四十五話 振り、切る。
「ダメだ!ビン太!やめろ!」
海神を超え、セイレーンを通り抜け、シーサーペントも横切る。
それでも俺は走り抜ける。
そうだ、俺は、アトラシアマリンを、取り返しに行かなきゃならない!
だから神殿アトラシアスに向かって、走ってるんだ!
シードルの巨大な手が迫り来る。
ビリビリビリ!!
ローブが引っ掻かれて、パンツ一丁になってしまった!でも構わない!!
ここは海底都市の端。
神殿まではかなりの距離があった。
それでも。
俺は誰もいない建造物群に足音を響かせながら、神殿へと走り続ける。
ヲメスとロフィに教わったからだ。
何百年も待った。
何百年も探した。
それでも。
二人は再び会うことができなかった。
……努力したって、報われないことはある。
それでも。
ヲメスは最後まで、ロフィを探していた。
俺は、何をすればいいのかなんて分からない。
俺が何者なのかだって、まだ分からない。
それでも。
それでも。
俺は、怖くてもやる。
間違っていてもやる。
後ろめたさがあっても、やり切る。
転けるなら、前のめりで転ける。
それが、俺の選んだ道だ。
だからこそ。
俺は俺の選択した道を最後までやり通すんだ!
シードルがとてつもない速さで、俺に追いつき、ほぼ裸の俺前に立ちはだかる。
「そこまでだ!ビン太!!」
「シードル!!!うらぁぁああ!!」
俺は走りながら、かろうじて持っていた剣を抜き、
振りかぶる。
するとデントとの修行の記憶が過ぎる。
「何故炎が消えたかわかるか。」
「信じる力より恐怖上回っちまった。そんな感じだ。」
そうだ。その答えを俺は今持ってる。
シードルが構える。
「君に俺は切れないよ。臆病で優しい、俺の夢友!」
「シーーードルゥァ!!!」
ガキイイイイン!!
シードルの異形の爪と俺の刃がぶつかる。
「迷いが…ない!!?」
シードルが交えた剣の先で驚いていた。
「俺は俺の選択した道を最後まで!振り!切る!」
俺の剣に想いがこもる。
「なっ!なぜだ!」
シードルの異形の爪が、俺の剣に押し返された。
ガイィン!!
そして、シードルの脇を抜けて再びアトラシアスに向かって一直線に走り出す。
シードルが俺の背中を攻撃しようとすると、シーサーペントが海底都市を壊しながらシードルを襲った。
ドガアアン!!
「くっ、」
シードルは攻撃を受け流しながら、泣き叫んだ。
「俺の方が!俺たちの方が!時間をかけてきたんだ!
この時のために!
報われる筈だ!報われないとおかしい!
こんなポッと出の裸イケメンに!!
俺たちの悲願を!!
邪魔されてたまるかぁ!!」
時間の長さならヲメス達の方がずっと長い。
それでも報われない想いだってあるんだ。
「悪いなシードル!たった一週間だったけどよ!
短いからといって価値がないわけではない!!
俺のテッドレッドに対する想いも!確かに"本物"だったんだ!!」
俺はその言葉を言い終えるとつんのめって転ける。
実にキマらない俺らしい感じだ。
それでもなお、俺はすぐに立ち上がって走り続ける。
「ビン太ァァァァアアア!!」
シードルの慟哭を背に受けながら、俺は一心不乱に神殿へ走った。
ー神殿に着くと、アトラシアマリンが祭壇で青く光っていた。




