三夜城家 夢の余韻 10話
▶献上品の納品先
三夜とはじめてあったのは、
三夜城へ反物を納入した時だった。
三夜城家は、月に一度、大量に反物を仕入れてくれる。
お得意様だ。
いつもは、父が納入に来るのだけど
前月に腰を痛めて寝込んでいる。
三夜城の中”鳥の宮”には、
宮入りした若い娘が常に数人居た。
妹も この宮へ宮入りできないだろぉか。
どおも身分が違いすぎるか?
いや。
噂でしかないが、うどん屋も娘を入れたと言っていた。
だけど、うどん屋に娘があったかな?
あれは、まだ嫁もいた事もなさそうだけど。・・・。
どちらにせよ。
”格でなく数だ”
と、言うのも聞いた事もある。
宮入り娘は、綺麗に髪も結われ、衣も、ウチの上等品を身に纏う。
・・・女子は、皆化ける。
私の家は、父の代から始めた糸屋で、糸を紡いで、染めたり、織ったり、編んだり・・・
反物屋?だろか、
布を織るのは家の女で、母、私、妹の3人で、一日中織っている。
他に弟が三人、一番上の弟は、番頭を継ぐ事に決まり、今必死で修業中だ。
父は、嬉しくてしかたがないのか、
いつもより張り切っていた。張り切りすぎて、
腰を痛めた。
妹は、十一になったところで、まだまだ幼い。・・・嫁に出されるかもしれない。
嫁と言うより、質に近い。
呉服問屋の守銭奴じじいが、遊び人の息子に欲しい。と、
・・・
妹に布を織らせれば、布や細工は無料。
糸は、縁者のよしみで安く持って行くのだろう。
長女の私は、家督を継ぐ。
私を嫁入りさせれば、糸屋?反物屋?丸ごと付いてくる。
なんなら、逆に呉服の問屋とやらを、くってしまってもいい。
何度もそう言って、脅かして返している。
表立っては、私を娶るなど織り手の主を取るわけにはいかない。
と、穏やかに笑っているが、
裏では、幼い妹の方が長く使える。とふいてまわっているのは、町中周知の事だ。
守銭奴じじいは、資金繰りの為に店の女中さんまで、
異国へ売り飛ばしたりするような奴だ。そんな家だ。
妹は、体を壊すまで働かされるのは目に見えてわかっている。
・・・。
・・・宮入娘を見ていると、妹の先の人生を思って苦しくなった。
三夜城の家は広い。
宮入娘のいる”鳥の宮”を過ぎて、
まだ一つ奥まった、山に沿った小さな宮がある。
ここまでは、誰も来ないのか草が伸びて道が埋もれそうになっている。
・・・
庭には、四季折々の花が咲き乱れて、外から中を見る事は、できない。
訪れた事の無い者は、通りすぎてしまうだろう。
この宮へ入るには、
三夜城家の、男とも女ともわからない小さな老人に
目隠しをされ、手を引かれて入る。
屋敷の中は、
香が焚かれていて、あまり大きく息を吸うと酔ってしまう。
何枚かの反物を出して、
盆の上に広げ後ろの部屋へ下がり、
頭を伏せる。
誰かの気配はする。
あの小さな老人はいない。ひれ伏して待つ。
ここでの作法は、父に何度もしつこく教えられた。
ここへ入るのは、二度目で さほど緊張はしていない。
が、香に酔ってしまう。
静かに香の煙が揺れる。
気付くと、盆には 反物の代わりに、袱と花が置かれていた。
盆を老人が運んでくる。
お代を確認して、花を懐へ挿すと、また目隠しをされ、ゆらりゆらりと歩く。
だいぶん酔っている。
池の中ほどに浮く東屋へ通された。
茶を出すと、老人は何処かへと行ってしまった。
香の酔いが覚めない、ぐるぐると景色が動く。
茶をすすりようやく目が落ち着いて来た。
風が池のうえを通り抜ける。
気持ちがいい。
しばらく、頭を動かさない様に池を眺めていた。
池の向こうに橋がかかっていた。
前月ここへ来た時には、橋なんてなかったように思うが、
香に酔うて覚えていないのだろう。
老人は、またここへ次の月の反物の要望を紙にまとめて持ってくる。
あの宮へ持参する反物は、妹と同じくらいの子ども用のものだ。
誰かの気配はあった。
誰だろ。
宮入娘とは、違うのだろう。
三夜城の姫様かな?
お茶をすすり、池を眺める。
こんな静かな場所がこの世には ある。
家では、いつも機織りの音と糸をつむぐ音、
染める水の音。
その音達に 負けないように声をあげるお客と父の声。
・・・
静かな池。
橋を誰かが渡ってきた? 老人ではないようだ、青年?
薄い衣を着て小走りにこちらへ駆けて来た。
足袋のまま?
青年は、東屋にすっと入ってきて、私の隣に座ると、
話出した。
あまりに自然な動きで、警戒する間もない。
青年は、名は無く。
名前を訪ねた私に、
“三夜”と、二文字私の掌に書いた。
”何と読む?”と逆に聞かれたので、
“みや?”と聞いて返した。
青年は、くすりと笑って、
“では、それで”
と、言って、また話出した。
まだ、酔っているのかもしれない。




