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さすらいの旅人よ~優しすぎる旅人と願いを叶える黒龍~  作者: 雨花 まる
城塞都市編

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17/31

17.旅人は再び迷い

「レリア」


 ロアスがレリアと目線を合わせるように、膝を折る。ハンカチを取り出すと、レリアの涙を優しく拭った。


「大丈夫だ、私がいる。一緒に――あいつの思い出話をしよう。たくさん、たくさん、な?」


 ロアスの声が涙に揺れる。それでもロアスは、穏やかに目を細めた。その瞳には、もう憎しみの類いは宿っていないように見える。


「う、ん。わかった……」


 レリアは、まだ諦めきれないといった目をアルラに向けながらもロアスの言葉に頷いた。それを見て、自然ともうこの街を発とう。そう思った。


「アルラ、そろそろ行こうか」


 手を差し出せば、アルラは迷わず俺と手を繋ぐ。それを見て、レリアが慌てた声を出した。


「行っちゃうの?」


 レリアの潤んだ瞳が、俺とアルラを行ったり来たりする。それに、思わず眉尻を下げた。


「あぁ、俺たちは旅を続けるよ」

「レリアよ、達者でな!!」


 レリアは、一瞬嫌そうに眉をしかめる。しかし、我慢するように唇を噛んだ。

 自身の髪を飾る赤いリボンの髪飾りを取る。それをアルラに両手で差し出した。


「あげる!! お礼よ」


 繋いだ手に、力が入った。アルラの喜色が煌めく金色の瞳が、許可を求めるように俺を見上げてくる。それに、俺はただ首を縦に振った。


「ありがとう!! 大事にしよう、絶対だ!」

「当然よ!! 私の宝物なんだからね!」

「わかった!!」


 レリアの手から、赤い蝶の髪飾りがアルラの手に渡る。アルラは大事そうにそれを胸に抱えた。


「じゃあ、俺たちは行きます」


 アルラの手を引いて、足を踏み出す。


“人をたくさん斬るよ”


 俺は手配書を握り締め、雑にコートのポケットに突っ込んだ。


マクシムス(あいつ)は、今も何処かで人を斬っている)


 嘲笑う声が、道の先で俺を手招きする。


「あなた方の旅路に!! 幸運多きことを!!」


 それは、久方ぶりに聞いた。旅人を送り出す、祝福の言葉だった。

 思わず、ロアスに振り向く。ロアスの顔には、複雑な感情が乗っていた。それでも俺の背を優しく押してくれる。


「ははっ、ありがとう!!」


 シルクハットを取って、それを頭上で振った。


「またねーー!!」


 レリアが元気に両手を振っている。アルラも答えるように「バイバーイ!!」と、跳びはねた。


 ――本日、快晴。絶好の旅日和。


 俺とアルラは、心地のよい秋風に吹かれながら、城塞都市を後にした。


******


 俺は、目の前の景色をただ見つめる。風が、アルラの髪を飾る赤いリボンを揺らした。


「ヴェルユス!!」

「ううーん……」

「もう!! 三十分だぞ!?」


 この分かれ道の前に、俺が立ち竦んだ時間だ。俺は、困って溜息を吐く。

 今回は、道標がしっかりと立っていた。

 右は、港へ。左は、山道へ。


「どうする?」

「お前さんが、選ぶんだよ」

「だよなぁ」


 俺は、ガックリと項垂れた。その拍子に、シルクハットが頭から落ちる。アルラは、もはや手慣れた様子でそれを魔法で浮かせていた。


「港、港か。船旅だよな。沈んだらどうしよう」

「ワタシが、何とでもしてやる!」


 アルラの手の中に、シルクハットが収まる。


「待ってくれ。あと十分」

「せめて、五分だ!!」

「わ、かった……」


 俺は時間ギリギリまで考えて、恐る恐ると手を上げる。俺が進むと決めた道を指差した。


「よし! ゆくぞ!!」

「おわっ!?」


 悩む間もなくアルラが俺の手を引いて歩き出す。山鳥が、愉快そうに鳴いた気がした。

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