二十七話 休日
異世界生活四日目の朝。
「ふぁーあ。全然寝てねえ」
目にクマをつけながら、俺が自室で服を着替えていると、突然ドアが開いてパルフェさんが顔を出した。
「パルフェさん! 俺今着替え中ですよ!」
「あら、ごめんなさい」
「いいえ! 全然かまいません! 座っててください、お茶出しますよ!」
慌てて服を整える俺に、パルフェさんがふわりと微笑みながら近づいてくる。
「ダモレくん」
「えっ」
次の瞬間、パルフェが俺をベッドに押し倒した。
ガンッ!!
「イケないこと、教えてあげよっか」
「痛っっっでええええええ!!!!」
俺の絶叫が部屋に響き渡った。勢い余って俺の膝がベッドの角に強打されたのだ。
「膝打った!!! コブできてる!! ジーーーンってしてる!! なんてことしてくれるんだぁぁ!!」
「ご、ごめんなさい! 大丈夫!?」
パルフェがオロオロと手を彷徨わせる。
「癒し魔法とかないの!?」
「私使えなくて……」
「使えねぇ!!」
俺に本気で怒られたパルフェさんは、今にも泣き出しそうな顔になって、逃げるように部屋を飛び出してった。
「し、失礼しましたー!」
俺が一人膝をさすって悶絶していると、ドアの隙間から赤ちゃんのエルーちゃんが顔を出し、ハイハイで近寄ってきた。
「あはは、エルーちゃんおはよー……」
エルーちゃんは俺の痛む膝を小さくて無邪気な手でサスサスしてくれた。俺はエルーちゃんをギュッと抱きしめた。
「君だけだよ、俺の味方は……!」
エルーちゃんを抱っこして一階の食卓へ下りる。パルフェさんは反省して自分の部屋で大人しくしているらしい。
「今日もユーリィいねぇのか。」
エルーちゃんと二人で朝食を食べていると、玄関のベルが鳴り、「遊びに来たよー」とティナがやってきた。勇者パーティの寮は目と鼻の先にあるらしい。
エルーちゃんと楽しそうに戯れるティナに、俺はふと疑問を口にした。
「そういえば、デントは?」
「デント? 整形するんだってー。昨日パルフェさんにフラれたのが相当ショックだったみたい」
「整形?…ぶはっ!!」
リビングに俺の大爆笑が響く。
そこへマダムがやってきて、今日は午後から休みを取って実家に帰るためと、市場での買い物を頼まれた。ユーリィは昨日の書類仕事が山積みで動けない。さて、俺とティナ、そしてエルーちゃんの三人で買い物へ行くことになった。
身バレ防止のために黒いローブでフードを被ってエルーちゃんを抱えてお出かけが始まった。
市場は山の麓にあるので、俺は朝からバンジージャンプである。
ああああああああああああああぁぁぁぁ
(テッドレッド王国は円柱形の山、テッドレッド山の上に位置する王国都市なので、魔法を使えない俺は麓に行くには円柱の先端からダイブしないといけないのである。)
「セーフティデザイン!」
ティナが魔法でキャッチしてくれた。
エルーちゃんはなぜか喜んでいる。大物になるなこの子。
ティナとエルーちゃんと二人で市場の並ぶ道を歩き出した。
籠とエルーちゃんは分担で持つ最初は俺がエルーちゃんを持っていた。
すると、ちょっとした広場から、ダモレコールが聞こえた。
「ダ!モ!レ!ダ!モ!レ!」
覗いてみると上級貴族の子供と下級貴族の子供が一緒にコールしていた。
なんか、嬉しいし、誇らしい。
ティナが肘で突っついてきた。
「勇者じゃん。」
「うるせー」
さて、八百屋さんへ着いた。
めちゃくちゃ横に広くて種類が豊富だ。前世にはなかった食材もある。するとティナの野郎、俺がイザベラさんに渡されたメモを見て、
「玉ねぎとにんじんキャベツとトマト!先に多く見つけた方が勝利ねダモレ!罰ゲームもあるから!!」
「あっ、ちょっ!俺にエルーちゃん持たせてズルいぞ、ティナ!」
「イェーイ!!勝利!!」
俺が勝った笑。
「ハンデありで。ハンデありで!」
「ダーー!!もう!悔しい!」
「おーいティナ、罰ゲームってなんだ?」
すると後ろからくっさい臭いが漂ってきた。
「おう?これかぁ」
「ひぃいい」
「激辛ニンニクラーメンだってよ。エルーちゃん♪」
「やめてぇ、デュナミスラーメンはいやぁ!」
デュナミス?
出てきたのは、酸辣醤麺のような、地の底からマグマが湧き出すようなビジュアル。
なんて恐ろしさだ。
「い、頂きます。」
「ほうほう、レッドドラゴン唐辛子か。さぞ辛いんだろうな。」
火竜唐辛子である。それを特殊な油で漬け込んだ火竜の涙という激辛香味油が入ってるらしい。
「カッラーーーーー!!」
「ギャハハ」
「ヒィーーーヒィーーースーハースーハー」
「ギャハハ」
「ダモレ!テメーも食え!」
ティナ!笑った俺の口に!
「むぐっ。…。カッラァァァァアアアアアアアア!!!!」
「キャハハ!」
エルーちゃん笑い事じゃないよ?
その後2人でヒィヒィ言いながら完食した。汗だくで会計しに行くと店主が、「そこのご夫婦さん!可愛い赤ちゃんだねぇ!割引きしとくよ!」と言って、二人して一瞬時が止まった。
「ダモレ!息くっさい!」
ティナが目を萎んで鼻を摘んだ。
「ティナもクッセェよ!エルーちゃんが可哀想だ!」
そう言いながら入ったのはポーション屋だった。
ゴポゴポと、落ち着いた空間なのに俺たちの叫びが響いたので気まずくなった。
「いらっしゃい」
絵に描いたような老婆魔女がポーションを奥で作っている。優しそうだ。手前にはすでに完成したポーションが並べられており、日に照らされてキラキラとカラフルに光っている。
「キレー」
ティナがエルーちゃんを抱えてポーションを覗く。
すると、エルーちゃんがピクピク動き出した。
「ど、どうしたの?エルーちゃん」
するとエルーちゃんのパンツがパンパンに膨らんだ。
「お漏らしだ!!ポーションやばい!!」
俺はお漏らしがかからないようにポーションをどかす、すると。
ガシャン!!
ポーションが落ちて割れてしまった。
「わあ!」ティナの悲鳴。
慌てて拭こうとしゃがんだら、エルーちゃんのおしっこが頭からかかって踏んだり蹴ったりだ。とほほ」
市場の外れの広場に来た。
「よし、ここは誰もいない。頼む!」
「水魔法!!はぁ!!」
バッシャア
俺は下着になっておしっこをティナに洗ってもらった。
服とズボンは濡れてるからもう着れそうにないな、タオルで包んで持って帰ろう。
すると、残るのはローブだけか、裸ローブ…。なんか、初フライトを思い出すな。はは。
タオルで髪の水を拭き取っているとティナが尋ねる。
「良いの?さっきのポーション瓶高かったでしょ?」
「ん?あぁ。良いんだ。」
俺は割ってしまった瓶を買い取って袋に入れて持ってきていた。
「まぁ、ティナとエルーちゃんと買い物来た記念だな。エルーちゃんがお漏らしした店って言うエピソード付き、それだけで何倍もの価値がある。」
「…。なんかズルーい」
するとティナが袋の中の瓶のカケラを取り出し、
「クリスタルデザイン…」
静かに魔法をかけると、浮遊したカケラは一点に集まり美しく輝くクリスタルとなった。俺はそれを手に取り。
「すげぇな!ティナ!」
興奮しながらローブのボタンの上につけた。
「良いだろ!」
嬉しくて喜んでいたらティナが笑い出した。
「…ふふっ。やっぱりなんか、ちょっと変ね。」
「変じゃねーだろ!」
「たはは!」
「笑うなー!」
「あのさ、ダモレ…」
「ん?」
「セレスティア、助けにきてくれてありがとぉ。」
その時だった。
ズガッ!
土を突き破り、ハイハイのエルーちゃんのすぐ横から――
人の手が生えた。




