四十一話 時間
「さぁ、アトラシアマリンをこちらに渡してくれ。」
シードルがこちらに手を伸ばした。
「いやだ!」
「ビン太くん。君のことじゃないよ?俺には婚約者がいてね。」
え!!!!!????衝撃の事実。
俺は婚約者がいる女性に結婚しようとか、初恋人物だとか言ってたのか!黒歴史がますます黒歴史たらしめるじゃねーか!
「その婚約者は、建築者だった。」
「け、建築者?」
「あぁ、小さい頃から顔見知りでね。仲良くなった時から俺の使命を聞いて、アトラシアを復活させるために再建の技術を学んでた。」
「シードルの、ために?」
「そうだ。技術を身につけた彼は仕事の合間を使って半壊した海底都市と神殿の修理をしてくれていた。」
「だからこんなに綺麗なのか。」
「しかし、彼は数年前、堕天使の手によって殺された。」
「!?……。」
「俺は彼の想いに応えなければならない。アトラシアの復活を成功させることが、俺にとって彼への恩返しなんだ。」
この言葉。なんか、俺の想いやユーリィの想いに似ている!
「ビン太くん。そんな俺に協力してくれないか?」
ぐっ…。
「君はビン太くんなのか。それとも勇者ダモレなのか。どっちなんだ。」
なっ、なんでこんなことを…っ!
俺の目には涙が滲んだ。
国か、友か。究極の選択だったからだ。
まさかこんなにも早く、この二択を突きつけられるなんて!!
俺は、その二択から選択肢を増やすために、強くなろうと心に誓ったのに!
「君が強くなるまで世界は待ってくれないよ。」
俺はその一言で、剣を抜いた。
俺は!勇者ダモレだ!!
「うあああああああ!!!!」
俺が今までテッドレッドで過ごした時間が、走馬灯のように蘇る。
それが滅ぶ。そのイメージに対する拒絶の想い!
その想いを剣に乗せる!!
体から黒い炎が巻き起こる。しかし…
「なっ…っ!?」
息ができるが、ここは水の中だった。
炎は一瞬で消えて無くなった。
バキッ
シードルが近づいてきて、手の甲でレガリアごと俺の頬を殴った。
勇者の仮面が砕け落ちる。
「勝敗を決めるのは想いの強さやセンスではないよ。
そこにかけてきた時間の長さだ。」
シードルはあっさり杖を持っていってしまった。
そして女神の足元にある祭壇に向かって歩き出す。
俺は膝から崩れ落ちた。
あまりにも呆気なかった。
これまでの出来事が一瞬で否定されたような気分だった。
たったの一週間。俺は一体なんのために動いてきたんだ。
利用されて、背負わされて、また利用される。
あまりにも滑稽だ。
にしてもこの世界の人間は目的のためでしか動いてないのか?
ハハっ、シードル。やっぱり夢友になったのも意図があったんだ。
そうか。恋愛に限らず。人は目的のためなら。手段を。選ばないんだ。
イケメンだろうがなんだろうが、同じなんだ。
ハハっ。ハハハハッ。アッハハハハハハハ。
涙も笑いも、なぜか止まらなかった。
馬鹿みてぇだ!俺!
馬鹿ミテェだ!俺!
たったの数日で!舞い上がっちゃって!調子乗っちゃって!イキがっちゃって!
バカミテェダ!!オレ!!
俺のせいで、テッドレッド王国が、滅びる。
でもどうせ、たったの数日間、過ごしただけの土地だ。俺は本来なら、あの国のことなんて知らなかったんだ。あの国なんて故郷じゃない。あの国なんて俺には関係ない。どうでもいい。
だから、平気。平気。
俺はまだ何もできない。何者でもない。
ただの、魚坂ビン太だ。
するとシードルの声が、神殿に響き渡る。
「ーアトラシアマリン・レガリアー」
三つの宝石が光りだし、共鳴しあう。
そして祭壇に巨大な青い光が集まった。
海流が一斉に動き始める。
遠く離れた海まで、水が脈打つように波打った。
こんな時でも俺の脳内は、悲嘆にして壮大なバックグラウンドミュージックが流れ出す。
「泣くほど凄いか、この国は。もしそうなら、嬉しい限りだ。」
すると、ローブの装飾がキラリと揺れ、ユーリィの声が蘇った。




