六話 自己開示
「警察やら検察やらならともかく、まだよく分からないこの世界の人間に俺の境遇を話したところで真摯に寄り添ってくれるかも怪しい。」
「真摯に寄り添って欲しいのか。」
「ぐっ…俺のいた世界は平和だったんだ。武器を持つ世界よりは甘やかされて育てられた。だからそれぐらい普通だ。」
「俺のいた世界、か。なるほど、突然この世界に裸で放り込まれたんだな?そうかそうか。」
理解が早くて助かる。実際には放り込まれたというより生まれ落ちた感覚なんだが。ハッ、これが誘導尋問というやつか?
「まあそう怒るな。確かに知らない世界で知らない奴に自分の事情知られたら良い気はしないかもな。きっとそうだ。」
「驚かねえのか?」
「とりあえず自己紹介を聞いてもらおうか。」
「なんで?」
男は改まってこちらに向き直った。
その時初めて顔を見たのだが、すごい整った顔をしてるなぁ。顎のラインがスッキリしてて二重でおでこの広さもかっこいい、妬ましい。
「名前はシードルドリュー。シドとかシードとかシードルって呼ばれてるな。好きな事は赤子のお世話、嫌いな事は怒られる事だ。
自慢じゃないが夢や憧れは沢山あってだな。
実は忙しくて、裏切りとか裏腹とかそういうくだらない事に頭は使ってられないんだ。だからさ、安心していいぞ。」
「っ…。」
な、なんだこいつ急に自分語りか?それに、安心していいぞって?え、くっさいわ。きも。
「きっと他人の素直さを見抜けないほど腹黒い環境で育ったんだな、お前。頑張ったな、怖かったな、でも大丈夫だ。今は俺がいるから、ほら、素直な俺が話聞くから、安心していいんだぞ?」
にひひっと笑ったその顔に一切の曇りを感じなかった。
「なんだよそれ気持ちわりぃ…。」
言葉とは裏腹に、冷えきっていた心にじわりと何か温かいものが染み渡った。なんだろう、この胸がつまるキュッて感じ。
シードルは俺の頭をさすりながら語り出した。
「それに、案外お前にとってはこの世界も悪くないかもだぞ、素直な奴多いし。」
「俺、種族の関係で地上に出られなくて、いつもは地下で暮らしてるんだ。ちなみにここも地下牢だぞ。」
「……。」
「地上にでたらさ、空を見てみたいな。
空にはさ、神秘が沢山あるんだって、知ってるか?気づいていたか?
例えば日光。時や場所によってあらゆる色に変化するらしい、しかもその光がエネルギーとして地上全体を活性化させてるとか。
そして星、空という広大な空間を彩るアクセサリーと聞いたことがある。日が落ちてからしか現れないという所も興味深い。
そして雲、浮遊魔法ではなく自力で浮いてるらしい。様々な形をしていて、日光とのコンビネーションで空の風景を美しく描いてくれるとか。はぁあ。空ってなんて素敵なんだ。早くみてみてぇなぁ。地上にはもっとすごいものもあるんだろうな。地上あがりてぇなぁ。」
男は、純粋な目で遠くを見るように夢を語った。
「自分語りきも。」
「自己開示だよ。お前も夢とか無いのか?」
「…。ある。」
「お、なんだ言ってみろ。」
「…恋愛だ。」
「恋愛?…まじ?」
「いいか、これは自己開示だからな?俺は魚坂ビン太って言うんだ。前世ではブサイク陰キャの中学生。」
俺は話しだした。この男の優しさに応えたいと思ったからだろうか。自分の話を馬鹿にしないで聞いてくれると信用出来たからだろうか。




