十七話 決意
「ユーリィ、ちょっと、考えさせてくれ。」
俺は駐屯地から少し離れ、王国が一望できる丘の上まで来た。
テッドレッド王国。
巨大な円柱形の山の上に広がる街。
今や俺にとって、関係のない場所では無いと思う。でも、まだ全然知らない国。
あの街を、俺が勇者として歩く。
想像してみる。
歓声。拍手。人々の視線。名誉。金。
……たぶん、ものすごい待遇を受けるんだろう。
俺みたいな何者でもない人間が、一気に人生の頂点まで登れるんだろう。でも。
「……怖ぇよ。」
ずっと見られる。
ずっと期待される。
失敗すれば失望される。
勇者としての行動一つ一つが、この国の象徴になる。
俺はそんな重荷を背負ったことがない。
背負いたくなかった。
「だから俺、断っちまったんだよな。」
「……何を?」
「うわっ!?」
突然横から声がした。
「びっくりした?」
「なんだよいきなり!」
「あはは、ごめんごめんたまたま通りかかって」
こやつは、勇者パーティのティナって呼ばれてた子だ。ティナは俺の隣に腰を下ろした。
「ダモレくん…だよね。正直さ、勇者についてどう思った?」
「は?」
「デントのこと。」
「あぁ……。」
俺は少し考えた。
そして。
「いや、国の象徴としてアレはダメだろ。」
「…ぶっ。」
ティナが吹き出した。
「人に対する態度は悪いし、嫉妬深いし、ブサイクだし!あんな奴が国の顔ってどうなんだよ。」
「ははははは!」
「だいたいテメェが逃げずに黙って歩いてりゃこんなことにはならなかったんだってんだよ!」
「あっははははは!」
「そんな笑うか!?」
「だって…!本人が聞いたら絶対怒るよ!」
「そりゃ怒るだろ!」
「あはははは!」
俺は街を見る。
「でも、外からならなんとでも言えるということもわかってる。
実際に勇者として期待される重圧なんて、俺には分からない。命懸けで戦ったこともない。」
「…。」
でもあいつは昔の俺に似てる。
報われないから努力して、努力したから報われると思ってる。報われなかったら他人のせい。責任から逃げ続けてる。報われたらわがままが通る世界だと思ってる。わかったような口聞いて当事者になろうとしない。そんな感じだ。
「俺が偉そうにデントを否定する資格なんて今はきっとないんだ。」
ティナは少し黙った。
そして。
「……ダモレくんって、変な人ね。」
「ん?」
「さっきまでボロクソに言ってたのに、急に相手のこと考えるじゃん。」
「…。」
「ふふっ、」
自分の言葉を笑って受け止めてもらえる。
なんか、嬉しい。
「ティナっていったっけ。」
「うん、本名はクリスティーナ。ティナって呼ばれてるよ。」
「ティナ、俺は…。」
「ダモレ!」
ユーリィが丘を登ってきた。
「ここにいたのか」
「ユーリィ」
「すまない。」
ユーリィが頭を下げた。
「君に引き受けてもらう為に、言い過ぎてしまった。もう、無理に君を説得したりしない。お前なら引き受けてくれると思って俺が一人で突っ走ってたみたいだ。悪かった。忘れてくれ。」
ティナが口を開いた。
「ユーリィ!どこに行くの!?」
「新しい代役を見つけてくる。」
「時間がないよ!」
「ティナ!わかっている!でも今日は!
今日は、身分の格差に関係なくテッドレッド王国が一丸となって闘う日だ。絶対に成功させなきゃならない。どんな手を使っても、成功させなきゃならないんだ!」
「ユーリィ!」
そうか、ユーリィはそんな想いでこの日に懸けていたんだ。
ユーリィ(そんな人を俺は救いたいんだ)
ビン太(俺は強くなってみたい、あなたのように、そして、シードルのように)
そうだ、俺は強くなりたい。ユーリィが今日にかける想いが本物だったんなら。俺だって…!!
「待ってくれ!ユーリィ!」
「…ダモレ」
「全く、ほんとに大変な時に来ちまったもんだぜ。」
深く息を吸って力強く言葉を放った。
「勇者の代役、やらせてくれ!」
「本当か。」
「ああ。」
俺は再び街を見る。
昨日までなら、絶対にこんな場所には立てなかった。
人の目が怖かった。
自分の顔が嫌だった。
自分なんかが何かをするなんて、考えもしなかった。
でも。
シードルがいた。
ユーリィがいた。
イザベラさんがいた。
ティナがいた。
俺は、この世界に来て。
いろんな人に優しくしてもらった。
だから――
俺がイケメンとして生まれてきたのには、もしかしたら意味があったのかもしれない。
俺は拳を握りしめた。
「過去の俺。デント!ユーリィ!ティナ!俺を見ていてくれ!」
ユーリィの目が見開く
「……っ!ティナ、何かしたか?」
「なにも?ダモレくん、いや、ダモレが自分で決めたんだよ。…カッコイイじゃん。」
俺はこの世界に来て、変わったんだ。決意したんだ。だから今度は、この顔を使ってやるターンだ。
「ダモレ!」
「これを着てくれ勇者の正装だ。」
駐屯地に戻り、ユーリィが持ってきたのは、白を基調とした勇者の正装だった。




