十九話 聖堂
俺の凱旋は、遂に始まった。
「勇者様だ!!」
「お帰りなさい!!」
「ダモレ様ーー!!」
耳をつんざくような歓声が、街中から降り注ぐ。
こんなに……人がいるのか。
歩く。
一歩。
また一歩。
歓声が大きくなる。
「勇者様ー!」
「かっこいい!!」
「ダモレ様ー!!」
……なんだこれ。
気持ちいい。
めちゃくちゃ気持ちいい。
緊張が解けてきて、
視界が急に画質4Kになった。
道の両脇には、老若男女がひしめいている。
子どもが手を振っている。
大人たちも笑顔でこちらを見ている。
花びらまで舞っている。
俺は、その真ん中を歩いている。
ついさっきまで、窓から見た歓声の中心に、俺は今歩いてる。
はははっ
なんて壮観なんだ。
誰か今、俺の姿をカメラに納めててくれ!絶対に映える!
昔の俺が見たら、腰を抜かすんじゃないか?
そう思った瞬間。
胸の奥が、少しだけ痛んだ。
――俺は、昔こんな景色をずっと欲しがっていたんだっけ。
「ユーリィ。」
「あぁ、その笑顔が見られて良かった。ダモレ。」
凱旋を歩き終え、
俺たちは聖堂の前に立った。
一度歓声の方へ振り返り、手を挙げて、その手を胸に置いた。
拍手が巻き起こる。
俺はレガリアを取り出して装着する。
聖堂の巨大な扉が開いた。
中は静寂に包まれていた。
外の歓声が嘘みたいだ。
果てしなく高い天井。
美しい装飾。
そして、中央には海神を祀る祭壇。
俺はその前に歩いて行く。
するとユーリィが小声で教えてくれた。
「ここでは、勇者として帰還できたことを海神に報告するんだ。」
「……俺が?」
「今日は君が勇者だからな。」
「そうか。ってかなんで海神なんだ。」
「ここは昔、海だったんだよ。そしてその海底には神殿アトラシアスがあった。神殿アトラシアスはその昔、凄まじい魔力爆発を起こし、その爆発によって、大地そのものを隆起させた。」
それによって出来たのが巨大な円柱形の山。今のテッドレッド山だ。」
今立っているこの山そのものが、この国の歴史だったらしい。
「そして神殿アトラシアスの名残りが、この聖堂、アトラシアスだ。海神を祀る場所として、今もこうして残されている。
だから勇者は、ここで海神に帰還を報告するんだ。」
そうか。
俺は祭壇の前で膝をつく。
静かに目を閉じる。
何を祈ればいいのか分からない。
だから、素直に思ったことを祈った。
――俺をここまで連れてきてくれた人たちが、これからも無事でありますように。
シードル。
ユーリィ。
イザベラさん。
エルーちゃん。
そして、この国の人たち。
ほんの少しだけ、そんなことを願った。
そして次に――王宮。
大広間には、たくさんの人が集まっていた。
さっきまで街を歩いていた時とは比べ物にならない。
空気が重い。静かすぎる。
俺の足音だけが響く。
「……緊張してるか?」
ユーリィが横から聞いてくる。
「当たり前だ!」
「大丈夫だ。」
「その根拠のない大丈夫、今の俺には重いんだよ。」
「ハハハッ。」
笑うな!
俺は王宮の中央まで歩く。
そして勇者一行は俺の後ろに並んだ。
そこに、宝剣を持った近侍が現れた。
「勇者ダモレ。並びに勇者一行。」
「……はい。」
「そなたらの功績を称え、王国英雄の称号と、その証たる宝剣を授ける。」
これが……勇者。
これが……国の象徴。
今まで街の人たちは俺を見て歓声を上げていた。
手を振れば喜んでくれた。
みんな笑っていた。
でも。
その笑顔の一つ一つの向こう側には期待があるんだ。
勇者なら、この国を守ってくれる。
勇者なら、勝ってくれる。
勇者なら、民を救ってくれる。
俺はさっきまで、ただ楽しかった。
「イケメンの俺が、こんな大勢に見られてる!」
そんなことを考えていた。
でも違う。
これは遊びじゃないんだ。
この国の象徴として立つ以上、俺の失敗は、俺だけの失敗じゃない。
俺の言葉も。行動も。表情さえも。
全部が「勇者ダモレ」として見られる。
「こんなに重いんだ。」
勇者に向けられる期待の重さがこの宝剣からビリビリと感じられた。
「大義であった!」
バタン!
授与式が終了し、大広間の外へ出る。
もう終わり?と聞くと
まだ、最後に一つ仕事がある。
と言われて、城の街が一望できるバルコニーに連れて行かれた。もちろん勇者一行も一緒にだ。
日はもう夕暮れに差し掛かっている。
そして、見下ろすと街の人たちが皆んな俺の方を向いて、静かに見守っていた。
「ダモレ、俺の合図で片腕をあげるんだ。」
あ、あぁ
拡声魔法が響きわたる。
「勇者ダモレ並びに勇者一行の帰還である!!」
俺が皆から見えるところに出ただけで、
「うおおおおおおおお!!!」
大きな歓声が上がった。
すると勇者一行の中から、副団長が一歩前へ出た。
「副団長アランである!地上世界の者ども!!我々が来たからにはもう!!地下世界、天空世界には絶対に負けない!!」
俺が横をチラ見すると、
ユーリィが、ものすごい焦った顔をしながら何かジェスチャーしている。
……え?
いつから合図してたの!?
俺は慌てて腕を上げる。
そして――
「おうよ!!」
声を張り上げた。
「俺たちは負けない!!」
シーーン。
うわ絶対タイミング間違えた。終わっ…。
「うおおおおおおお!!!!!」
歓声が上がった。
助かったぁ泣。
ユーリィが笑いながらバンバン背中を叩いてきた。
このやろう!!ティナも大笑いしている。後で覚えてろ!!
そして――
「テッドレッド王国!!」
アランが叫ぶ。
「万歳!!」
「「「テッドレッド王国!! 万歳!!」」」
一人。
また一人。
そして街中から――
「万歳!!」
「万歳!!」
「テッドレッド王国!! 万歳!!」
歓声が膨れ上がっていく。
その時だった。
ゴォォォォォン……
巨大な鐘の音が響いた。
街の人々が空を見上げる。
「……?」
雲が動く。
夕焼けの空。
その向こうから巨大な都市が姿を現した。
「…………なぁ、ユーリィもしかしてあれ。」
俺は息を呑んだ。
空に浮かぶ都市。
街そのものが、雲の上をゆっくりと進んでいる。
「あぁ、セレスティアだ……。」




