二十三話 外郭港
白銀に輝く巨体——天空都市セレスティア。
雲の上に浮かぶその街は、幾重もの巨大な環と尖塔で彩られ、滝のように水が雲へと流れ落ちている。荘厳で、あまりにも圧倒的な光景だった。
す、すげえ。テッドレッド王国を見た時は脳内にケルトBGMが流れたが、セレスティアは壮大なオーケストラが流れている。
しかし、空気に混じる冷気と、絶え間なく響く鐘の音が、ここが歓迎された場所ではないことを嫌でも思い知らせてくる。
「あれが……セレスティアの全貌か……」
「すげぇ……本当に浮いてやがる……」
隣でデントも圧倒されたように呟いている。
「感心している暇はないぞ」
一番前に座るユーリィが、手綱を握り直し声を低くした。
「セレスティアは結界で守られている。正規の港以外から侵入すれば、天導騎士団の迎撃を受けることになる。アルバース、東側の第三外郭港へ向かってくれ!」
グアアアア!
アルバースが低く咆哮し、翼を広げて滑空する。
セレスティアの東、第三外郭港へ降り立つ。
そこには豪華な飛行艇の帆船が停泊していて、セレスティア以外の天空都市との交易を思わせる。白い鎧に身を包んだ兵士たちが整列しており、その中央から緑色の小鳥を肩に乗せた騎士が歩いてきた。
「ようこそ、セレスティアへ。私は港衛シメオンである。」
「外交官ユーリィ・クラネルだ。アポ無しで訪れてすまない、大事な用があってきたんだ。」
「かまいませんよ?アポ無しの来客はセレスティアではよくあることです。ましてや、天導騎士団の迎撃を回避してこちらの外郭港にいらっしゃって下さったあなた達は律儀なお客様だ。丁重にお迎え致します。」
「ありがとう。」
「しかし、ドラゴンはこちらで預からせていただきます。心配ありません。私は動物を愛する性分でして、決して悪いようには致しません。」
アルバースもこの男に懐いているようだが、大丈夫だろうか。
「私を知らないあなた達が警戒するのは当たり前です。しかしながらお約束致しましょう。ドラゴンには鎖を一切付けません。必要とあらば自分の意思で国に帰られるよう解放致します。」
「お心遣い感謝します。その言葉、信用致します。」
「では、こちらへどうぞ。」
厳重な入国審査と魔力チェックが行われ、港奥にある内郭への入り口に案内される。扉を開けると、俺たちの目の前に見覚えのある男が空から降り立った。
そう、ヨハネだ。
「やあやあやあやあ。ゴキゲンヨウ!遠路はるばるようこそお越しくださいマシータ。テッドレッドの勇者様。」
ヨハネは薄く笑みを浮かべ、俺たちに軽く会釈した。
「…わざわざドラゴンに乗って追いかけてくるとは、随分と仲が良いんデスーネ。」
「コイツがヨハネか!」
デントが武器の柄に手をかける。
「ティナはどこだ!返してもらうぞ!」
俺は本題から言った。
「返す?オヤオヤ、人聞きの悪い。」
ヨハネはくすくすと笑い、翼を軽く羽ばたかせた。
「彼女は『自分の意志』で僕についてきたんデスーネ。天空世界の神秘に触れたいと、目を輝かせてネ?誘拐だなんて、濡れ衣もイイトコロデス。」
「ぐっ……」
言い返せないデント。確かに友人の証言通りだ。
ユーリィが一歩前へ出る。
「そうであっても、彼女は我が国の重要関係者だ。無断での連れ出しは外交上の問題になる。本人と会わせて直接真意を確かめさせてもらいたい」
「ふむ……」
ヨハネは顎に手を当て、不気味な瞳で俺たちを、特に俺をじっと見つめた。
「イイデショウ。君たちを『お客様』として城へ案内してアゲマーショ。……ただし」
ヨハネの笑みが深くなる。
「セレスティアの掟に従ってもらいますヨ。『勇者』ダ•モーレ君。」




