二十一話 ヨハネ
夜、外交院の庭で宴の茶会が行われた。
宴だけど形式は茶会なのである。
その一つのテーブルで俺とティナはホールケーキを取り合っていた。
「なんか今日は甘いもんの気分だぜ!このホールケーキは俺のモンだ!あむっはむっおむっほむっ」
「半分は私のだからね!あむっはむっはむっ」
「ティナ!勇者に献上しろ!今日の主役は俺一人だ!あむっほむっはむっ」
「ダモレ、さっきまであんなにカッコよかったのに。あむっはむっあむっ」
「今もカッコいいだろ。」
「鼻にクリームついてるよ。」
「……。」
「ぷふっ。」
「いちごもーらいっ。」
「あぁ!私の特大いちご!」
「うまっ!」
「返せ!いちご泥棒ー!」
「お前ら落ち着いて食え。」
騒がしい二人を頬杖をついて眺めながらユーリィが呟く。すると、
「全く呑気なもんだぜ。凱旋をやり切っただけで本当の勇者みたいに大啖呵きりやがって、実力バレたらどうすんだっつーの。」
いやーな声がした。
「「デント!」」
俺は音を立てて立ち上がった。
「じゃあテメーが歩けってんだ。勇者デント!」
「ダモレ声がでかい!事情を知らない人もいるんだ。」
ユーリィに窘められたからもう呼び捨てでいいよなコイツ
「また嫌味言いに来たのか、デント。」
「別に?仮初めの勇者の気分はどうだったか聞いて、快感だったんならチップでも貰おうかと思ってな。」
「へっ、先に受け取ったのは俺の方だ。返せなんて都合が良すぎるんじゃねえか?」
なんか、上手いこと言えたぞ。
「チッ!せいぜい感謝することだな!ザコ勇者。」
「こっちのセリフだバーカ!」
去っていくデントと入れ替わりで、アランがやってきた。
「ほんとに素直じゃないな。あいつは。」
「アランさん。どういう意味?」
「勇者ダモレの凱旋を見て、あいつ自身、揺さぶられるものがあったんだと思う。
羨ましいとか。かっこいいとか。気持ちよさそうとか。悔しいとか。何を思ったか定かではないが、少なくとも普段のあいつはあんな風に人に関心を示さない。
今回の代役、あなたが引き受けてくれて本当に良かった。ダモレ。ありがとう。」
副団長アランと握手を交わした。
なんか、やって良かったな。本当に。
するとティナがいらんこと口を挟んだ。
「ダモレはデントのこと、勇者だと思ってないもんね?」
「そ、そんなことねぇよ!!あ!俺のホールケーキが!もう!無い!」
すると、俺の後ろに立っていたユーリィが何かに気づき、後ろに振り向いて空を見上げた。
「何か、来る…!」
「やあやあやあやあ、チジョウジンのミナサマ。」
そう言いながら、空から直立で降りてきた白い翼の生えた人間。地上寸前でヒラリと止まり、ゆっくりと降り立った。
参列者の注目が一身に集まる。
「ハジメマシテ、私天使であり、セレスティアの大使でもある。天大使、ヨハネと申シマス。以後、オミシリオキーヲ!」
飄々とした態度の中に冷徹な眼差しが宿る。この人、絶対只者じゃない。
「サテ、方々の代表者はドコデショウカ。」
「私だ!テッドレッド王国外交官、ユーリィ・クラネル。大使であられるなら私が対応しよう。天空都市セレスティアの大使、ヨハネ様。今回はどういったご用件で。」
「ウチの都市が近くを通りかかったので、ついでに挨拶をと。それと、勇者ダ•モーレとはどういった人間なのか、一目見ておこうとオモッテネ。」
ヨハネが胸に手を置いて一瞥すると、ダモレを探すように眼光が光った。
ティナが小声で話しかけてきた。
「ダモレ、隠れた方がいいんじゃない?」
すると、ヨハネの耳がピクリと動いた。
「やあ、君か!勇者ダ•モーレ!」
ヨハネがこちらへ来た。ティナ焦って少し逃げた。
「あいつ地獄耳じゃんっ。ダモレ、頑張れっ」
テメェ!
握手を求められたので、手を差し出した。
清潔な手袋が手に触れ、握ってきた。
「よ、よろしく。」
「君が、…勇者?」
ゾクッと背筋が凍った。疑われてる!?
や、やばい!その時だった。
貴族の女性二人が場も弁えず、ヨハネを押し退けて話しかけてきたのだ。
「ねぇ勇者さまぁ?あちらでちょっと話さない?」
「勇者さまは甘党なのかしら、あちらに美味しいクッキーがございますわ?」
は!?今!?あんたら、今退けたのセレスティアの偉いさんだぞ!
けどなんか良い匂いだー。フローラルで吸い込まれるような、、ん?酒の匂い?
「あちらにお連れしますわよ?」
「あら、二人だけズルい!!私たちも混ぜてよ!」
「そうよ!うちらも混ぜなさいよ!」
「ダモレさまー!!私の実家で作っているハーブティーですわぁ!」
「勇者さまー!お肩をお揉みしますわぁ!」
だっ!誰だ!茶会に酒持ち込んだやつは!み、身動きが取れねぇ!
「ちょっ、ちょっとティナ!助けてくれ!」
「おっ、あっちにモンブランあるじゃん。取りにいこーっと。」
おおおおい!!
ドドドドド!!
「「「ダモレさまーーー!!!」」」
更に女性の「まとまり」が来た!
ドドドドド!!
「うああああああああああ!!」
モテるタイミングってあるだろーーー!!
俺はその雪崩に流されていった。
「ヨハネ様…。」
「…オチコンデマセーン!
……。しかし、少々驚きましたネ。脳あるグリフォンは爪を隠すといいます。あなたの国も、複雑なようデスネェ。ユーリィ殿?」
「失礼な対応、申し訳ございませんでした。」
「いえいえいえいえ、宴の席に邪魔をしてしまい、こちらの方こそスミマセンデシタ。また、改めて伺うと致しましょう。」
ヨハネはニヤリと笑った。




