↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さすらいの旅人よ~優しすぎる旅人と願いを叶える黒龍~  作者: 雨花 まる
城塞都市編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/31

15.孤独な神よ

 アルラの怒気で、空気が震えている。

 ここに辿り着いた時、すでにアルラの瞳孔が爬虫類のように縦長に戻っていた。それに加え龍の角が見えている時点で、嫌な予感はしていた。

 怒りで理性が飛びかけたらしい。アルラの首から頬にかけて、黒い鱗が浮き出ている。尾は最初から出ていたのか、今出たのか。


(まだ、人の姿は保てているな)


 しかし、かなり危うい。小屋を守るように張られた結界が、不安定に揺れていた。

 ここでアルラが暴れれば、今までのアルラの頑張りが全て水の泡になる。

 俺は戦闘で上がった息を整えようと、大きく息を吐き出した。そのまま、立ち上がる。


「何なんだよ!?」


 男はアルラの姿に混乱しているらしい。しかし、俺が立ち上がったことにより、視線がこちらへ戻ってきた。


「クソッ! クソォ!!」


 男が銃の撃鉄を上げる。再び、銃口から黒い光が漏れ出した。


(あれが件の違法な改造銃か?)


 普通の魔法銃より確かに、威力やスピードは上がっている。しかし、毒、呪い、そっち系は付与されていないようだ。

 肩の傷が、ズキズキと痛みを訴えた。それが、俺の頭をクリアにしていく。

 銃口がこちらを向く。俺が動くより先、アルラの方から破壊音が鳴り響いた。

 積まれていた木箱を尾で薙ぎ払ったのか。食料らしきものが散乱する。男の顔に恐怖が滲んだ。

 俺は迷わずリボルバーを頭上に撃つ。男の肩が跳ねた。しかし、狙いどおり銃口の照準は、俺に向いたまま動かない。


(そうだ。そのまま、俺に向かって撃て)


 魔法銃は厄介な武器だ。撃鉄を起こしてしまうと、撃つまで手を離してはならない。暴発するからだ。

 あの威力。暴発すれば、人死にが出る。手に汗が滲んだ。


「ヴェルユス……っ!!」


 アルラの不安そうな声に、剣をしっかりと握り直した。


(分かってる。大丈夫だ、アルラ)


 男の表情に迷いが滲む。俺に撃つべきか、アルラに撃つべきか。


(あぁ、分かるよ。怖いと迷うよな)


 リボルバーを持つ俺の手が震える。(あいつ)との目に見える相違点。一度だって、手放してこなかったそれ。


(いつまでも、目を逸らしてはいられないのかもな)


 手の震えは止まっていた。

 ふっと、リボルバーを手放す。男の瞳が驚愕に見開かれた。

 腰にある傘へと手を伸ばす。引き抜き、カチッとスイッチを押した。瞬間、傘が俺と男の間を隔てるように開く。

 空中に傘を置くように手放し、身を低くした。黒い閃光が傘を貫き、俺の髪を掠める。俺は間髪容れずに、傘の影から飛び出した。


「ひっ!?」


 その距離、推定五メートル。一気に距離を詰め、銃を持つ男の右手首の腱のみを斬る。


“甘いよねぇ、ヴェルは”


 耳の奥で(あいつ)の嗤う声が聞こえた気がした。吐き出した息が震える。


「いってぇえ!?」


 男は喚きながら銃を取りこぼした。そのままその場に踞る。俺は、銃を遠くへ蹴り飛ばした。


「殺さないでくれぇ……っ!!」


 俺は男を一瞥もせず、顔をアルラへ向ける。合った瞳が泣きそうで。俺はアルラへ向かって駆け出した。手から剣が滑り落ちる。


「アルラ!!」


 俺は、腕の中にアルラを掻き抱いた。アルラの体が一瞬、強張る。ふっと力が抜けると同時。アルラの角も尾も、スゥ……と空気に溶けるように消えていった。


「ヴェル」

「ん?」

「帽子、ちゃんと守っておいたぞ!」


 アルラがいつものように、笑う。それに俺は、やっと呼吸がまともに出来た。

 素直に頭を差し出し、アルラからシルクハットを受け取る。お返しに、俺はコートのポケットからアルラのキャスケットを取り出した。

 それに、アルラの金色の瞳が煌めく。被せてやって、流れるように抱き上げた。


「ヴェル、傷を治してあげよう」

「いや、これくらい平気だ」

「むぅ……。ワタシに願え!」

「無茶したんだろ?」


 俺は、アルラを宥めるように背をポンポンと優しく叩く。


「これくらい、問題ない!」

「俺も」

「んむぅうぅ……っ!!」


 アルラがぐずるように、俺の左肩に額を押し付けてくる。それを甘んじて受けながら、寝かし付けにかかった。


「早く神器を手に入れて、力を返して貰わねぇとな」

「……いい。ゆっくりで。いそぐ、たびでも、ないだろう?」

「そうだな」


 アルラの声がうとうとと、微睡み出す。


「もう大丈夫だ、アルラ――おやすみ」

「おや、す、み……」


 規則正しいアルラの寝息を聞きながら、目を伏せた。

 別に早く探し物を終わらせたい訳ではない。確かに初めは、面倒なことになったと思った。

 早々と【黒龍の神器】とやらを集めきり、いつも通りに後腐れなくアルラと別れる予定だった。なのに。


(もう俺は――アルラを牢の中の孤独な神に戻したくないと思っちまってる)


 いつの間に、こうなってしまったのか。アルラは、力を使う。いっそない方がいいのかもしれないが、今のようになるくらいなら取り戻した方がマシだ。

 しかし、だからこそ、おれは。


「何も願わねぇよ」


 これからも、ずっと。

 俄に辺りが騒がしくなる。兵達が追い付いてきたらしい。

 そこで俺は、昨日の夜から何も食っていないことを思い出したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。