三夜城家 夢の余韻 13話
▶第一子
夢の中の男は、遠くから何かを言っている。
何を言っているのかはわからない。
絹が懐妊を告げてきてすぐに
絶対に家へは帰せない!と
泣きながら頼んだ。絹は、少し困った顔をしたが、
すぐに笑って頷いた。
~~~
夢の中の男は、遠くから何かを言っている・・・
何を言っているのかはわからない。
いつものとおりだ。わからない。
だけど、
どういう訳か、気になった。
何を言っている?
男はゆっくり近づいてくる。
どんどん、どんどん。
目の前に来た、
こんなに近くに居るのは、いつ振りだろう?
その男?は、
随分と小さな、男の子?だ。
そうか、幼少の自分だ。
はっきりと、そうとは言えない。
が、幼少の自分だ。
それ、は、たどたどしく何か言っている。
聞き取れない…。
?
・・・”あ・か・ご・ か・く・せ・・・・”
かくせ?かくす?
”ば・け・も・の・ こわい。”
・・・あの時の自分か?
・・・そうか、
神託を演じたあの時の自分だ。
赤子を、妹を助ようと初めて、
自の言葉を神託を装い詠った。あの時の まだ幼い自分だ。
“まもらないと・・・、か・く・せ。かくせ。…せ。”
“こわい。こわい・・・・・・”
思わず、それ、を抱きしめていた。
絹がしてくれるように。大事そうにそっと。
冷たい。
夢の中のそれ、は、驚くほど冷たい。
・・・夢の中の幼いそれ、には、 熱が伝わらない。
どうすればいい?
どんどん冷たくなる。
どうすればいい?
腕の中のそれ…の顔を覗き込んだ。
ぎょっとして、目がそらせない。
それ、は、幼い男の子の顔から、
ぺらんとした化け物の顔へと、両親の顔へと、すり替わっていく。
両親のどちらなのかは わからない。
はじめから、どちらが、どちらなのか わからない。
しらないのだ。
気が付くと、いつもの御簾の中だった。
久しぶりに、絹が奥の宮の御簾の前にきた。
随分と逢っていない。ずっと逢いたかった。
絹が笑っている。
その手には、玉のような赤子が抱かれていた。
絹を確認するように抱きしめる。
やっと息をする。
赤子は、眩しい。絹は暖かい。
熱を持った涙が零れる。
入内して、しばらくすると、絹が身ごもった。
音のない老人等から守るため、
誰にも言わないように 絹に頼み込んだ。
絹は、笑って了承してくれた。
御簾の中に、絹を入れようとしたが、家人に止められた。
奥の宮に居る絹の傍から離れないよう。
御簾を移動するように言った。
自ら何かを家人に伝えたのは、初めてだ。
腹が大きくなり、苦しそうな絹を見かねて、家の者へ伝えると、
”子を産む宮”へ連れて行くと言ったので、
「どこだ!」と、すごむ。
こわい。こわい。・・・行くな。行くな。こわい。
「男は入れません。」
すっぱり言い捨てられ、絹は連れて行かれた。
「大丈夫です。」
絹は、笑っていた。
・・・
“子を産む宮”?いつの間にそんな宮があるのだ?
そもそも、この屋敷もどれだけの広さになったのだ?
いつからいるのだ?どのくらい時はたったのだ?わからない。
何も知らない。わからない。
…神託か?
・・・・他にも子を産んだ者が居るのか?
気色が悪い。
三夜城の女中に手を引かれて腹の大きくなった絹は行ってしまった。
「元気な御子を産んできます。」
と、行ってしまった。
何度かの上弦の宴があった。
誰だかわからない、宮入りの娘と月が満ちるまで、過ごす。
もう息ができない。酒の量が増えた。
絹、絹、息ができない。気がふれそうになる。
溺れているようだ。
何度目かの月が明けた頃、
音のない老人から、香の部屋のある宮を移るよう言われた。
新しい宮ができるそうだ。
奥の宮がもっと奥になった。御簾は奥の宮の奥の奥。
どんどん奥へ押し込められる。
奥の宮の奥は、庭の多い風のとおる気持ちのいい宮だった。
あの大きな池と、東屋もみえる。
庭には、川が流れている。見事だ。
絹は、赤子を縁側に座ってあやしている。
庭に咲いた名もない花を絹の髪へ挿した。絹は、笑った。
後ろで、御簾が風に揺れて、しゃら。しゃら。そっと鳴った。




