二十話 空中都市
「あぁ、セレスティアだ…。」
テッドレッド王国に、大きな影が落ちる。
さっきまで歓声に包まれていた街がざわざわと騒ぎ始めた。
ドラゴンたちが一斉に空へ舞い上がった。
王国軍も武器を構える。
先ほどまでの祝祭の空気が、一瞬で消えた。
「…………。」
俺も空を見る。
あまりにもデカい。
ゴォォォォォン……
脳内に重低音がのしかかる。
空に浮かぶ都市そのものが、俺たちを陰惨に睥睨しているようだ。
俺は、ふと街を見た。
誰もが空を見上げ、息を呑んでいた。
歓声や鬨の声は鎮まり、緊迫していた。
皆んな、怯えてる…!
(今日は、身分の格差に関係なくテッドレッド王国が一丸となって闘う日だ。絶対に成功させなきゃならない。)
ハッ
(そして更に午後、凱旋パレードである人を歩かせることで、セレスティアにテッドレッド王国の士気と威厳を見せつけるんだ!!)
ユーリィ…。そうだ。
今この時が、一番大事な時なんだ!!
そして今、勇者は俺なんだ!!
「負けるな!!テッドレッド王国!!」
俺の声が響き渡った。
「怯むな!!テッドレッド王国!!」
「今こそ!!この国の威厳を見せつける時だ!!」
「俺たちが帰ってきたんだ!!絶対負けない!!今こそ!!皆んなで闘う時だ!!」
声には、少し震えが混じっていた。
皆が俺の方を向いた。
怖かった。逃げたくなった。
でも、きっと勇者にはそんなことは許されない。すると、数秒後。それに応える者がポツポツと声を上げた。
「勇者さまーー!!!」
「そうだ!!闘うぞ!!」
「ダモレ様ーー!!」
皆んな俺の次の声を待っているようだった。
どうしよう!考えてないよ!!
額から汗が流れ口に入った。
再び少し沈黙が訪れた。そこに、
「ダモレーーー!!!」
誰か、聞き覚えのある声が聞こえる。その声に駆り立てられ、俺の檄は続いた。
「そ、そうだ!!俺の名前はダモレ!!皆の者!!
セレスティアにその名を轟かせろ!!俺に続けーーー!!!!スゥ…。ダ!モ!レ!
ダ!モ!レ!
ダ!モ!レ!
ダ!モ!レ!」
俺は腕を突き上げてコールし始めた!
「勇者様の檄だ!!!皆の者続けーー!!ダ!モ!レ!ダ!モ!レ!」
難しい顔をしているアランも、先導に加担してくれた。
「ダ!モ!レ!」
「「ダ!モ!レ!」」
「「「ダ!!モ!!レ!!」」」
「「「「ダ!!!モ!!!レ!!!」」」」
「「「「ダ!!!モ!!!レ!!!」」」」
「「「「ダ!!!モ!!!レ!!!」」」」
士気は爆上がりした。
ハァハァ…。
息も上がっていた。
高揚感というより安堵だった。
ユーリィがこちらを見て目を丸くしていた。
「なんだよ。」
「別に、本当に勇者になれるかもしれないな。君は。」
「なんだって??」
「なんでもないよ。」
「ティナもいつまで笑ってんだ!」
ティナはひと通り笑った後、ダモレコールに参加した。
「「「「ダ!!!モ!!!レ!!!」」」」
「「「「ダ!!!モ!!!レ!!!」」」」
「「「「ダ!!!モ!!!レ!!!」」」」
鬨の声はセレスティアが去るまで国中に鳴り響いた。
「セレスティアが去ったぞおおお!!!」
「「「うおおおおおあおあおあおあああ!!!」」」
「「「我らの勝利だぁぁああああああ!!!」」」
「「「うおおおおおあおあおあおあああ!!!」」」
歓声を背に、俺たちは王宮の廊下を歩いていた。
一歩。
二歩。
三歩。
「…………。」
もう限界だった。
「ダモレ?」
前を歩くユーリィが振り返る。
俺は何も言わず、そのままユーリィに抱きついた。
「うおっ!?」
「……疲れた。」
「え?」
「めちゃくちゃ疲れた……。」
俺はユーリィの胸元に顔を埋める。
「人多すぎ……。」
「……ははは。」
「ずっと見られてた……。」
「うん。」
「笑顔作るのもしんどい……。」
「うん。」
「ちょっと、調子乗りすぎた。俺……勇者向いてないかもしれん……。」
異世界生活二日目。イケメンであることが初めて「勝ち組」だけじゃなく、「責任」になった。
俺はずっと
「イケメンなら人生勝ち組!」
だと思ってた。
でも実際にイケメンとして人々の前に立つと、
「見られる」ことには「期待される」ことも含まれていることを知った。
ユーリィは少し黙ってから、俺の頭に手を置いた。
「よく頑張ったな。」
その一言を聞いた瞬間。
体から力が抜けた。
「……あぁ。頑張った。」
今日はもう何も考えたくない。
ただなんか、この人に抱きついていたかった。




