三十四話 アトラシア篇
異世界生活七日目の朝。
朝起きて病室を確認すると、ユーリィが寝ていた。少しだけ見惚れていた。顔色はすっかり良くなってきている。
リビングに行くが、イザベラさんがいない。
どこだろ。
廊下を歩いていると、とある一室のドアが開いて、エルーちゃんがハイハイで出てきた。
そのまま俺に気づかず、隣の部屋に移動するエルーちゃん。
「あっ、ちょっと待ちなさい! エルーちゃん!」
エルーちゃんが出てきたドアから声が聞こえた。
「イザベラさん?」
そのドアを覗くと、
「ちょっ! ダモレくん! ノックくらいしなさい!」
「ごっごめんなさーーい!!!」
着替え中だった。
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朝食を食べていると、いつもは見かけない顔が隣に座る。
「隣部屋のダズだ。よろしく」
メガネをかけた大男だった。
こんなゴツい人だったのか!
こんな人が部屋に引きこもって、何をしてるんだ。
すると、ユーリィが起きてきた。
「ダズ、ダモレ、おはよう」
「お、おう。大丈夫か?」
「大丈夫だ」
「ダズ、例のものはできたか?」
ユーリィは今日はもう外交官モードだ。
「今乾かしているところだ。もう少しで出来上がる」
「そうか。間に合いそうだな。ありがとう。」
「例のものってなんだ?」
「デントのレガリアだ。今はダモレが持っているからな。代わりのやつを頼んでいた。そう、ダズはレガリア職人だ」
「ども」
「ずっと引きこもってるから、国家秘密のレガリアの作り方を外へ持ち出さないと思ってな。雇ってるんだ」
なるほど、引きこもりの上手い使い方だ。
「そう言えばダモレ、今日はデントが迎えにくるぞ。朝食を済ませたら正装と着替えの支度をしておけ」
「どこへ行くんだ?」
「聖堂。そして海だ」
「キャハハ!」
「「「ん?」」」
三人の男の視線の先には、ハイハイで歩くパルフェさんと、それに跨ってはしゃぐエルーちゃんの姿が横切っていったのだった。(哀愁)
⸻
ご飯を食べ終わるとデントが迎えに来て、そのまま聖堂へ向かった。
デントの顔はまだ、パンパンに膨れ上がっているが、少し痩せたか?
聖堂の前には、白いローブの魔法使いたちが集まっていた。その真ん中にユーリィの姿がある。
「ユーリィ様! 準備が整いました!」
「わかった。では、供給を開始しろ!」
聖堂の前に集まった白いローブの魔法使いたちは、一斉に呪文を唱え始めた。
すると――
街の至るところに点在していた灯し火が、次々と青く輝き始める。
そして聖堂から続く水路に水が流れ出し、街全体に水の供給が開始される。
「……すげぇ」
俺は思わず、その光景に見惚れていた。
「ダモレ、行くぞ」
デントに呼ばれ、我に返る。
デントはすでにダズの作ったレガリアを装着していた。
俺も慌てて勇者のレガリアを装着する。
二人の後を追い、ユーリィ、デントと共に聖堂へ入る。
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中には、レガリアを身に着けた国の重鎮たちがずらりと参列していた。
その奥には、コーラス隊まで並んでいる。
……なんだこれ。
この前の礼拝とは、明らかに雰囲気が違う。
俺は聖堂の真ん中で止まっているよう指示された。
祭壇の前には、ユーリィ、レオリオ、カーシィの三人が立っていた。
大丈夫、俺も知らない二人だ。
儀式が始まる。
三人が顔を合わせ、同時に呪文を唱え始めた。
すると――
聖堂の天井が、まばゆい青白い光に包まれた。
うわ。
光が聖堂全体を照らす。
その中で、祭壇からゆっくりと一つの宝石が浮かび上がってきた。
青く透き通った、美しい宝石。
ユーリィはそれを白い布の上にそっと乗せる。
そして、そのまま俺の前へと歩いてきた。
「ダモレ」
ユーリィが宝石を差し出す。
「……これが?」
「あぁ」
後ろに立つデントを見る。
デントが小さく頷いた。
俺はその指示に従い、白い布の上から宝石を手に取った。
そして――
勇者の剣にある凹んだ部分へと、ゆっくり嵌め込む。
カチッ。
その瞬間。
剣から青い光が溢れ出した。
「勇者ダモレに、アトラシアマリンを託す!」
聖堂に声が響き渡る。
俺は剣を掲げ、声を張り上げた。
「御用命、賜る!」
「気をつけろ。ドリュー族や他国には絶対に渡してはならないぞ」
⸻
聖堂を後にし、デントと門まで一緒に歩いていた。
その時、デントが色々教えてくれた。
「……アトラシアマリン。
これは、水の恩恵を司る石。この石があるおかげで、テッドレッド王国は豊かな水に恵まれている。
そして今、その力を一時的に勇者へと預ける。
だからこそ――
国中の魔法使いたちは総力を挙げ、水の供給を開始していたんだ」
「なるほど」
「俺たち勇者パーティがアトラシアマリンを預かり、海の神へ挨拶に行く。
そして、その効力を延命させる。
それが、勇者に与えられた役目だ」
門の外では、すでに勇者パーティの面々が待っていた。
俺たちは彼らと合流し、出発地点へ向かう。
……しかし。
なんか気まじぃー。
この場にいる連中は、俺が本物の勇者ではないことを知っているんだよな。
それなのに――
屈強な男たちの精鋭に囲まれて歩いていると、
なんというか。
俺だけ完全にただのパンピーである。
「…………」
気まずい。
アラン先生もいないし、ティナも見当たらないし。
この空気に耐えられず、前を歩くデントに話しかけた。
「なぁ、デント」
「なんだ」
「俺、浮遊魔法使えないんだけど」
「お前はもう、その手段を持っているはずだ」
「あっ、そうか」
出発地点へ到着すると、俺は指笛を鳴らした。
ピユーーーイ!!
グアアアア!!
「アルバース」
その巨体を見上げる。
「今日もよろしくな」
アルバースが低く唸る。
「グアア……」
俺とデントはアルバースの背へ乗り込む。
なんでテメーも乗るんだ!
「勇者だからに決まってるだろ? よし」
デントが手綱を握る。
次の瞬間――
アルバースが大きく翼を広げた。
「行くぞ!」
グアアアアアアアア!!!
巨大な翼が風を巻き起こす。
俺たちは、青く輝く王国を後にして――
空へと舞い上がった。
⸻
アルバースの背中で、俺とデントは空を進んでいた。
「デント! 掴まってないと危ねえだろ!」
「掴まってるよ。二人乗りは楽でいいや」
そう言うとデントは、頭の後ろに手を組み、そのまま仰向けになった。
「お前がやっても、かっこよくねーんだよなぁ……」
「うるせぇ。……ダモレ、帯取れてるぞ」
「うわ、ほんとじゃん」
そういえば、これ。
前に着付けたときはティナがつけてくれたんだよな。
「デント、ティナは今日来てんのか?」
「……」
「デント?」
「くかー……」
「寝てんのかよ!」




