志乃武家 双葉 3話
▶第一の重臣。
律が、元服した。
伝令がきた。
世話になった主人にあいさつを終え、
すぐに志乃武の村へ向かう。
・・・暮れに戻ったばかりだ。
律は、俺が志乃武家に派閥争いが起こるのを恐れて家を出た事に気付いている。
母上は、相変わらず、ふみ殿の所へ通っているようだ。
人の気も知らず・・・。
知ってか?知らずか?
母上に野心がなくとも、
村の者や家の者には、母上が父上の所へ通っている。
と、うつるだろう。
・・・。
ふみ殿もふみ殿だ。
俺を志乃武の次期当主に。と、
声が上がっている事に気づいていないはずはない。
実際、体の弱いふみ殿に不安を感じる者は多い。
志乃武の村は、
元々海の民が、多方から寄り集まったのが始まりだ。
土地に居就いて開拓していく者、海と村を行き来する者、
ふみ殿の様に近隣の村から入って来る者。
血の気の多い者も多い。
志乃武の家は、よくここまでまとめていると思う。
志乃武の家を、父上を、
それぞれが、それぞれに信頼している。
志乃武の家を絶やしたくないのは、皆同じだ。
ふみ殿は、嫁に来て間もなく、
小さな咳を繰り返すようになり、床に伏すようになり
律が宿った時も、”生きて子を抱けないかもしれない。”
と、言われていたらしい。
律を産むのも命がけだった。
今でも、長い時間は起きてはいられない。
母上は、志乃武の血を絶やさない為に、
血の為だけに嫁に入った。
ふみ殿に何かあった時の為に・・・。
母上は、俺と弟の音を産むと、
「2人も男を産んどきゃもういいよ。」
と、父上に屋敷をねだり、庭を耕して野菜を作り始めたのだそうだ。
・・・。
ふみ殿は、律を産んでしばらく、生死の境をさまよっていた。
眠ったままのふみ殿に変わり、母上が律も、俺も一緒に育てた。
腹の中には、もう音がいた。
・・・・。我が母ながら、凄まじい女だ。
俺が、村を、志乃武の家を出ると伝えた日も、
畑に出て、ふみ殿とお茶をして、
饅頭をほおばりながら、
「わかった。好きに生きればいい。」と、笑っていた。
ふみ殿は、泣いていた。
~~~
まだ、日が高い頃、志乃武の村へ戻った。
身支度を整え本家へ。こんな時にも母上は、家に居ない。
・・・。母上に変わり、音が迎えてくれる。
大きくなった。
本家の父上に報告に上がり、
ひととおり家の者にあいさつを終えた、
屋敷へもどる頃、母上は、何故か山から下りてきた。・
・・呆れた。
顔まで、泥をつけ、山菜でいっぱいの籠を見せて満面の笑みで手を振っている。
「よくかえった。」
帰って来る事は知っていたようだ。
夜は、山菜をもって、本家へ、
久しぶりに 律親子と、弟、音と母上で鍋を囲む。
父は、広間で、家の者と飲み始めている。
律は、縁側で月灯りに1人何やら作っている。
木札か。
同じ物を2枚作り、片方を俺に投げてよこした。
志乃武の家紋を浮き彫った、掌に収まる程の木札だ。
彫った家紋を墨でなぞっている。
命名札だそうだ。
・・・木札の裏に“篠“俺の名が書かれている。名の上に”臣”
もう一方の札を律が手を開いて見せた、
木札の裏には“律”の名。その上に”主”の文字。
・・・。
律の手から札を取り上げ2枚の札を合わせて
2枚にわたる様に血判で割り判を押した。
言われなくとも、俺に野心は微塵もない。
律、主は、驚いた様子だったが、すぐに親指を斬って、
血判を押した。
ようやく、やっと俺の主は、こいつただ一人だ。
物心ついた時から、ずっと決めていた。
ここへ帰って来たのだ。俺の帰る場所だ。




