十一話 強くなりたい
「泣くほど凄いか、この国は。もしそうなら、嬉しい限りだ。」
ユーリィとかいう男が話しかけてきた。この男はどこか、某有名テーマパークのクルーのような安心感がある。俺が落ちないようにしっかりと支えてくれているからだろうか。それとも言動からだろうか。俺が女の子ならもう既に惚れているところだ。
「今日は少し涙脆いんですよ。」
「ふふっ、そういう日もあっていい。」
とてつもなく爽やかな笑顔だ。この男は本当に警戒する気も起きん。
俺は涙を拭い、深呼吸をした。
「でも、感動したのは本当です。こんな所、来たことなかったから。」
「そうか、君はどこから来たんだ?」
「…。俺もわかりません。どこか遠い場所から。」
「差別、貧困、移民問題、階級格差。こんな素晴らしい世界にも問題は山積みだ。」
急に生々しいななんか
「私はな、常に考えてるんだ。どうやったらそんな理由で苦しむ人達を救えるのかを。」
「…。急になんだよ。」
「人の苦しみ方は多種多様だ。君がどんな事情であれ、苦しんでいるのなら力になりたい。」
ご立派なこって。普段の俺ならそういって他人の善意を嘲笑ってスルーしてたカスだが、今の俺は素直に感心するテンションだった。
「凄いな、俺もあなたみたいになってみたい。…大切な人を救えなかったんだ。俺はその人に救われた。なのになんの恩返しもできずに、最後の最後まで助けられて、俺は悔しいんだ。自分の弱さを実感したんだ。だから、次にまた同じ失敗をしないよう強くなりたい。あなたのように、そしてシードルのように。」
目を丸くしてじっとこちらを見ていたユーリィとやらは数秒後、我慢できずに吹き出した。
「~…。笑うなっ!」
「いいね。嫌いじゃないよ。そういうの。
でも、良かった。てっきり苦しんでるかと思ったから。」
「なんで。」
ユーリィは俺の体に視線をやった。黒い炎の痕跡をみている。そういえばなんだったんだ、これ。
「いたぞ!あそこだ!捕らえろ!」
下方から衛士達が追いついてきた。全くしつこいヤツらだ。俺に気があるんじゃないか?まあ、この顔面ならその可能性もなくはないのが恐ろしい。おっさんに狙われるのはなんかヤダよー?おれ。
「おっと、来ちゃったね。それじゃいこうか。。」
「えっ、」
キンタマがヒュッ
ーーぉぉぉぉぉおおおおおああああ!!
「ちょっとちょっとユーリィさんっ?!急降下やめてえええ!」
「大丈夫だ。俺は今、気分がいい!」
「それって保証になんの?!うわぁっ危ねぇ激突するぞおおおお!」
俺とユーリィは衛士達の団体へ突っ込み、武器の間を華麗にスラスラとすり抜けた後、テッドレッド王国の都市へ突進し、建物の狭間も障害物もグングンとすり抜けて行く。それはもう、さながらジェットコースター。
「うおうわおわうわおっ、うわおああ。」
「騒がしいね、君。」
「振り回されるこっちの気にもなってみろ!降ろして降ろしてえ!」
「もう一度上空いく? 」
「なんでだよ! 」
「だって……君、今すごく楽しそう。」
え、
気づいたら笑っていた。いつから笑ってたんだろう。こんな解放感、爽快感!久しぶりだった。いつもならば楽しそうなんて指摘されると恥ずかしくて硬直してしまうが、この時ばかりはもうそんなことどうでもよかった。心の底から笑いが溢れ出してくる。
「ふふっ。はははっ君、名前は?」
「いやそれ今聞く必要ある?!」
「え?!なんて?!聞こえない?!」
「だあーもう!俺の名は!」
「ダモレ?いい名前だ。」
「え?違うっ!」
「違うのか?」
「ッ、もうそれでいい!ダモレだ!」
なんだよダモレってとは思うが、ビン太という名前もそもそもおかしい。
いやなんだよビン太って。ノリと勢いとネタとオリジナリティだけで名前を決めるな。
「ダモレ、降りるぞ!!」
「おう!!」
ユーリィは都市の中心部、王宮の門の前でヒラリと身を下ろした。
「ハァハァ、っおい、ユーリィとやら、衛兵達に追いつかれちまう、ハァハァ、どっか隠れる場所を探そう。」
「その必要は無いよ。」
「え?」
息切れして焦っている俺を差し置いてなんだその余裕っぷりは!
「大丈夫、見ていて、、」
衛兵が剣を振りかぶってもの凄い勢いで迫ってくる。え、勢いで切られるんじゃないのユーリィ!ヤバくない!?ユーリィは身長は高いが細身の男だ、スマートだがお世辞にも強いとは思えない。それに対し向こうは屈強な体格のユーリィよりも大柄な男四人。戦っても勝てないと思うんだが相手はヤル気満々だぞ。仮にも俺は脱獄者。逃げないとここで殺されてもおかしくない!
「ユーリィ!!」
するとユーリィは懐からなにやら仮面を取り出し、顔面に装着した。
「とっ、止まれぇ!」
荒ぶる形相の衛兵達の刃がもう少しで俺たちに届こうとしたその時、ユーリィの行動一つで急に慌てふためき、ユーリィの前で手を胸に当てて跪いた。
「私は外交院所属外交官、ユーリィ・クラネルだ。剣を納めよ!」




