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君と繋がれない俺は、世界最強のペアを目指す  作者: HATENA 
第1章_未接続(アンリンク)

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第4話 選ばれない側

 三限の基礎同期実技は、二人一組で行われる。

 教室を移動する途中から、周りの温度が少し変わっていた。昨日までは誰と誰が組むかで騒いでいたのに、今日はもう、組めた人間と組めていない人間の差がはっきりしている。

 隣を歩く大河は、すでに仮ペア申請を出していた。


「まあ、合わなかったら変えればいいしな」


 それができる人間は、そう言える。


「軽いな」

「軽くないと最初から動けねえだろ」


 大河の言葉は雑だが、たまに正しい。

 実技棟の入口で、白石が一人で掲示板を見ていた。

 ランキング表示。

 基礎実技、同期安定率、接続継続予測、仮ペア提出状況。

 数字と名前が並んでいる。

 上の方では声が明るい。下の方では、指が端末をいじるふりをしている。

 白石の名前は、基礎実技の欄では上位にあった。

 同期安定率の欄では、空白だった。

 未接続。

 その二文字が、妙に目立つ。


「見ない方がいいのに」


 花宮が隣で呟いた。


「何を」

「ああいうの。見ると、残るでしょ」


 白石は掲示板から目を離さない。背筋はまっすぐで、表情も変わらない。周りの声は、そこで少し軽くなる。

 でも、ファイルを持つ指先だけが少し白くなっていた。


「白石さん、技術だけなら上なのにな」


 後ろで誰かが言った。


「でも接続相手いないと、評価伸びないでしょ」

「厳しそうだし」

「選ぶ側っぽいのに、まだ選ばれてないの意外」


 別の誰かが笑った。

 すぐ横で、大河が「あー」とだけ声を出す。大きくはない。けれど、その雑な音で何人かがこっちを見た。


「何」

「いや。今の、聞こえる声で言うやつじゃねえなって」


 言った本人たちが、気まずそうに目を逸らす。

 大河はそれ以上何も言わず、自分の靴ひもを踏んで「やべ」と呟いた。

 浅い声。

 笑いにもならない、ただの言葉。

 白石の肩は動かなかった。

 俺は一歩出かけた。

 でも、止まった。

 まただ。

 口の中で、言葉が二つ三つ潰れた。

 白石が振り返った。

 俺を見た。

 聞こえていたのか、と一瞬思う。

 違う。

 彼女は、俺が止まったことを見ていた。


「神代くん」

「……何」

「今の、何か言おうとした?」


 周りの音が遠くなる。


「別に」

「別に、ならいい」


 白石はそれ以上追わなかった。

 追わないのに、逃げ道が狭くなる。

 そこまで考えて言ったわけじゃないのかもしれない。

 それだけなのに。

 実技室に入ると、城崎先生がいつものように端末を確認していた。ペアごとの番号が呼ばれ、床のラインに立っていく。


「神代、白石」


 呼ばれたのは最後だった。


「お前たちは観測補助席だ。今日は他ペアの初期同期を見ろ」

「見学ですか」


 白石が聞く。


「観測だ」


 先生は短く言った。


「見学と何が違うんですか」

「見るだけなら見学だ。記録を残すなら観測になる」


 白石は黙った。

 また、答えの形だけしていた。

 補助席は実技室の端にある。端末二台と、薄い仕切り。そこから各ペアの動きと同期値の変化が見えるようになっている。

 俺と白石は並んで座った。


 近い。


 近いのに、横を見ると白石はまっすぐ前だけを見ていた。視界の端にも入れない、と決めているみたいだった。

 一組目の実技が始まる。


 床の中央に、小さな白い標的が置かれた。


 丸い板みたいなものだ。触れれば軽く動く。強く押せば転がる。接続が乱れると、すぐ止まる。


 男子が右のラインに立ち、女子が左のラインに立つ。


 合図のあと、女子が先に息を吸った。男子は一拍遅れて、手首だけを動かす。


 標的が床の溝に沿って進む。


 まっすぐではない。


 少し蛇行して、それでも白線の内側には残った。


 女子が笑う。


 男子もつられて笑った。


 初期値は二十八。端末が柔らかい音を鳴らした。


「いい滑り出しだ」


 先生が言う。

 二組目、三組目。

 うまくいくペアもあれば、標的を途中で止めて笑ってごまかすペアもある。数字は二十台から四十台。高い数字が出ると周りが少しざわつく。

 白石はずっと記録を見ていた。


「……どうして」


 ほとんど息みたいな声だった。


「何が」

「あんなに雑なのに、出るんだ」


 俺は返事に迷った。

 白石のノートには細かい字で記録が増えていく。

 その横で、彼女の欄だけが空白のままだった。

 白石の横顔は怒っていなかった。

 怒っていない顔で、悔しそうだった。


「白石は、雑に見られるの嫌いだよな」


 言ってから、白石の目を見るのが遅れた。

 白石の目がこちらに向く。


「嫌い」


 即答だった。

 でも次の言葉は少し遅れた。


「……雑に見る人も、雑に選ぶ人も」


 最後だけ、声が小さくなる。

 言いすぎた、みたいに白石の目が一度だけ伏せた。

 端末が次のペアの同期値を表示する。

 三十九。

 周りが「おお」と小さく沸く。

 白石は画面を見ている。

 俺は、その横顔を見ている。

 選ばれたいのか、と聞きそうになった。

 やめた。

 聞いたら終わる。

 そんな雑な聞き方しか、今の俺には浮かばなかった。

 白石の指が、机の端を軽く押さえる。

 その力だけが、見えてしまった。

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