三夜城の家 夢の中の人 4話
▶別宮
もう、何年も、何年も、夢の中で誰かと話している。
誰なのかは、ずっとわからない。
何年も、何年も。
夢の中の誰かとしか話していない。
夢の中の誰かは、ぼんやりと笑っている?
笑い合っていたのだろうか?
こちらは、何もおもしろい事はない。
いったい、何の話をしているのだろう。
本当は、談笑しているのかどうかも、わからない。
ずっと、夢の中の誰かがどんな顔なのか気になっていた事を思い出した。
顔を上げて、見てみよう。
夢の中で目を凝らした。
ぼんやり見えた。
とうとう。
ぼんやりと見えた。
その顔には、見覚えがある。よく見る。
と、言うよりその顔ぐらいだった。
よく見る、見覚えのある顔。
色が白く、女か男かわからない。
眉が薄く、唇が不自然な程赤い。目の奥がいつも不安そうに揺れている。
笑ってなどいない。
笑顔など知らないのだろう。
良く知っている。
幼い頃の自分のソレだった。
自分だったのだ。
夢の中の幼い自分。
ずっと、何年も、何年も、自分と話していたのか?
涙があふれた。
何かに押しつぶされそうになる。
でわ、
ここに在る、夢の中でようやく素直に泣いている自分は何なのか?
目の前でぼんやりと見える「誰か」だった幼い自分がこちらを見て不気味に、にぃっと口を曲げて、
少しずつ遠くへ薄くのびていく。
遠くで手を振っている。口は笑っているように見えた。
目が覚めると、いつもとは違う、
見覚えのない何処かの屋敷に居た。
開け放たれた庭には、見た事もない花が揺れている。
花を見たのが初めてなのかもしれなかった。
広い、静かな誰も居ない屋敷。
あの時も、広い部屋の御簾の中にぽつんと座っていた。
全部夢なのか、この屋敷が夢なのか。
わからない。
赤子は、どうしたのだろう。
妹は、どこだろう。
どのくらいの時が流れているのだろう。
確かに体に残っている。赤子の気配。
小さな、小さな、手のやわらかい温度。
「おい。」
すがるように、絞り出す声。
「おーい。」
声が出た事に驚いた。
自分の声が広い屋敷の四方八方に広がって、柱や壁や襖が震えているのがわかる。
自分の声をしっかり聞いた。こんな声だっただろうか。
違う声の音に気づいて、また驚いた。
じっと返事を待つ。
静まりかえる。
いつもの静かな時間。
掌に残ったやわらかい温度を忘れてしまわないように手をぐっと握りしめた。
夢ではないのだろう。
頬が涙で冷えて冷たくなっている。
しばらくして、面をかぶった男だか、女だか、わからなくなってしまった老人が、
音もなく部屋へ入ってきた。




