三夜城家 夢の余韻 14話
▶ゆき。
川の流れがきらきら音を立てる。
風が池へ流れる、さらさら布を撫ぜる。
赤子の小さな、小さな声、絹が赤子をあやす音。
本当の事なのだろうか?
絹が赤子を連れて戻ってから、世が動き出した。
絹は、少しやつれた。
絹が本当の事だと確かめたくて、用もないのに話をたくさんした。
音のない老人の話、庭の東屋に絹を見つけた日、初めて土を踏んだ話。
絹が入内した日の話、絹と奥の宮へ移った日の話。
絹は、いつも、笑って話を聞く。
うんうんと頷く。
妹の話も少し。・・・
絹は、頷く。
絹は、神託を聞いた事があるのだろうか?
宮入りの娘で神託を聞いた者が居た。
その神託で、絹と逢えた。
弓張の月が上がると、香の焚きしめられた宮へ入る。
月が満ちるまで、絹とは、逢えなくなる。
絹は、まだ、身体も気も戻らない様で、
赤子と奥の宮で待っている。
宴はつづく。
月が満ちて、奥の宮へ戻ると、すこし顔色がよくなった絹が赤子と待っていた。
次の宴には、絹を香の宮へ上げると老人に行ってみたが、まだ駄目なようだ。
離れていたくない。
絹は、
”心配しなくても、早く宴へあがれるよう養生します”と笑った。
なんとなし、
なんとなしに、絹に神託を聞いた事があるか訪ねてみた。
絹は、不思議そうに首をかしげる。
まだ、聞いた事はないようだ。
しかし、絹が入内してから、夢の中でよく自分と逢う。
はっきりとは知らないが、夢で自分と逢うと、神託が出ていると感じる。
絹に、神託は、自分とは別の誰かで、・・・
今、目の前の自分だけが本当だ。
・・・と、
言ってみたが、うまく伝わっているのかわからない。
・・・。
絹は、首を傾げた。
絹と、赤子を抱きしめる。
こわい。
涙が零れる。
離れていたくない。
もう月が半分まで明るい。宴がはじまる。
酒をたくさん飲む。息ができない。
月が満ちて、絹の顔を見た途端に涙が止まらなくなった。
ずっと体が震えて止まらない。
こわい。離れていたくない。
次の宴からは、絹と香の宮へ入った。赤子は絹の世話をする女中に預けている。
赤子が心配で、夜中何度か起きてしまう。
絹は、良く眠れるのか、隣で寝息をたてている。
絹の顔に落ちた髪をそっと上げてみる。
・・・涙があふれた。
絹が気づいて目を覚ました。
「赤子が気がかりで眠れない」と、笑って、絹の顔を撫ぜる。
絹は、
“赤子”ではなく”ゆき”と名付けたでしょと言った。
そうだ、”ゆき“と名付けた。
そうだ、「ゆき」だ。
絹と居る時だけが生きている時だ。
この時だけ生きている。
この世に居るとわかる。




