二話 イケメン
ビン太はイケてるメンズをイケメンと言っているわけではなく、イケてる顔面をイケメンと認識しているのでした。
「!?イケメンになってるぅぅぅぁぁぁ!」
それを聞いた男性は、自分で言うのか?けしからん!と叫んで去って行こうとした。
「待って下さい!ハァハァ」
俺は興奮を少し抑えて男性を引き止めた。
「さっきのって、魔法ですよね!凄いです、魔法使えるなんて!」
男性は眉をひそめた。
「何を言ってる。今の時代、魔法を使えない奴なんていないぞ。」
その一言で確信した、ここは異世界だと。
「だったら俺も使えますかね。」
「はぁ?あんた、寝ぼけがすぎるぞ。簡単な魔法ならふんばったら出るだろ。」
俺はうーんとふんばった。すると尻からマヌケで情けない音と共に臭い気体が放たれた。
同時にお腹辺りのモヤモヤがスッキリして笑顔になった。
これって毒魔法⁉︎治癒魔法⁉︎
「違う!」
「ところで、あなたはこれからどこへ向かうのですか?」
「テッドレッド王国に決まってんだろ。最近景気がいいからな。」
男性が指を指した方向には、雄大な平野に似合わない巨大な岩山が、遠くに高くそびえ立っていた。形状は円柱に近い。急斜面すぎるだろ、ほぼ直角だ。よく見ると頂きには城のような巨大な建造物群がある。あれがテッドレッド王国か、すげぇ異世界ファンタジーだぁ。
「ちなみにあそこに登るためには浮遊魔法が必要だぞ。」
え。
「残念だったな。つーかそろそろ隠したらどうだ、下半身。」
服が無い事をすっかり忘れていた。うん、下着もないのだ。俺は陰部を隠しつつため息をついた。
「はぁ。はいはいすいませんねぇ。ブスのチンを見せてしまっ…
イケメンだったぁぁぁあ!」
「けしからぁぁぁあん!」
さて、前世で最強だったイケメンという名の人種は、異世界でも最強なのか。異色の異世界サバイバル系ハイファンタジーここに開幕!
ってふざけんじゃねぇぞ。最強装備と最強魔法も揃ったうえでテンプレが完成すんだよ。テンプレでいいんだよ俺は!ったく今まで培ってきたのは一体なんだったんだ。運動も、前世の学問も、恐らく魔法の前では全て無力。
だいたい魔法すら使えないなんておかしいじゃねーかぁ!
…前世とはまるで真逆だな。
俺はため息を一つ零した。しかしすぐ前を向いた。
「…俺の切り替えの速さをなめるなよ。」
何をグチグチ言ってんだか俺は、俺が今まで生きて来たのは常人には手の届かない異世界みたいなもんだったじゃねぇか。期待も裏切りも理不尽も、努力で乗り切ってきたじゃねぇか。無力なんていわせねぇ、俺は努力が出来るという能力が備わってんだ。場所と状況が変わったぐらい大したことないわ!
体と心と「イケメン」がありゃ十分だ。
…後は運か。
未知の世界に一人で、そして無防備に放り出されたその不安感を、なんとか厨二心で誤魔化して前に進む。今はそれでいいはずだ。よし!
「もう無理ゃあああああ!」
水魔法をぶっかけてきた男性が、俺を置いてとっとと去っていった、その数時間後の話だ。俺は早くも絶望の縁に立たされていた。なんで俺追いかけられてんのお!?




