三夜城家 夢の余韻 12話
▶絹のいる世
夢の中の男はどんどん遠くに行く。
何か言っている様だ。
・・・薄気味悪い。
どんどん変わっていく屋敷も、宮入りする娘も。
・・・薄気味悪い。
目覚めてすぐ庭を見る。
庭の音を聴く。
そうして、ようやくこの世が生きていると、安心する。
そして、こちらが、夢から覚めた世なのだと、心が沈んでいく。
それから、
頭の中から音が消えていくのを、
色が少しずつ消えていくのを、確認する。
どこで見ているのか、
誰が見ているのか、朝餉の用意がある。
膳の前に、1人の娘が座っていた。
きょとんと、こちらを見ている。
その娘が少し動くだけで、衣擦れの音が鳴る。
その娘だけが唯一だ。その娘だけが温度がある。
寒くて、娘のそばへ寄る。
ようやくこの世に生きる事を許された気になる。
娘の名は、「きぬ」と言った。
もう音が消えるのも、色がきえるのも、本当は、嫌だ。
絹の傍でだけは、自分が生きていける。絹がいない世には、戻りたくない。
絹から、この屋敷の何処かにいる誰だかわからない姫の話を聞き、
うれしくて泣いた涙は、熱を持っていた。
あの時から、息をしている事に気づいてハッとすることがある。
絹の傍で息をして、生きていく。
夢の中の男は、背中を向けていたり、遠くで何かを言っていたり。
何故か、一時より、
よく夢に出てくる事が多くなった。
その事に気づかない振りをした。




