三十一話 指笛
異世界生活六日目。
俺は病室で目を覚ました。隣のベッドで寝ていたはずのユーリィは、もういない。
「だから早すぎだろ」
「エルーちゃん、おはよう」
「あうー」
リビングに行くと、エルーちゃんがご飯を食べていた。この子も早いよな。
「あら、ダモレくん。おはよう」
「おはようございます」
イザベラさんも早い。いや、俺が遅いのか、これは。
ぐう〜。
昨日の夜って、ご飯食べたっけ。
「イザベラさん、お腹すいたー」
「今準備してるから、顔を洗って待ってなさい」
「はーい」
そういえば、今日って何するんだろ。
まぁいいや。今日のメニューも美味しそうだ!
焼きたての黒パンに、目玉焼き、ハーブソーセージ。
それに野菜と豆の温かいスープと、季節の果物。
美味しかった。
エルーちゃんの口元を拭いてあげつつ、お皿の片付けを済ませ、とりあえず外に出てみた。
すると、そこには勇者一行のアランが立っていた。
「おはよう! ダモレ!」
いつも難しい顔をしているが、優しい人だということはわかっている。
「おはようございます。俺を待っていたんですか?」
「あぁ、ユーリィに頼まれてな。デントもティナもユーリィも、今日は忙しいはずだ。明日、大きな仕事があるからな」
「そうなんですね」
「そこで今日、俺が教えるのは――」
アランは指を折り曲げ、口に咥えた。
ピユーーーイ!!
「指笛だ!」
グアアアア!!
ズン!!
「アルバース!!」
屋敷の広い庭に、いつもの白銀のドラゴン――アルバースが降り立った。
「アルバースは今や、お前の必須の移動手段であり、パートナーだ。アルバースを呼ぶことができるようになれば、皆の浮遊魔法にもついていける」
「こんな豪華な運搬パートナー、他にないですよ! いつもありがとうな、アルバース!」
グアアアア!!
「今日はさらに、お前たちの仲を深めてもらう。そのためにも、まずは指笛からだ」
ヒューーーイ!!
「おっ? 筋がいいな!」
俺は学習能力が高いのだ。
いつもユーリィやティナの指笛を見ているから、少しだけ夜に練習していた。
「だが、指笛だけではドラゴンを呼ぶことはできん。ドラゴンはこの王国にかなりいる。だからこそ、名前を呼ばなければ指定したドラゴンは来ない。
指笛は合図だ。音で呼び寄せ、魔法で誰を呼ぶのか指定するんだ」
「呼ぶって、どうやって?」
「魔法だ」
あれって魔法だったんだ。
「お前が呼ぶのはアルバースだ。なら、音だけじゃなく、魔力でアルバースを指定する必要がある。
お前は昨日、魔法を一つ使えるようになったと聞いている」
「はい。黒い炎を少し」
「いい魔法だ! 一つ使えても、コントロールできなければ意味がない。魔法は魔力と法則の掛け算だ。今日はその法則を学んでもらう」
アルバースには、俺の合図で現れるように指示して、遠くへ行ってもらった。
ヒューーーイ!!
………。
ヒューーーイ!!
……。
音は出ている。
だが、魔法のように響かせられない。
「もう一度やってみろ」
ヒューーーイ!!
………。
「指に想いを込めろ。お前が魔法を使った時のように」
「想いか……」
ピユーーーイ!!
響いた!!
………。
ピユーーーイ!!
………。
ピユーーーイ!!
ピユーーーイ!!
ピユーーーイ!!
ピユーーーイ!!
………。
何回やっても来ない。
「音は悪くない。だが、お前はアルバースを『呼んでいる』んじゃない。『来てほしい』と思っているだけだ」
「法則はイメージが基本だ。魔法を出した時を思い出せ。お前は自分の未来をイメージした。だからできたんじゃないのか! それと同じだ!」
「……アルバース」
ドラゴンに来てほしいんじゃない。
アルバースに来てほしい。
ピユーーーイ!!
来てほしいんじゃない。
ここに来て、俺が乗ってやる。
ピユーーーイ!!
乗ってやるんじゃない。
アルバース――
「ここに来て、一緒に飛ぼう! アルバース!」
ピィィィィーーーッ!!
グアアアアアアアア!!
ズンッ!!
「……合格だ」




