十六話 勇者
十六話 勇者
そこには勇者がいた。勇者は明らかに、そうでない人だった。
これが勇者か?
男が俺を見る。
数秒間、俺の顔をじっと眺めた。
「……チッ。」
舌打ち。
少なくとも俺が想像してた勇者ではない。
ブサイクだったのだ。
いやいやいやいや、普通かっこいいでしょ勇者って。
そんなことあるんだ。
髪はボサボサ、服装もどこかくたびれていて、小さくて小太りでシミだらけ。こちらを睨みつける目には鋭い敵意が宿っているがハッキリ言ってオーラが無い。
ティナと呼ばれる少女がユーリィに事情を話す。
「デントが、凱旋を歩かないって言ってるの!」
「デント、大丈夫だ!仮面を被ってもらう!顔を隠して歩くだけだ!」
「そういう問題じゃねぇよ!」
「デント…。」
勇者一行。いわゆる勇者パーティの面々は難しい表情で沈黙し、彼を囲んでいる。
「俺はやらねーよ。正直バレるっしょ。どうせ俺はブサイクだし性格も悪い。だいたい、戦争に使うだけ使わせてたまに帰ってきたら、国の象徴だからカッコよく佇まえだ!?ふざけるな。」
「…。そうか。」
するとユーリィが俺の方に向き直り、肩を掴んできた。
「そんなわけだ。ダモレ、お前に頼みがある。」
「え?え?まさか…」
「あぁ、勇者の代わりに凱旋を歩いてほしいんだ!」
「ええええええええええ!!!俺が!?俺が!?勇者!?いきなり!?なんで!?」
「イケメンだからだ!!」
「いやいやいやテンプレにしても段階があるだろ!別に特別な魔法を持ってるわけじゃねぇし!剣なんか持ったこともねぇし!」
「ダモレ!勇者になるんじゃない、代わりに凱旋に歩くだけだ!」
「あ、そっか。じゃねーよ!荷が重いって!」
「お前を一目見た時から思っていた。代役が務まるのはお前しかいないって。皆んなもそう思うよな!」
「ああ!」
「イケメンだ!」
「間違いない!これでテッドレッドも安心するだろう。」
「いやいや、何勝手にそっちで盛り上がってんだよ!俺はやらねーよ!断る!」
だいたい大勢の人前で歩くのなんか緊張するんだよぉ!真面目に嫌だ!大マジでやだ!
ユーリィが手を握ってきた。
「そこをなんとか、曲げて頼む。これは必ずお前の為にもなる。勇者の代役が務まれば、大金が手に入るし、人気者にもなれる。そしたらきっと、誰かを救える力も手に入るだろう。ダモレ、これは名誉なことなんだ!」
うっ、そんなのわかってるけど、他人から言われて手に入れるのはなんか違う気がするんだよなぁユーリィ。なんか、クソっ。
すると勇者が咳払いし、俺に話しかけてきた。
「ハッ、そこのダモレさんだっけ?良かったなイケメンでよ。恵まれてるやつはいいよなぁ。富も名声もすぐに手に入る。なんの努力もしねぇでよ。でも、今回は譲ってやるよ、そんな謙遜してねぇでありがたく大役受け取りな。」
「デントッ!!」
なんだよコイツ、俺の事何にもしらねぇで!不貞腐れたこと言いやがって!
俺だってそれなりに努力してきてやってきてんだ…って…。
「どうせ皆んな俺のこと見てねーんだ。見たいのは理想の勇者だけ。もうウンザリなんだよ。」
ハッ、こいつ。
こいつは昔の俺だ。
俺は皆んなから、こういう風に見られてたのか…っ!
「ユーリィ、ちょっと、考えさせてくれ。」
俺は駐屯地から少し離れ、王国が一望できる丘の上まで来た。




