三話 恐怖
「もう無理ゃあああああ!」
水魔法をぶっかけてきた男性が、俺を置いてとっとと去っていった、その数時間後の話だ。俺は早くも絶望の縁に立たされていた。なんで俺追いかけられてんのお!?
俺は一応岩山のふもとまで来ていた。道中にキメラやグリフォンなど未知の生物を上空に見て、興奮したのは言うまでもない。興奮と同時に襲われないかヒヤヒヤしたが。
「ひゃ~たっけーなぁ。そして断崖絶壁だぜ。こりゃ魔法使わないと登れねぇわ。」
ふもとにも小さく静かな町があり、何人か異世界人を見かけた。見慣れない装いを観察してどこで手に入るのか考える。
「まずは早急に服を手に入れないとな。どうしようかな。」
たまたま落ちていたグリフォンの羽を腰に巻いて、ある程度下半身は隠せている。大きさは2mほどあった。俺は困った時のクセで、後頭部をかいていた。すると武装した人間が視界に入った。
「…っ!」
ゾッと顔が青冷めた。
そうだ、肝心な事を忘れていた。俺の知る限り異世界に戦争はつきものだ。魔法を駆使して繰り広げられるバトルもののマンガやアニメはよく目にするが、よく考えたら野蛮だ。
代わり映えのない日常を過ごしていると、こういうのに憧れたりすることもあったが、いざ目の前にすると死とか苦痛が一気に近くなったと実感させられる。まあ一回既に死んでるんだけどね。ってグリフォン見た時に気づけよ俺。
あの武装した人間も、腰にさげた剣とか魔法で幾度となく人間に手をかけたんだろうなきっと。
殺人が日常的に行われている世界であるなら、人の命に対する価値観は前世の日本と比べると大きなギャップが生まれるだろう。
つまり何が言いたいかというと俺は今、人殺しの可能性がある人間が近くにいることに、そしてそんな人間が当たり前のように暮らしているだろうこの世界に、酷く恐怖している。
そりゃそうだろう。前世では人殺しや武装した人間が町でフラフラ歩いてたらは牢屋に入れられるし、まず生死を分ける出来事なんて、そうそう直面しない。
俺が願うのはただ、そういう世界で無い事のみ、頼むから平和な異世界ライフをおくらせてくれ。魔法使えないんだからさぁ。痛いのは嫌だぁ。現実を垣間見て急に弱気になるビン太氏であった。
どうせあの武器も雰囲気づくりの為のただのお飾りだろう、理想にすがる思いでもう一度そちらへ目をやると。
「ん?」
あの武装した人間が、こちらに向かって走ってくる。なんなら刃むけてないか。
ええええぇぇ!?
全身から汗が噴き出し、鼓動が激しくなる。
こ、殺される!
何故だか知らないけど、ヤバイ!
とにかく逃げなきゃ!
あれ、足が思うように動かない、もしかして、俺の足すくんでる?
クソ!当たり前だぁ。だってあいつ魔法使えて剣持っててガッチリ体型の男なんだよ?
魔法使えなくて軟弱な体でなんも装備してない俺と比べたら力の差歴然でしょ。
自分より強い奴が追いかけてきたらそりゃ誰だって怯むでs…なんも装備してない?
それだああああ!
「衣服を着ていない不審な人物発見!追え!」
なるほど衛士の方でしたか!聞いてください!かろうじて羽!巻いてますけど!それでもだめですか!こ、こういうファッションなんです!最先端なんです!
追い剥ぎにあったんですという用意していた言い訳も忘れ、俺は上手く動かない足を必死に動かす。
「もう無理ゃあああああ!」
だが武装した男に同じ装いをした仲間が加わり、そして噂の浮遊魔法を使い、ものすごいスピードで迫りくるので、俺は運動会で一等賞を譲ったことがなかった足にも自信を失い、諦めかけていた。
体と心と『イケメン』がありゃ十分だ。
服も必要だったね笑




