋ね者じゃないみたいだからな」
「こちらで持ち込み可能と定められた魔法道具以外の持ち込みはできないッス! 所持は?」
「アイテムバッグと食料袋、あとは――」
俺は片腕でアルラを抱きながら、リュックを下ろす。台の上に置けば「こちらで確認させて貰っても?」と兵が問うてきた。
「えぇ、勿論です」
一応は、ここに着くまでの間に確認はしておいた。隊商の男達に聞いた話では、俺達の荷物の中に持ち込み不可の物はないだろうとのことだったが。
(荷物よりも心配なのは、俺の腕の中にいるアルラだよなぁ)
やはり港に進むべきだったのだろうか。分からない。しかし、どうしてもあちらには進みたくはなかった。
「よし、いいだろう。おい、身体検査」
「はいッス! では、失礼します!」
「え? はい、どうぞ」
俺は仕方なくアルラを一旦降ろす。若い兵は「ポケット確認するッスよー」と、和やかにアルラの身体検査をしてくれていた。
「リボルバーか。アンタいい趣味してんな。分かってる」
上司の男が、俺の身体検査をしながら急に嬉しそうな声を出した。それに俺は目を瞬く。
「先輩、私情がモロ出てるッス」
「うるせぇな。最近の奴らは、魔法銃が便利でいいとか何とか言いやがって」
「魔法銃は持ち込み不可ッスからねぇ」
「ゴネやがって、追い返してやったがな」
そこで俺は、先ほどすれ違った冒険者らしい一行のことを思い出す。ガンナーかスナイパーがいたらしい。
「最近は、魔法銃を使うんですか?」
「らしいぜ。浪漫の何たるかも知らん若造だったよ」
「へぇ」
俺は城塞都市で見た違法な改造魔法銃を思い出す。需要があるからこそ、ああいった物が出回り始めるのだろう。
「でも、西の大国出で銃を扱うなんざ滅多に聞かん。変わり者だね、アンタ」
「あぁ、それは――」
俺は懐かしい記憶にゆったりと目を細める。
“いいか? ヴェル! 今からの時代はなぁ! 銃なんだよ、銃!!”
次兄の“かっけぇだろ!”という楽しげな声が聞こえた気がした。
「次兄の影響で」
「おー! いいッスね! 仲良し兄弟ッスか?」
「えぇ、憧れていました」
「じゃあ、そいつの?」
「いえ、亡くなったのは長兄です」
兵は「そうかい」とだけこぼす。身体検査も問題なかったのか。「いいぞ」と、俺にリュックを渡した。
「お嬢さんも問題ないッス!」
「ありがとうございます」
俺はリュックを背負い、再びアルラを抱える。アルラは特に文句は言わずに、俺の腕の中に収まった。
「では最後に、魔法使いはいるか?」
「はい、この子が」
「えぇ!? その子、魔法使えるんスか!?」
「試験を受けたり学校に通ったりはないので、正式な資格等は持っていませんが」
若い兵は「あちゃ~」と、アルラを見ながら眉尻を下げる。「腕輪持ってこい」と上司に指示され、若い兵は走っていった。
「分かっていると思うが、この国では魔法の使用は全面的に禁止されている」
「はい」
「つまりは、どういうことなのだ?」
アルラが疑問符を飛ばす。俺はアルラにも分かりやすく端的に「使ったら捕まるってこと」と説明した。
「牢屋行きか!?」
「そうだよ」
「しかし、どう判断するのだ」
「この腕輪ッスよ!」
若い兵が戻ってきたらしい。手には小さな腕輪を持っていた。
「入国したいのなら、魔法使いには着用義務があるッス」
「ふむ。分かった」
「では失礼して」
アルラは、利き手とは逆の右腕を出す。若い兵はアルラの手首にそれを装着した。
「魔力を感知するとまず警告音が鳴るッス」
「それを無視して魔法を使えば、兵か警吏か。兎に角、包囲されるから気を付けな」
「分かりました。なるほど、凄い技術ですね」
流石は工業国家なだけはあると、幼い頃に習った知識を掘り起こす。兵の腕章には、歯車が刺繍されていた。
瞬間、ブー! ブー! と、アルラの腕輪がけたたましい音を鳴らす。俺は思わず肩を跳ねさせた。
「アルラ!?」
「ちょちょちょっ!? ダメッスよ!?」
直ぐに音は消えたが、全員の視線がアルラへと向く。アルラは反省した風もなく「どんな音がなるのか気になった」と言い放った。
「君って子は本当に!! すみません! よく言い聞かせておくので!!」
「頼むぞ!!」
「本当にダメなんスよ~」
アルラはキョロキョロと俺と兵の顔を順番に見る。考えるような間のあと、「ごめんなさぁい」と謝罪だけはした。
「反省しなさい」
「している」
俺は果てしなく不安になって、深々と溜息を吐いたのだった。




