二十四話 雲の上の現実
俺たちはセレスティアの大使館へ通された。
ヨハネは、私は仕事があるのでと言って去ってしまった。大使館では豪奢な部屋で豪華なもてなしを受けることになった。
「どうぞ、お召し上がりくださいませ」
給仕をしてくれたのは、澄んだ瞳と白い羽を持つ天使の従者、パルフェだった。
「パルフェと申します、私が給仕を務めますので、なんなりとお申し付け下さいね?」
その大人で可憐な立ち振る舞いに、俺の目が釘付けになった。綺麗だ。
目が離せない…鼓動も速くなる。
パルフェがこちらを向いてニコッとした。
ズキューン!!
これが……恋か!!
「……天使って本当にいるんだな」
「ああ……女神様かと思ったぜ……あの人なら結婚してやっても良い」
「はあ?おいデント、身の程を知れ!このブサイクが!」
「なんだと?この変態裸族ド平民!」
「ら、裸族!何故それを!?」
「俺が教えておいた」
「何故だユーリィ!?」
俺の過去の黒歴史を唐突に暴露され、思わず叫ぶ。
「デント、イケメンの俺を差し置いてパルフェさんと結婚だと!?あの人は俺と清廉潔白なお付き合いから始めるんだよ!」
「勇者でもないテメェが相手されるわけねぇだろド平民!」
「「パルフェさんは俺の——」」
ボカッ!
「騒ぐなバカ共!」
ユーリィの容赦ない両手パンチが俺たちの頭頂部に炸裂した。二つの巨大なコブを作って床に沈む俺とデント。
そこへ、優雅な羽ばたきと共に美しい姫のような天使が現れた。通った後にキラキラとエフェクトがつきそうなビジュアルと立ち振る舞いだ。
「幼女だ。」
「幼女だ。」
ボカッ!
「姫様だ!」
「ふふ、仲が良いのですね。私、第32代セレスティア王姫、ミカエルと申します。」
「姫様直々に挨拶に来てくださるとは、なんたる光栄。」
ユーリィが一礼する。
「地上人の来賓なのです。丁重に扱わないと。」
「ご厚意、いたみいります。して、ティナはどこに?」
「後でティナ様のところへお連れしますが、少々お待ちください。皆様、よろしければバルコニーへどうぞ。準備が整う間。セレスティアの街並みをご案内いたしますわ。」
「うわぁ、すげえ」
バルコニーに出ると、目下に広がるのは洗練された白銀の街並みだった。どこを見ても上品で淑やかな空気が満ちている。
「素晴らしい街でしょう? セレスティアは生まれつき強い力と美しさを持つ『持てる者』が集う場所なのです」
モテる者?
ミカエルは微笑みながら、天空都市の端を指さした。
「セレスティアの『掟』は極めてシンプルです——『強者は弱者から全てを奪う権利がある』。
弱肉強食の世界です。常に己を見下されないよう、誇り高き精神での振る舞いが求められているのですよ?」
確かに国民の一人一人が高潔さと色気を纏っている。雲の上の存在とは良く言ったものだ。
本当にモテる者達なのだろう。
雲海が途切れ、地上が見えた。
「あ、あそこに村がある。」
直後だった。
天導騎士団が降り立っていき、侵略を始めた。
「なっ!?国が襲われてる!?止めなくていいのかよ!!」
するとそこに王女の従者が現れ、
「姫さま!村です!」
「どうやら、私の出番のようですね」
そう言って、ミカエルは真っ直ぐ上に浮遊していき、やがて国を一望できる高さで留まった。
すると天使たちが一斉にセレスティアの真ん中に聳え立つ聖堂に祈りを捧げ始める。
神殿の最上部――
頂点が、黄金色に輝き始めた。
ゴゴゴゴゴゴ
「天の神よ。今こそ、我らに恵みを――」
「――ゼニス・レイ。」
そして。
ズドォォォォン!!
セレスティアの底部から巨大な光の束が地上へと放たれた。
光柱が大地に突き刺さる。
遠くに見える地上の村が光に包まれた。
「……サクション。」
その瞬間、地上の魔力が――
水が――
大地の生命力が――
光の中へ吸い上げられていく。
コォォォォォオオ!!
天頂から黄金の光柱が地上へ降り注ぐ。
一見すれば、まるで天から祝福が降り注いでいるようだった。
しかし、実際の所行っているのは一方的な略奪。
美しく破壊されていく国。脳が理解を拒んで狂いそうだ。
「なんて…光景だ。」
「あぁ、天の神よ。ただひたすらに…感謝を……。」
空に祈りを捧げ、一筋の涙をこぼした後、上空から舞い降りてきたミカエルが口を開いた。
「セレスティアの美しさは、地上世界のエネルギーを養分として吸収することで成り立っているのですよ。地上世界の皆々様にはいつも感謝しています。
……。壊しても壊してもまた立ち上がり、新しい文明を作っていく。私達はそのおかげで、莫大な富を得ました。」
「くっ……!」
可愛く純粋な声で、なんて恐ろしい言葉を吐くんだ!
「ぐっ……」
胸の奥が締め付けられる。
息が詰まる。
抑えようとしても、止まらない。
「ぐあああぁぁぁ!!」
突然、堰を切ったように涙が溢れた。
頬を伝い、滝のようにこぼれ落ちていく。
「ダモレ!」
ユーリィが声を上げる。
「……テッドレッドも、こうなる可能性はあった。
でも、それをお前が救ったんだ」
「ああぁぁぁあ。…そんなっ。」
膝の力が抜けそうになった。
「こんなにも呆気ないなんてな。…。」
デントも国が滅びゆく光景を見つめたまま、小さく呟いた。
「デント、勇者にはこれを守る責任がある。」
「う。…うるせぇ。……わーってんだよ。」
目の前で行われた圧倒的な略奪と破壊。俺たちはその恐ろしい現実に、怯えと戦慄を隠せなかった。
ほどなくして、王宮で王の謁見へと向かうことになった。
王はこの弱肉強食の世界の頂点。一体どんな人間なんだろう…。
ミカエルに連れられて、げっそりしたままエレベーターに乗った。
「ダモレ、王の謁見だ。背筋を伸ばせ。」
「わ、わかってる。」
怯える俺たちを乗せたエレベーターが緊張と共に昇り詰め、王宮の大広間の扉が開いた。
しかし、その緊張はある形でぶっ壊されることになる。
大広間の中央で、ティナが王と大勢の貴族たちの前で堂々と身振り手振りを交えて叫んでいたのだ。
「『俺たちが帰ってきたんだ!!絶対負けない!!今こそ!!皆んなで闘う時だ!!……そ、そうだ!!俺の名前はダモレ!!皆の者!!セレスティアにその名を轟かせろ!!俺に続けーーー!!!!……スゥ。ダ!モ!レ! ダ!モ!レ!』」
広間に響き渡る全力のダモレコール。
「ばかばかばかばか!何やってんだティナ!恥ずかしいからやめろバカ!」
俺は顔を真っ赤にして叫んだ。
「てへ?」
可愛く首をかしげるティナに、俺の怒りが頂点に達する。
「てへじゃねーよ!保護者に一言言ってから行け!ってか行くな!」
パチパチパチパチ……。
玉座に座るセレスティアの王が、満足そうに手を叩いた。
「ホッホッホッ。見事だ、勇者ダ•モーレ、ティナ殿。地上人の威勢の良さ、実によい余興であったぞ。」




