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さすらいの旅人よ~優しすぎる旅人と願いを叶える黒龍~  作者: 雨花 まる
城塞都市編

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11/30

11.願いは救いか

「あぁあ……っ!!」


 レリアの呼吸音が乱れていく。広がっていく血溜まりに、レリアがひゅっと息を吸ったのが見えた。

 マズいと思った時には遅かった。レリアが「いやぁあぁあっっ!?」と悲鳴を上げる。それに興奮している男が、銃口をこちらに向けた。

 パウクは“にげろ”と言った。つまり、生きろと。汝の最後の願い。


(聞き届けた)


 レリアに向かって、地面を蹴る。弾丸をギリギリで避け、レリアを庇いながら地面に転がった。


(むぅ……。ワタシ一人ならば、何の問題もないが。レリアを庇いながらとなると)


 特に今のレリアは、取り乱している。逃げるにしても厳しい。ヴェルなら出来るとは思うが。

 ちらりとレリアを見る。幸運なことに気絶していた。


(よし! このまま誘拐されよう!!)


 相手の男は言っていた。“高く売れる”、と。ならば、殺されることはあるまい。

 ここでワタシが暴れると、被害が拡大してしまう恐れがある。こういう手合いは、ヴェルが適任だろう。


「おい! 商品にまで撃ってどうする!? 殺されてぇのか!?」

「ひぃっ!? すみません!!」


 男達が争っている内にと、レリアのリボンを抜き取る。


(うぐぅ……。帽子を置いていきたくない!! だが、致し方なし!!)


 こっそりと帽子を脱いで、その中にレリアのリボンを入れた。それを魔法で隠し手に握る。


「お? 今日は、ついてる。特に怪我もなさそうだな」

「へ、へぇ」

「おい! そっちのガキはお前が持て! 商品だぞ、分かってるな?」

「もちろんです!!」


 銃を撃った男が乱暴にワタシを肩に担ぐ。


(何も分かってないが?)


 ヴェルの暖かい腕の中が恋しくなって、帽子を持つ手に力が入った。しかし、そんな事は言っていられない。

 路地に入った所で、それを手放す。ぽとりと、帽子が路地に取り残された。


 路地の狭い道の先、帽子越しにパウクの姿が見える。鮮血がじわじわと石畳を汚していた。


(人の子は、実に儚い)


 何百年、いや、何千だろうか。昔の話すぎて、もはや感覚も曖昧だ。しかし、ワタシは確かに贄の子の願いを聞き届けた。


“どうか、どうか、お願いします――黒龍様”


 その瞳に滲んだ憎しみをワタシは、美しいと感じた。あの子のために積み上げた屍の数をワタシは、覚えていない。


“なぜ分からない!!”


 思考が散らばる。煩わしいあの英雄(おとこ)の嫌悪の眼差しがワタシを見た気がした。

 そうだ。あの瞬間確かにワタシは、パウクの魔法防壁が砕けると分かっていた。しかしワタシは、助けるよりも“下がれ”というパウクの願いを取った。


“この世には、叶えてはならない――願いもある!! あるんだよ!!”


 騒がしい英雄(そやつ)の声に、眉根を寄せる。


(ないさ。そんなものは、ない)


 あの子の願いを邪魔した男の言葉など、ワタシには何の価値もない。それが何故、分からないのか。


“じゃあ――アルラ。なんて、どうだ? 君の名前だよ”


 ヴェルの声が、私の心を落ち着けた。過去に沈みかけた思考が、急に引き戻される。


(あぁ――ヴェルは、きっと悲しむのだろうな)


 そして、この死に心を痛める。何せ、魔獣にさえも弔いを捧げる男だ。どこまでも皆が求める英雄像をなぞれない。


“死は、救いにならない”


 木格子越し。今にも死にそうな目をしたあの日のヴェルが、静かにそう呟く。ワタシは今もその言葉の意味を探している。


「あっ! お疲れ様です」

「あぁ、上玉だった。ほら、報酬だ」

「うお!? ラッキー」


 不意に、第三者の声が聞こえてきた。扉が開く音に微かに目を開ける。肉の焼ける香りが鼻腔を擽った。


「親父は買い出しに行ってます。早くここから壁の向こうに」

「じゃあな。間違っても変な気、起こすなよ」

「へ、へへっ、勿論です」


 会話だけでは、よく状況を理解できない。


「ランタン付けろ」

「へい! うへぇ、すげぇッスね」

「領主が逃げるための隠し通路だと。いいねぇ。守られてる人間ってのは。お幸せだ」


 それが犯罪に使われている、と。どうやら街の人間に、誘拐犯側(こちら)の道を選んだ者がいるらしかった。


(なるほど! だから捕まらないのか!)


 実に狡猾。しかしこの二人からは、そのような雰囲気は感じられなかった。


「この国とのおさらばだ。船で発つぞ」

「へい! 成果は上々ですよね」

「あの方に殺されずに済みそうだ」


 土臭い匂いが充満している。男二人の声がやけに反響して聞こえた。


「最近、物騒な用心棒を雇われたからな」


 上司らしい男の声が震える。部下の男が、唾を呑んだ。


「例のですかい?」

「あぁ、人斬りらしい」


 どうやら、元締めがいるようだ。そやつが、頭の切れる者であるのだろう。

 しかし、ワタシはその元締めよりも船という言葉の方が気になった。


(船か。港というものを初めて見るな。まぁ、ヴェルがそちらの道を選べばの話だが)


 思わずワクワクに体を揺らしそうになる。しかし、誘拐されている途中だったことを思いだし、何とか止まった。

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