三十五話 クラーケンだ
海に進むにつれて、雲行きが怪しくなってきた。
霧が濃くなってくる。
「迂回した方がいいか!?」
「いや、どっちみち直撃する。真っ直ぐだ。」
「了解!」
デントの指示に従って、真っ直ぐ走行を続ける。
しかし、横殴りの強風が吹いてきた。
「仕方ない、横に旋回しろ! 進路は見失うな。」
「オウ!」
数分後のことだ。
「まずい」
「なにが!?」
旋回した先に、一つの大きな王国が見えた。
「アーデルガルド王国だ。」
「アーデルガルド?」
「地下や天空の侵略を、ほぼ軍の強さだけで守っている軍事国家だ。多分、もう見つかっちまった。めんどくさいことになるぞ。これは。」
「なっ、軍の強さだけで……!」
デント曰く、テッドレッド王国は円柱形の山にあるという異様な地形とドラゴンで他国の侵略を守っているのに、この国はそれを必要としないくらい軍の威圧が強いらしい。
進路を更に大きく迂回して、王国を避けるように海へ向かう。
ドラゴンは海へ降り立ち、俺たちは船を借りた。
「早くしろ!」
「な、何をそんなに慌ててるんだ、デント! 後続がまだ来てねえだろうが!」
勇者パーティのメンバーが揃っていない。
海は天気がコロコロ変わるし、荒れたら飛べなくなるから浮遊魔法は厳禁だ。
だから勇者パーティ全員が乗れる船を借りたが、まだ彼らが着かないのはきっと、雨に巻き込まれてるからだ。
「ほらみろ! 霧が濃くなってきたじゃねーか!」
俺たちに怒っても仕方ねーだろ! なんだコイツ。
「ダモレ、時間があるうちに言っておくが、この挨拶、つまり海の神の参拝は、失敗に終わるケースもある。もしその時は近くの下宿場に泊まって、次の日だ。これは成功するまで帰れない。」
まじか。
「だいたい一日目で出来なかったら、数日かかるのがオチだ。俺たちの仕事量は今日にかかってる。」
そうなんだ。頑張ろ。
「俺は、明後日ホワイトニングを予約しているし、出来れば今日帰りたい。」
ホワイトニングもあるのかよ、この国。
「今日、多少危ない目にあっても、耐えるぞ。」
霧が濃いな、この中に行くのかほんとに。
遭難のオチもありそうだぞ。
「大丈夫だ。これくらいならいつも行ってる。」
すると、沖から小舟が流れて来て、停泊した。
その小舟から声がした。
「おい! デントか!?」
おっ、なんだ知り合いか。
「おい! デント!」
なんで無視してんだ、こいつ。
「おーい! デント!」
シュッ、キーーーン!!!
その瞬間だった。
小舟のやつは、一瞬でデントと剣を交えていた。
今あそこにいたのに!?
「ダモレ! こいつはアーデルガルドの勇者だ!」
「久しぶりだなぁ、デント!」
「勇者……!」
勇者がいるのか! 他の国にも!
多分デントと同じくらい強いはずだ。ことごとく攻略が難しいな、この異世界は!
激しい剣戟。勇者と勇者の戦い。
初めて見る剣同士の戦い。
辺りの集中が一点に集約し、掻き乱れる空気。
目で捉えられない速さの剣と、それを操る二人の剣士。
なんて……戦いだ!
絶え間なく響く鈍い剣音が、大きな一発と共に、ついに静寂を見せた。
デントが一本取る。
「まだまだだな。エリック」
「まっ、今日は暇つぶしよ。お前らはここに何しにきたんだぁ?」
「釣りにな。」
デント様ぁ! アトラシアマリンは無事ですか?!
あ。最悪なタイミングで後続が来た。
や、やばいんじゃね!? アトラシアマリン取られたりでもしたら……。さっきユーリィに釘を刺されたばっかりなのに……!
(後続の馬鹿野郎が!!!)
デントが脳内で叫ぶのが伝わってきた。
「なんのことだ! さっぱりわからない!
エリック!
さぁ! 今日は何尾取れたんだ!」
「二人で二十一匹」
「よ、よし! 俺らはその十倍は釣ってやる!
行くぞ!」
デントはその場をやり過ごすために、後続の言葉を誤魔化した。
いや無理があるだろ……。
俺たちはむりやり船出した。
「ほう?」
他国の勇者エリックの勘繰るような声が聞こえたが、聞こえないフリだ!!
⸻
「おい! いきなり大物だぞ!」
沖に来て、しばらくたった。
「なっ、これはやばい!」
「皆で引き上げるぞ!」
「なんで釣りしてんだよ!」
「だってデント様が言うから。」
「誤魔化したんだ、馬鹿野郎!!」
「ほんとにするやつがいるか!!」
今日デントうるさいなぁ。
ってか、デントに怒られる部下も相当だな。
大丈夫か? この国の勇者パーティは。
「クラーケンだぁ!!」
ザパァァァァァン!!
大きな足が海から数本伸びて、俺たちの船を掴み取る。
「な、なにぃ!?」
「海の悪魔釣ってんじゃねぇよ!!
バカもほどほどにしろぉ!!」
シャキーーン!!
ブチチチチィ!!
「デント!!」
「ダモレ! まずいことになったぞ。クラーケンは倒せないことはないが、かなり時間のかかる相手だ。クソっ、出来るだけ波が荒くなる前に倒すぞ!!」




