三十九話 物申す
海底都市ーアトラシア
深海に佇む建造物群に近づくと、薄い膜のような結界が見えた。
ゴポゴポゴッポ、、、ブハッ
結界に入ると息ができた。
ハァハァ…ハァ
建造物群の間を抜けて、俺を抱えたシードルは大門の前の広場にスッと降り立った。
水の中を漂う小さな気泡が、建物の間を静かに昇っていく。
音はほとんどない。
ただ、遠くから海の流れが街を通り抜けるように響いていた。
そして海の中なのに水の抵抗があまりなく、普通に歩ける。
これも結界のおかげだろうか。
シードルはちょっとした階段に座り、海面を見上げた。
「ビン太くん、ここで少し話そう。」
神秘的な建造物群を前に、大門の前は広場になっていて、日光が微かに差し込む良い場所だった。
「シードル!一体なんでこんなところにいるんだ!
なんで俺をここに連れてきた!海上に戻れるのかよ!」
「ビン太くん…落ち着こうか。君と二人で話したかっただけだよ。ここなら誰もいない。静かだ。」
シードルは遠い海面を見上げ、静かに息を吸い込んだ。その音さえも、響き渡る。
その余裕な態度になんか腹が立ってきたぞ。
「…やい!シードル!俺はお前に言いたいことがたくさんあるぞ!やい!」
「…なんだい?聞かせてもらおうじゃないか。」
俺は立ったまま、座るシードルに指を刺して物申し始めた。
「俺が異世界に来て1日目の日、お前は俺を救ってくれた!でも、お前はテッドレッドの人間じゃなかった。
看守じゃ無いってことは知ってたけど、テッドレッドの人間じゃないとは思わなかった!
ショックだったよ!
なんだよ地下世界って!」
「そっか…伝えてなかったか。
そう、俺は地下世界の人間だ。」
「なんであんなところにいたんだ!」
「地下牢に潜入調査だよ。テッドレッドの情報を盗みにきてたんだ。おかげでセレスティアの出現で、結界の歪みを察知することができた。」
「本当に敵なんだなお前は!」
「ふふふふふ。」
「笑ってんじゃねー!
しかも、感動の別れをしたのになんだあの再会は!」
「おや?デートにお邪魔しちゃったのを根に持っているのかい?」
「そんなんじゃねぇよ!
敵として現れて俺を連れ去ろうとするとか!
それするんだったら最初からそうしろよ!」
「足手纏いだったんだよ。」
「ぐはっ直球だな!お前本当に夢友か?!」
「ハハハ。なんか、面白くなったね。ビン太くん。油断してたら気圧されちゃうよ。
君こそ本当にあの臆病な夢友くんかい?」
「俺にも色々あったんだよ。」
そう言いながらため息をついて俺はシードルの隣に腰掛けた。
しばらく、二人で海面を見上げる。
「ビン太くん。恋愛、できたかい?」
「お前が異世界初恋人物だよちくしょー。」
「そりゃ光栄だね。」
「まぁ、何度か惚れそうになった女の子はいるけど。天然の兵器とかポンコツとか、恋愛レベルに達しないバカばっかりだよ。」
「苦労してるんだね。
でも、良かった。死への恐怖はだいぶ和らいだんだね。」
「いや、物騒なやつ多くてエルーちゃんの前でしか気が休まらねーよ。でも、だいぶこの世界に慣れてきた。シードルが背中を押してくれたからだ。
今でも感謝してる。ありがとう。」
「そうか。
俺も、夢。叶ったんだよ。」
「みたよ」
「地下世界ではね、地上に上がってはいけない掟があるんだ。俺は生まれた時から地下世界の住人だからね。ずっと地上に上がって、空を見ることを夢見て成り上がってきた。
君と再会した日、俺は特別に許可をもらった。
そして初めて空をみたんだ。」
「どうだった?」
「思ってた100倍は感動したよ。あんなに広大な空間があるなんてね。
でも、それと同時に絶望もした。俺たちの住める世界はこの広大な空間の少しにも満たないってね。
地下世界は迷路だからね。空間の把握できて当たり前なんだ。でも、地上は視界が広すぎる。処理する情報が多すぎて一瞬で全てを把握するなんてできない。永遠に天井がないなんて、とても安心できる空間じゃないと思ったよ。」
俺がセレスティアで感じた、
雲の足場の底が抜けたら遥か遠い地に叩きつけられる不安感に似た感覚なのかな。少し違うか。
「ビン太くん、次は君が語る番だ。何故、勇者ダモレって呼ばれてるんだい?」
「ぐっ、俺から情報を盗もうってわけか。」
「自己開示だよ!これは君と俺との二人だけの会話だ。利用したりしないよ!勇者ダモレとしてじゃなく、ビン太くんの物語を聞きたいんだ。」
「…言質とったからな。
ダモレはユーリィってやつが勝手につけたんだ。
あいつってば俺の扱いほんと雑でよぉ!」
俺はユーリィやデント、ティナ、これまで関わった人の話を身振り手振りで話し出した。
あまり国の情報は語らずに、俺のされたこと、してきたこと、どんな気持ちになったかを、シードルを夢友として、一週間分熱く語った。
「勇者は、本物の勇者の代役でよぉ!本物はクズだったんだ!そいつ本当にクズでさぁ!他国の惚れた女の子誘拐したりすんだぜ!」
シードルは時折笑ったり相槌を打ちながら、静かに俺の話を聞いていた。
一通り話したあと、俺は今の夢を語った。
「でも、今はそいつらが仲間なんだ。
俺には大切な人がたくさんできた。
その人たちに自分が納得できる恩返しができるように。
俺は、強くなりたい。強くなりたいんだ。」
「…。」
「もう、後悔したくないんだ。」
「そうか、ビン太くん。いや、ダモレくん。
本当に一つ、乗り越えたんだね。」
「なんか違和感あるな、ビン太でいいよ。…。」
今やビン太と呼んでくれる人はシードルしかいない。シードルまでダモレになったら、俺は前世を忘れてしまいそうだ。
「そういえばシードル、地上に上がってみたいって夢が叶って、お前の今の夢はなんなんだ?」
…。シードルは少し静かになった。
「…少し、場所を変えようか。」
「どこに?」
「俺が地上の神秘に触れたように、君にも未だ見ぬ神秘に触れてもらおう。そこに、俺の夢の続きがあるんだ。」
「十分ここも神秘だろ。」
「本番はここからさ。」
俺たちは立ち上がって、門の向こうへと歩き出した。
門の前に立つと、シードルの腕が。
俺の前でどんどん大きくなっていき、異形の巨手が出来上がった。そして、その手で石の大門をこじ開けた。
それお前の手だったのかよ!!
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