火の魔法
夕方、村長の家は静かだ。
日中はこともたちが勉強したり訓練したりしている。学校のような役割を果たしている。
村長は校長兼先生のようなものだ。
もうみんな帰ったことを確認しながら、村長の家の木でできた門を入る。庭がでかいので玄関までが遠い。
「きたな、登校拒否児。」
どすのきいた低い声で話しかけてきたのが村長だ。村長はハイエルフのくせにガッチリしてて、片目で顔に傷のある強面だ。だが俺をエルフだの赤目だのと言わない良い人だ。
「こんばんは、村長。無理聞いてもらってありがとうございます。」
「子供っぽくない返しだな。まあいいや。ソラ、お前火の魔法得意なんだってな」
「風と水よりは。」
「よかったじゃねぇか。よし、ちょっとやってみろ。」
「はい。あの的でよいですか?」
「おう。」
俺が指さした先には、俺の位置から20メートル程度離れた位置に大きな四角い木の板が岩に立てかけられていた。
せっかくだ、思いっきりやってみよう。
右手に魔力を集中し、より熱くなるように火の玉を生み出し、より早くなるようにそれを打ち出す!
ボッガーンッ!
ちょっと間抜けな音とともに木の板は勢いよく燃え上がった。
「おおっ!すげぇな!得意ってのはホントだな。ソラ!いいじゃねぇか!」
強面のわりにほめて伸ばす人なのでそのまま真に受けたりはできないが、それでも褒められるのはうれしい。
「ありがとうございます。でもおれ、こうやって火を出して飛ばすくらいしかできないんです。」
「あぁ、なるほど。それでララに相談して俺んところに来る気になったか。」
ララというのは母さんの名前だ。
「はい。」
「よし。じゃあまずは理屈からだな。おし、ちょっと中は入れ。ついでに飯も食べてけ。」
そういって村長はずかずかと家の中に入っていく。飯ってことは長くなるんだろうか。なんにせよ村長の後についていく。
「男料理だから大したもんは作れねぇがまずくはないはずだ。食べろ。」
「いただきます。」
村長と二人で夕食を食べる。村長は戦争で家族を亡くしている。片目がないのも顔に傷があるのもその時のものらしい。
「食べながらで説明するぞ。わからんかったらその都度聞け。火の魔法ってのは魔力で発熱や光の状態変化を起こす魔法だ。お前が見せたのは空気を熱く状態変化させてる。お前マグマって知ってるか?」
「知りません。」
知ってるけど。
「土が熱もって赤くドロドロになったものだ。これも状態変化だ。空気の状態変化で火をおこすとお前がさっきやったみたいになって、土とかに状態変化させるとマグマになる。できるかどうかは魔力の量とかによるがな。」
火って酸化反応じゃなかったっけ?エントロピーの話だろうか?火はイオン化したプラズマ現象の一種と聞いたことがあるけど、聞きかじりだしな。まあこの世界は微妙に法則が違うのかはっきり解明されていないのだろう。俺も知らんし。
「つまり火の魔法には熱を与える能力がある。与えまくると状態が変わることがある。と思っとけ。」
「あの、それじゃあジズは熱のない火を出すけど、あれは魔法じゃないんですか?」
「いい質問だ。あれも火の魔法だ。最初に発熱と光の状態変化が火の魔法って言ったろ。熱も光も別の状態変化なんだ。同時に発生することがほとんどだがな。そしてジズは光と熱を別々に発現できる。求愛行動で火事になったらまずいからなのか、よくわからんが熱がなく強く光る火を吐ければモテるみたいだな。」
「じゃあ、光の魔法ってないんですか?」
「だからそりゃ火の魔法だ。」
「うーん。でも母さんが目を赤く変えてくれる時、光の魔法って言ってたんですけど、母さん火の魔法は全然ダメなんです。」
「ああ、そりゃこれだろ?」
と言うと、村長の明るい緑色の目が赤く変わった。
「これは風の魔法だ。光というのは何種類かの色が混ざって光ってるんだ。」
プリズムか。
「風の魔法で目の前の光を屈折させて赤くしている。上手になると視界に影響なくできるぞ。なんせララに教えたの俺だからな!」
「そうなんですね。」
このあとも、いくつか質問したり雑談しながら夕食をごちそうになった。
「じゃあ、気を付けて帰れ」
「今日はありがとうございました。明日からよろしくお願いします。」
「おう。」
さあ!明日から火の魔法訓練だ!




