四十二話 海洋恐怖症
「泣くほど凄いか、この国は。もしそうなら、嬉しい限りだ。」
ユーリィの声が蘇ってくる。
「常に考えてるんだ。どうやったらそんな理由で苦しむ人達を救えるのかを。」
やめろ。
「人の苦しみ方は多種多様だ。君がどんな事情であれ、苦しんでいるのなら力になりたい。」
やめてくれ。
「今日は、身分の格差に関係なくテッドレッド王国が一丸となって闘う日だ。絶対に成功させなきゃならない。」
やめてくれ。頼むから。
「ただ、あいつの進む未来が肯定されるために。
この道を選んで良かったと言えるように。
そのためにも、俺たちはこの国を少し前へ進めなければならない。
それが、ダモレを勇者にした俺たちの責任だと思ってる!」
やめろおおおおおお!!!!
ーその時だった。
「汝、我が神殿に土足で踏み入れる者よ。
その無礼、命をもって償う覚悟はあるか。」
神殿に女神の声が響いた。
ついに、目覚めてしまったのだ。
「まずい!」
シードルが叫んだ。
ブオオオオオオオ!!!!
天井の窓の外に黒い影が忍び寄る。
あれは、鯨(使者)だ。
「う、、うわぁ!!」
鯨の出現によって海流に流されて外へ投げ出された。流されて上を見上げると、鯨がこちらへ向かって口を開けて迫ってきている。
俺たちを餌のように飲み込む気だ。
こえぇ。海洋恐怖症だったら卒倒もんだぞ!
逃げるよ!!
レガリアを外したシードルが俺を抱えて走り出した。
ものすごい速さだ。キック力えぐい!
だけど許してねぇぞ!後で覚えてろ!
「今は命が最優先だ!」
「わかってる!」
さっきの門を潜り抜け、海底都市へと逃げる。
ここまで来ると鯨はもう追って来れないはずだ。
しかし、シードルは人一人いない海底都市の建造物群の中へと走っていく。
「シードル!!なにから逃げてるんだ!!」
「シーサーペントだよ!でかい蛇さ!」
後ろを見ると建物の間をニュルニュル抜けて追いかけてくる。
グシャアアアア!!!
なんて牙の多さだ。
喰われた時痛そうすぎる。
「ビン太、耳を塞ぐんだ!セイレーンもいる。」
どこからか美しい歌声が聴こえる。多分聴いたらダメなやつだ!持ってかれる。
それにしてもシードルのやつ、なんてタスク量だ!片手で俺を抱えながら、もう一方の手をデカくさせて両耳を塞ぎながら、シーサーペントから逃げながら、俺に注意を促していた!
やっぱり、何者なんだよ!
でもだめだ!そっちは海底都市の外!出てしまったら。
ブオオオオオオオ!!!
鯨の口のすぐ前に出てしまった。
終わった。
そう思った次の瞬間、鯨が横切った。
パキパキパキパキーン!
代わりに、俺とシードルの身体が一瞬で氷に覆われていた。
シードルが手を大きくさせ、少しずつ氷を削っていきながら叫ぶ。
「あの鯨は氷海のアトラスだ。使者と呼ばれてるが、あいつこそが海の主であるという伝説もある。
海神をコールドスリープさせたのも、あいつなのだろう。」
すると、俺の足元が完全に動かなくなった。
足先から石になっていってる!?
凍ってるだけじゃない!この氷、石化の性質もあるのか!?
どんどんと石化は進んでいく。
クソっ俺たちも石像になっちまう!
「シードル!!」
「ダモレ。大丈夫だ。海神が来た。」
海底都市の奥からズズズと聴こえる。
「何が大丈夫なんだよ!やばいだろ!」
「仮にも俺たちは石化を解いた救世主だ。話だけは聞いてくれるはずだ。」
シーサーペントとセイレーンが現れる。
そしてその二人を従えるように、
黒い影が迫り来る。しかし、その影は。
泣いていた。
「……ヲメス。」
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