二十五話 試練
「ホッホッホッ見事だ、勇者ダ•モーレ。ティナ殿。地上人の威勢の良さ、実によい余興であったぞ。」
すかさずユーリィが一歩前へ出た。
静かに姿勢を正し、深く――それでいて一切の隙を感じさせない、洗練されたお辞儀をする。
俺たちも少しだけその真似をする。
「お喜び頂けて光栄にございます。セレスティア国王陛下。此度は我らをお迎えいただき、誠にありがとうございます」
「うむ。遠路遥々ご苦労であった。ホッホッホッ」
王は鷹揚に頷いた。
ユーリィは顔を上げると、穏やかな笑みを浮かべた。
「恐れながら、陛下。一つ、お願いがございます」
「申してみよ」
「我らの同行者、ティナをテッドレッド王国へ連れ帰る許可をいただきたい」
「……ホッホッホッそなたらは来たばかりではないか?」
「はい。しかし彼女は我々の国、テッドレッドの勇者一行の一員にございます」
「ホッ、それがどうした?」
「セレスティアの法において、他国から訪れた来賓には、歓待を受けた後、本人の意思によって帰国する権利が認められているはずです」
「……」
王の表情が変わる。
ユーリィは間髪入れず続けた。
「ましてや彼女はセレスティアの臣民ではなく、テッドレッド王国から正式に派遣された者。滞在を拒む理由がないのであれば、帰国を妨げることは、両国の友好関係にも影響を及ぼしかねません」
「しかし――」
「もちろん、陛下のお立場も理解しております」
ユーリィは王に言葉を挟ませる間もなく、なおも穏やかに言葉を続けた。
「だからこそ申し上げているのです。陛下がティナを快く送り出されたのであれば、それはセレスティアが他国の客人を尊重する、寛大な国家であることの証となるでしょう」
「ホッホッホッ」
王が黙り込む。
ユーリィは畳み掛けることなく、ただ静かに王の言葉を待っている。
その沈黙すら、彼の交渉術の一部だった。
やがて王が口を開く。
「……なるほど」
そして、苦笑した。
「そなた、随分と口が回るのぉ」
「外交を生業としておりますので」
「ふふ……。よかろう。」
「ありがとうございます」
「ホッホッホッ帰りたければ帰るが良い。下国民ども」
ユーリィは再び深々と頭を下げた。
すげぇ……。
一言も言い争ってない。脅してもいない。
なのに、気がつけば王の方から「帰っていい」と言わせている。
これが……外交官か。
しかし。
王の口元から笑みが消えた。
「――ただし」
空気が変わる。
「少し気に障った」
「逃げるぞ!!」
ユーリィの掛け声で、窓を割って飛び出し空中に投げ出されると、
大広間に爆発が炸裂した。
バガアアアァァァァァン!!!
「うわぁ!!」
「もう、お父様?少しやりすぎですよ?」
そんな声が聞こえた気がした。
圧倒的な強者の理不尽な武力。それが通用する世界だ。寛大かどうかなど王にはきっと興味がないんだ。
四人は隣の建物の屋根に転がり、その勢いのまま、外郭へ逃げた。
ユーリィは俺を抱え、屋根と屋根を飛び渡って走り続ける。しかし、笑い声と共に空からあの男が舞い降り、四人の前に立ちはだかった。
「やあやあやあやあ。オマチナサーイ。僕の『おもちゃ』を無断で持ち帰られては困りマスーネ。勇者ダ•モーレ!」
背中に白い翼を広げ、ヨハネが立ちはだかる。
「ヨハネさん!」
「ヨハネ!」
『強者は弱者から全てを奪う権利がある』
「それがセレスティアの掟です。」
次第に翼は黒くなっていき、手にドス黒い魔力を纏い、それを放ってきた。
「ブラックアロー」
矢のように、いやそれよりも大きい。槍のように黒い切先が大量に襲いかかる。
「リリース•ストレス!」
「オーバーレイ・デザイン!」
デント、そしてティナが武器を構え、襲いかかるヨハネの猛攻をギリギリの連携で防ぎきる!
その間に俺とユーリィは大きく旋回し、逃げの脱出を図る。
「フフフハハハハ。介護が必要な勇者とは情け無いですネェ。」
「デリート・デザイン!」
ティナが精神入れ替わり魔法(仮)を放つ。
「残念だなヨハネ!こちらがダモレだ!」
「精神が入れ替わったというのですか?」
剣技、プロパガンダ!(英雄の十字架)」
キイイイィン!!!
「くっ…」
予想外に強いデントの攻撃に圧倒されるヨハネ。
その隙に二人もヨハネを振り切ることに成功した。
命からがら王宮を飛び出す俺たち。
背後でヨハネは追ってこず、不気味に微笑んでいた。
「ニゲラレマシタカ……まぁ、このくらいのいざこざはセレスティアでは『よくある興』ですヨ。
また会いましょうネ。ダ•モーレくん。」
その言葉に気を取られ、勢い余って天空都市の外郭から飛び出してしまっ…
やばい!空中に投げ出された!!
ここは天空だ!下はもう、奈落の地上だぞ!!
視界がいっきに真っ逆さまになり、眼下に広大な雲海が迫る!
「うあああああああ!!!」
「ユーリィ!!」
「アルバース!!」
ユーリィが鋭く指笛を吹くと、雲を突き破って巨大な白銀の翼——ドラゴン(アルバース)が滑り込んできた!
ドサッ!と全員がアルバースの背中に飛び乗り、間一髪で空中落下を免れる。
「はぁ……はぁ……助かった……
ティナ…テメー二度とフラフラ着いて行くんじゃねーぞ…。」
「ダモレ!…ただ囚われてたわけじゃないよ。はぁ…はぁ…セレスティアの地上都市侵略の周期とパターン情報、しっかり盗み出しておいたから!」
ティナが巻いた紙を取り出した。それをユーリィがすぐさま取り上げ
「何!?…ティナ!すごいな!お手柄だ!」
その時、デントが満足そうな笑みでこちらを見ていた。
「なんだよデント、気持ち悪いな。ってかなんだその袋は」
「フッ……俺の戦果も見てくれ」
デントが逃走しながらなにやら持っていた袋から何かを取り出してやると、そこにはなんとロープでぐるぐる巻きに括り付けられた天使の従者、パルフェの姿があった。
「「「なにやっとんじゃテメェはーー!!!!!」」」




