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さすらいの旅人よ~優しすぎる旅人と願いを叶える黒龍~  作者: 雨花 まる
採掘の町編

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20/30

20.人助けの度に花丸を書こう

 朝日が跳ね返り、海面を輝かせている。それに、俺は目を細めた。

 山頂付近の高台で、俺とアルラは足を止める。アルラが興奮した様子で「あれが海だな!?」と、とび跳ねた。


「そうだね。そういえば、アルラは初めてか?」

「そうだ! 湖や泉はあるがな!!」


 この三年、内陸部を移動していたらしく俺も久方ぶりの海だった。


(いや、もしかしたらもっとか?)


 アルラと会う前の記憶は所々、曖昧だ。俺はまた考え込みそうになる。しかしアルラが手を離しそうになったことで、思考が浮上した。


「ほら、危ねぇぞ」


 海が見えやすいように、アルラを抱えてやる。アルラは素直に俺の腕に収まった。


「ほう! 本当に広いのだなぁ」


 眼前には、青い海が何処までも続いている。快晴の空とぶつかり合い先は見えなくなっていた。あれを何と呼んだのだったか。


(たしか……。あぁ、水平線だったはず)


 風向きがよかったのか。微かに潮風の香りが届く。その独特な匂いに、アルラは不思議そうに小首を傾げていた。


「潮の香りだよ」

「これがか?」

「近くに行くと、もっとするぞー」

「これよりもか? 興味深いものよ」


 アルラがソワソワと体を揺らす。その瞳には、純粋な好奇心が滲んでいた。

 俺は再び、海へと顔を向ける。こんなにゆっくりと海を眺める時間なんて、取ったことがなかったことに気付いた。


(海は、こんなにも綺麗なものだったっけ)


 ふと、砂浜を走り回るアルラが脳裏に浮かぶ。俺の制止も無視して、海に飛び込みそうだなと苦笑した。


「久しぶりに地図でも買うかなぁ」

「急だな?」

「ん、海岸を目指すのもいいかと思ってさ」


 地図を買わなくなったのは、いつからだったか。訪れた街に仇がいなかったとバツをつけて、またコンパス片手に歩き出す。

 全てがバツで埋まれば、新しい場所の地図を買うを繰り返していた。増えていく地図に(また会わずに済んだ)と、安堵を覚えた自分に嫌悪して吐いてからだった気がする。


(そこからは、目的地も決めずに目の前の道をただ進むだけになったんだよなぁ)


 俺は、俺が今立っている現在地が何処かも分からない。前進しているのか、停滞しているのか、後退しているのか。


「いらんよ、地図など」

「――え?」

「『風の吹くまま気の向くまま。あてのない旅』それが、ワタシ達の旅路だろう?」


 アルラが愉快そうに目を細めた。それに、俺は目を瞬く。次いで、情けなく眉尻を下げてしまった。


「そうだね」

「歩いていればその内、辿り着くこともあろうて。そのくらいが、ちょうどよい」

「ははっ、お楽しみってやつだな」

「その通りだ! では、出発!」

「おー」


 俺はアルラを降ろして、手を繋ぐ。潮風に背を押され、俺は足を踏み出した。



 山頂を過ぎ、道は下り坂になる。暫く行ったところで、隊商が立ち往生していた。

 それに、俺とアルラは顔を見合わせる。近くにいた男に声をかけた。


「何かあったんですか?」

「あぁ、落石だよ。しかもかなり大きな岩だったみたいでな」


 男が親指で示した方へ視線をやる。砕けた岩に道が塞がれていた。


(あぁ、確かに。ありゃあ、荷馬車は通れねぇな)


 隊商の男達が何人かで岩を退かそうと試みている。しかし、魔法使いはいないらしく酷く苦労している様子が見て取れた。


「困っちまうぜ」

「我に――」

「アルラ」

「んむぅう……っ!!」


 アルラが不服そうに唸る。俺は思わず溜息をついてしまった。「手伝いますよ」と言えば、隊商の男は目を丸くする。


「いいのかい? 人が通るには問題ねぇぞ」

「えぇ、人数が多ければ早く終わるでしょう? それに、この子は優秀な魔法使いでして」


 アルラの頭をポンポンと撫でた。それにアルラは、パァッと顔を輝かせる。「ワタシに任せよ!!」そう駆け出した。


「足元に気を付けろよ」

「分かっている」

「やる気満々なので」


 俺が肩を竦めると、隊商の男は豪快に笑う。「いや、助かるよ」との事だったので、俺もアルラの後ろに続いた。


「お嬢ちゃん、危ねぇぞ」

「問題ない! どれを動かせばよいのだ?」

「重いぜ?」

「では、小さくするか?」


 アルラが拳を握る。それを俺は「やめなさい」と、慌てて止めた。アルラは、魔法を使わずとも岩を粉々にするくらいは容易く出来る。しかし、力加減に不安がありすぎる。


「すみません。そのハンマーお借りしても?」

「え? あぁ、別にいいけど……」


 休憩していた男からハンマーを借りる。「気ぃ付けろよー!」と、心配の滲んだ声が飛んできた。それに、片手を上げて答える。

 どうやら、一番大きな岩に悪戦苦闘していたようだ。男達が手分けして、端から徐々に砕いている。俺は岩の全体像と地面の強度を確認した。


(これなら大丈夫そうだな。真っ二つに割った方が早い)


 そう結論付けて「ちょっと離れて貰ってもいいですか?」と、周りに声をかける。男達は不思議そうにしながら、俺の後ろへと下がってくれた。


「ゆけ、ヴェル!! 見せてやれ!!」

「何をだよ」


 アルラの言葉に、眉尻を下げながらも笑う。深く息を吐き、ハンマーを肩に担いだ。ぐっと強く柄を握り締め、頭上に構える。

 岩に向かい躊躇いなく振り下ろした。ハンマーが空気を切る鋭い音のあと、岩に当たる重い音が耳を打った。

 地面の揺れに、木々が揺れる。鳥を驚かせてしまったらしい。バササッという羽音と共に飛び立っていった。

 入った亀裂が岩を横断する。狙い通り、綺麗に半分に割れてくれた。


(もう半分にするか? これくらいなら次で粉々に出来る気もするが……)


 俺は迷って「どうしよう」と呟く。瞬間、背後から驚き混じりの歓声が上がった。それに、肩が跳ねる。


「何だぁ!? そりゃあ!!」

「すっげーな、アンタ!!」


 俺は、ポカンと目を丸くした。「そうだろうとも!!」と、アルラが胸を張る。


「そう、ですかね?」


 どう返事をしたものかと、俺は頬を人差し指で掻いたのだった。

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