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30. ガスパール — 母と処刑人

ヴィト・マンチーニはバルディーニ家で料理人として働き始めていた。朝早くに来て、夕食のあとに自宅へ帰る生活だった。ヴィトさんが来てからというもの、この家ではもう赤ん坊の声ではなく、オレンジケーキの香りで目を覚ますようになっていた。あまりにも美味しくて、俺でさえ毎朝きちんと朝食をとるようになったほどだ。


ヴィトさんはこの家の料理人だったが、来てからずっとオレンジケーキしか作っていなかった。昼食や夕食を作る時間がなかったからだ。小さなバルディーニ一家の“ちび連中”が、彼を完全に囲い込んでいた。ヴィトさんは子どもが大好きで、それを見抜いた子どもたちはすぐにそれを利用し始めた。


エリオはいつも物語の本を持ってきて、ヴィトさんに読んでくれとせがんだ。しかもジョヴァンニとドメニコの面倒を見る兄としての役目も忘れない。ヴィトさんが本を読んでいる間、エリオは弟たちにもちゃんと聞かせようとしていた。だがそれも長くは続かない。ジョヴァンニは数分もすれば飽きてしまい、皆を引っ張って庭へ連れ出し、サッカーを始めるのだった。


このままあと数ヶ月も続けば、ヴィトさんはやせ細って倒れるか、心臓発作でも起こしかねない。


子どもたちはヴィトさんを「おじいちゃん」と呼んでいた。どれだけ疲れていても、子どもたちと遊んでいるときの彼は本当に幸せそうに見えた。


家には料理人がいるのに、結局のところ食事を作るのはマルティナ夫人とロザリアの役目だった。ロザリアは、子どもたちがどれほどヴィトさんを好きで、どれだけ楽しんでいるかを見ていた。だから食事のことはそれほど気にしていなかった。時間ができると、自分で料理をしていた。


バルディーニ家はますますにぎやかになっていた。その原因はヴィトさんだけではない。


約束どおり、ロザリアはアントニオの妹を保護下に置いていた。リヴィアもバルディーニ家で働き始めていた。だがヴィトさんのような自由はなく、この家で暮らす必要があった。看護師である彼女にとって、子どもがたくさんいるこの家で仕事を見つけるのは難しくなかった。


「自分のことも守るの、忘れないで。」


リヴィアはガスパルの肩に軽く触れながら、そばを通り過ぎた。


ロザリアはマルティナ夫人と一緒に夕食の準備で台所を忙しく動き回っていた。俺は屋敷の周囲を確認するために庭に出ていた。ぐるりと回って台所の裏手に来たとき、足が止まった。庭に面したガラスの扉が開いていた。ロザリアは料理をしているとき、周りが見えなくなる。ただ料理に集中する。そして俺も、彼女が何かをしている姿を見ると、気づけば彼女だけを見てしまう。


リヴィアはそれに気づいていた。来てからずっと俺を観察していたからだ。ときどき含みのある言葉を投げてくる。


だが、リヴィアの違いはそれだけではなかった。


まるで魔法でもかけられたみたいだった。リヴィアの長い茶色の髪は、気づかないうちに俺の視線を引き寄せていた。彼女が台所に入れば、長い脚に目を奪われて、何か理由をつけて後を追ってしまう。リビングから彼女の気配がすれば、隣に座りに行ってしまう。


そしてリヴィアがこちらに顔を向ける。青い瞳を見た瞬間、その魔法はほどける。


リヴィアはロザリアにとてもよく似ていた。ほとんど同じと言っていい。だが、リヴィアの瞳にはロザリアのような暗い色も哀しみもなかった。そこにあったのは、空のような青と喜びだった。視線には幸福と希望が宿っていた。唇は鮮やかな赤。その明るく色づいた表情が、すべての魔法を打ち消してしまうのだった。


夕食の準備は終わっていた。ロザリアは着替えて出かけると言ったが、どこへ行くのかは言わなかった。ロザリアは神秘的な人間ではない。数ヶ月もあれば十分に理解できた。行き先は、彼女の服装を見ればわかる。


「ガスパル、今日はあなたが運転して。」


ロザリアは階段の上から声をかけた。


そう、今日はロザリアの車で出かける。そして運転するのは俺だ。なぜなら今日は、シニョーラ・バルディーニが自分の名で外に出る日だからだ。今日はロザリアはルカ・バルディーニを代表して誰かを罰しに行くのではない。


今日はロザリア自身の名で、誰かを罰しに行くのだ。


今日はロザリアが自分の服を着て、自分の車で向かう。


ロザリアは処刑に向かっていた。体にぴったりと合った柔らかな短い黒のカーディガン、かかとまで届くストレートのスカート、後ろでまとめたシニヨン、黒い靴、そして腰の短剣――そのすべてが「今日は処刑の日だ」と物語っていた。


ロザリアはルカ・バルディーニのように、気ままに出て行って誰かを罰して戻ることはできない。彼女は母親だ。もし服に血の跡が残れば、それを子どもたちに見せるわけにはいかない。小さな手で彼女の髪をつかむ子どもたちのためにも、清潔でなければならない。血が飛ばないように、髪はまとめていた。


「ママ、 スカーフ忘れてるよ。」


エリオは スカーフをしっかり握りしめ、ロザリアの後を追いかけた。


部屋に落ちていた スカーフを見て、すぐに気づいたのだ。ロザリアが忘れたと思い、急いで持ってきた。


「ありがとう。」


ロザリアは身をかがめ、エリオの額にキスをして スカーフを受け取った。


ロザリアは黒いシフォンの スカーフを頭にまとった。



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