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君と繋がれない俺は、世界最強のペアを目指す  作者: HATENA 
第1章_未接続(アンリンク)

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第3話 軽いと言われる

「白石と補助観測?」


 翌朝、席に着く前に小鳥遊に捕まった。

 捕まった、というより、逃げ道に立たれていた。小鳥遊はいつも声が大きいわけではないのに、必要な時だけ妙に通る声を出す。


「そう」

「どうだった?」

「普通」

「神代の普通って、だいたい普通じゃない時に出るよね」


 隣で花宮が笑う。大河はまだ来ていない。来ていたら、もっと騒がしくなっていたと思う。


「何もなかったよ」

「何もなかったなら、城崎先生が授業終わりに記録室行かないでしょ」


 小鳥遊はさらっと言った。

 こちらの反応を見るでもなく、自分の端末に視線を落としている。だから余計に逃げにくい。


「見てたのか」

「見えた。先生、端末持ってたし」

「たまたまだろ」

「そうだね。たまたま、神代と白石のあとに、たまたま記録室」


 花宮が「小鳥遊、性格」と小さく言う。

 小鳥遊は気にしない。


「で、申請するの?」

「まだ」

「まだ?」

「今日の実技見てから」

「また見てから」


 その言葉に、喉の奥が引っかかった。

 昨日、大河にも似たようなことを言われた。花宮にも。俺はいつも、見てから決めると言う。実際、見るのは得意だと思う。動きの癖、呼吸の間、無理をしている時の目線。そういうものは、人より早く拾える。

 拾えるだけだ。


「神代って、最初だけ合わせるの上手いよね」


 小鳥遊が言った。

 声は軽い。内容だけが軽くない。


「最初だけ?」

「うん。初動はすごい。相手が困らない位置に入るし、失敗しそうなところも埋める。でも長くやると、相手が誰でも同じ形になる」

「褒めてないよな」

「褒めてる部分もある」


 花宮が少し目を伏せた。

 小鳥遊は続ける。


「接続って、相手に合わせるだけじゃ安定しないでしょ。合わせすぎると、相手の形が消える」


 返事が遅れた。

 分かる、と言いかけた。

 言ったら、終わりそうでやめた。


「白石、そういうの嫌いそう」


 花宮の声は、さっきより柔らかかった。


「嫌いそうっていうか、昨日すでに嫌われたかも」

「何したの」

「謝った」

「何に?」

「それ聞くの流行ってる?」


 花宮が吹き出した。小鳥遊は笑わなかった。


「大事じゃない? 何に謝ったか分からない謝罪って、便利だけど雑だし」


 雑。

 その言葉だけが残った。

 昨日の白石の目が浮かんだ。

 すぐに消した。


「おー、朝から神代いじめか」


 大河が教室に入ってきた。声が大きい。空気の端を雑に押し広げるみたいな声だ。


「違うよ。観測」


 花宮が言う。


「怖っ。女子の観測、怖っ」

「大河の方が声量で圧かけてる」

「俺は善意」

「善意が一番うるさい時あるよ」


 そのやり取りで、場が少し軽くなった。

 俺も笑った。笑って、会話の外へ抜けようとした。

 その時、教室の前の端末が鳴る。

 短い通知音。

 昨日、実技室で聞いた音に少し似ていた。

 未提出者への個別連絡。

 画面に表示された文字を、何人かが読み上げそうになってやめる。


《本日三限・基礎同期実技》

《神代玲、白石凛は観測補助席で参加》

《担当教員の指示に従うこと》


 大河が「補助席?」と眉を上げる。

 小鳥遊が端末を見る目を細めた。


「普通、そんな表示出ないよね」

「たまたま」


 言ってから、机の角を見た。

 花宮がこちらを見ている。


「神代」

「何」

「今の、逃げ方ちょっと下手」


 言い返せなかった。

 三限までの時間が、妙に短く感じた。

 白石はまだ教室に来ていない。彼女の席は空いたままで、机の上には何もない。

 誰かが「白石さんも未提出なんだ」と言った。

 別の誰かが「意外」と返す。


「真面目そうなのにね」

「相手選び厳しそう」

「ああいう子、組む方も疲れそう」


 声は浅い。

 笑い声は浅い。

 浅いのに、止める言葉が出てこない。

 俺は立ち上がりかけて、やめた。

 言うなら何を。

 やめろ、でいいのか。

 白石の机はまだ空いている。

 俺は立ったまま、半端に椅子を鳴らした。

 扉が開いた。

 白石が入ってくる。

 噂は、ちょうどそこで途切れた。

 彼女は何も聞こえていない顔で席へ向かった。

 鞄を置く手が、一拍だけ遅れた。

 俺はその遅さだけ見ていた。

 白石は席に座る前に、こちらを見た。


「神代くん」

「何」

「三限、余計なことしないで」


 周りが少し静かになる。


「余計なことって」

「合わせようとすること」


 白石はそれだけ言って、席に座った。

 言い返す余地はあった。

 でも、ない気もした。

 俺の中で、昨日の耳の奥の軋みが戻ってくる。

 自分の呼吸に、他人の呼吸が混ざる感じ。

 あれを思い出すと、「余計なこと」という言葉が耳の奥で擦れた。

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