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9 海に落ちて朽ち果てる

「いやー、結構楽しかったな」


「秋人は三回くらい落馬してましたけど、大丈夫なんですか?」


「秋人さん、お怪我はなかったかしら?」


「あはは、平気平気。俺ってタフだから。落ちまくったけど楽しかったよ」


乗馬体験を終え、知世のお気に入りだというカフェで昼食を摂る。食後に温かいカフェオレを飲んだ空來がほっと息をついた。


「それにしても、乗馬が趣味ってますますお嬢様だね、知世ちゃん」


「そうかしら? 乗馬にそういうのは関係ないと思うけれど……」


「まあ、移動手段として訓練したり、ちょっと体験コースで乗ってみる分にはそうだろうけど。それが趣味ってなると、上位層の遊びってイメージがあるかなあ。僕だけかもしれないけどね」


「俺も空來くんの気持ちは少しわかるな。いや、実際にはそこまで敷居の高い趣味でもないのかもしれないけど、イメージだけの話だとね」


「みなさんは、いつもはどんな遊びをしてらっしゃるの?」


知世の質問に勇來が一同を見渡してから答える。


「うーん、そうだなあ。俺の場合は遊びっていうか、暇なときはずっと実戦トレーニングばっかしてるからなあ。あと柑奈……えーっと、近くに住んでるチビッ子どもと鬼ごっこしたりかくれんぼしたり……」


「子どもの相手してるうちはいいですけど、勇兄はトレーニングに関しては本当に、他にすることがなかったら日がな一日それですからね……正直ちょっと引きます」


「静來もわりと付き合うじゃんか」


「私は他にも玲華たちとお茶したり、ショッピングしたりもしますから」


「お、俺だってトランプとかするし」


「トランプタワー作る以外になにかしてます? それ以外の時間は全部自主トレでしょ。いつ見ても誰かしらとボコスカやってるじゃないですか」


「やだなー、脳筋のすることは野蛮で」


「ナンパばかりの空來にだけは言われたくないな」


「人聞き悪いなあ。僕は女の子と仲良くなるのが趣味なだけだもん」


「空來くん……言い換えても印象的には変わらないよ」


「えーっ」


「來亜はいつもなにしてんだ?」


「コトハ。一緒だ」


「そのコトハさんという方は?」


「來亜といつも一緒にいる、えーと、なんて言えばいいか……」


「コトハは、コトハだ。おれのつが――」


秋人があわてて來亜の言葉を遮る。


「ああーっ、と! 友達で! えー、家族? みたいな? 姉であり、親友であり家族、的な……?」


「うん」


「とっても仲良しな子がいるのね?」


「そうそう。そんな感じ……」


「琴琶は基本的に月と喧嘩してるか、甘い物めぐりしてるか、能力の新技を研究してるかですよね」


「ぼ、僕との喧嘩が、あいつの日課みたいに言わないでよ。それだとまるで、僕もそうみたいじゃん」


「え、違うの?」


「ちがう、よ。誰があんな……」


「コトハの悪口を言えば殺すぞ」


「言ってないだろ」


「月さんは、その琴琶さんと仲が悪いの?」


「仲が悪い、っていうか、あいつがなんか、勝手に突っかかってくるだけで……」


「コトハの悪口か?」


「ちがう」


「じゃあ、月さんは琴琶さんと、本当は仲良くしたいのね?」


「だ、だれがあんなのと!」


「おい、悪口か? 殺すか」


「言ってないだろって!」


「來亜って琴琶のことになると急に殺意に目覚めるよね」


「ペットの躾くらいちゃんとしろっての……」


「悪口だな?」


「あんたのな」


「月の趣味といえば料理だよな。料理っていうか、菓子作り?」


「えっ、ち、ちょっと!」


「あれ、なんか言っちゃまずかったか?」


「ていうか、なんで知って……」


「たぶんギルド員は全員知ってますよ。食堂の共同冷蔵庫にたびたび現れる差し入れの焼き菓子が、月の作ったものだって」


「えっ、そうだったの? あー、あれって月が作ったんだ。知らないで食べてた」


「すみません、まだ知らない人もいたみたいです」


「空來くん、いくらギルド内にある冷蔵庫とはいえ、今まで誰が作ったかもわからないお菓子を平然と食べてたの?」


「食べていいよって書いてたから……」


「静來ちゃん、君の弟くん大丈夫?」


「……まあ、昔からお腹は強い子でしたから。頭は弱いですけど」


「そういう問題?」


「そう言う秋人は普段なにしてるの?」


「えーっと……、俺は……そういえば、なにもしてないな。寝てるか、みんなと喋ってるか、探偵の手伝いか……」


「暇そうですね」


「と、ときどき勇來くんたちの自主トレ見てたりするよ」


「観戦側なんだね」


「やっぱり暇そうですね」


「う……あ、浅葱は普段なにしてるんだ?」


言い返せなくなった秋人が浅葱に話を振ってごまかす。浅葱は油断していたらしく、思わず気の抜けた声を出した。


「え、俺? あ……ゴホン。私もとくになにも。静來さんにはお話ししましたが、今まで各地を転々としながら働いていたので、あまり仕事以外のことに時間を割けず……ああ、遊びや趣味ではありませんが、憩いの時間として、ときどき海を見に行くくらいでしょうか」


「あー、そういえば昨日も休憩に海に行ったって言ってたね」


「暇な秋人とは大違いですね」


「静來ちゃんも俺に遠慮がなくなってきたよね」


「最初からしてませんけど……」


「ギルドのやつらの話もしていいなら、琳架と礼架ってのが楽器やってるな。物置になってた部屋を勝手に改造して音楽室にしてて。そこからよくバイオリンとかピアノとか、フルートの音とか聞こえてくるんだ」


「まあ! 音楽が得意なのね? ステキだわ」


「そういえば、一罪かずさとカナはよく二人でゲームしたり、最近では釣りに出かけてますね。勇兄もときどき一緒に行くんでしたっけ」


「おう。空來もたまーにな。すぐ寝ちまうけど」


「だって、たくさん釣れてるならともかく、なにもない時間が続くと、ただの日向ぼっこみたくなってくるじゃん? 春ごろとかはポカポカしてて気持ちいいからさ」


「だからってお前、居眠りして海に落ちるのは勘弁してくれよ」


「い、一回だけじゃん」


「何回もあってたまるかよ」


「私、魚釣りってしたことないわ」


「お、じゃあしてみるか? 俺は一応、教えられる程度にはやってるぜ」


「道具はどうするんですか? 浅葱さん、釣り竿を貸してくれるようなところってこのあたりにあります?」


静來が浅葱を見る。


「船着き場に貸しボートのお店があります。たしか、釣り道具も置いてあったかと」


「ボートで釣り? いいね、それはちょっと楽しそう。僕も賛成」


「ボートが楽しそうなだけじゃないの……?」


「では、手配しておきます」


午後からは話していたとおり、レンタルボートでの魚釣りとなった。浅葱の案内で海岸に向かうと、既に数本の釣り竿とクルーザーが用意されていて、浅葱が船着き場の店主と話をしているのを尻目に、勇來と空來と秋人が伸びをする。


「海だー!」


「海だなー」


「いやー、海に来たのは久しぶりだよ」


知世も三人を真似て伸びをしている。とくに意味のない行動だ。浅葱がクルーザーの鍵を持って合流した。


「お待たせしました。午後からは天候の心配もないそうなので、のんびりお楽しみいただけるでしょう。今日は適度な潮の流れで、釣りがしやすい日だそうですよ」


「っていうか、ボートって手で漕ぐやつじゃないんだ?」


「着替えの用意がございませんので、濡れる心配の少ないほうをと思いまして。操縦は私がいたしますのでご安心を」


「浅葱さんボート動かせるの?」


「はい。簡単な運転だけなら問題なく」


「こ、この人本当になんでもできるな……」


「逆にできないことを探すほうが難しいんじゃないか?」


「それは過大評価でございます。釣りに関しては、私は完全な未経験者ですので……一度ご教示いただければ覚えられますが」


「乗馬の前例があるからか、できないって言葉が信用できないな」


「それじゃあ、さっそく出発しましょう! 私、ボートに乗るのも初めてだわ!」


「そうだね。僕もこういうの初めて乗るー」


最初に荷物を持った勇來と浅葱が足場を確認するように乗り込み、浅葱は知世に手を貸す。空來が真似して静來に手を差し出すが、静來はそれに気付かず軽く飛び乗った。行き場のなくなった手を、來亜があてつけのように掴んで支えにする。揺れるボートに乗り込むタイミングを見失っていた月が秋人に背中を押されてつんのめった勢いで飛び乗った。なんだかんだと全員が揃ったところで、浅葱が運転席で鍵をさしてエンジンを起動させる。


ある程度ボートを進ませて、船着き場の主から教えてもらったらしい釣りのスポットで停止する。知世は勇來たちに餌の付け方などを教わりながら、初めて握った釣り竿の糸を海に垂らした。


「これで、あとはお魚がかかるのを待つのね? ……釣りって、こう、竿をびゅんってやるのをイメージしてたけど、ボートの上だとそういうのはしないのね」


「まあ、人数多くて危ないからな。一人で来たときはそっちでもいいけど、今回は落とすだけだ。投げ釣りオッケーにしたら空來に耳を釣られちまう」


「耳?」


勇來は自分の右耳を指さした。


「ここ、耳のこのあたりに傷跡があるの、わかるか? 空來に針ひっかけられたんだよ」


「まあ、本当!」


「も、もうしないよ! それなったの一回だけじゃん!」


「何回もあってたまるかよ」


「勇來さんたちが釣った中で、一番大きなお魚はどれくらいだったの?」


「うーん……あんまり大きいのは釣ったことないんだよなあ。そもそも釣り自体そんなにしょっちゅうはしないし……普通に調理できるくらいの大きさを二、三回だな。せいぜいこれくらいだ」


「僕は今のところ海藻とスライムしか釣ってない」


「す、スライムが釣れるの?」


「浅瀬だと八割くらいスライムだな。浅瀬じゃなくても半分くらいスライムだ」


軽く笑いながら言う勇來に、秋人が苦笑交じりに尋ねた。


「その場合はどうすんの? 戦闘になるんじゃ……」


「だいたいはつけてる餌を食べるのに夢中でこっちに気付いてないことが多いから、さっと外して投げるか倒すかだな。触りたくなかったら、地面に置いて勝手に戻っていくのを待つんだ」


「こっちがいきなり動いたり攻撃したりしなきゃ、案外スライムもおとなしいんだよ。だよね?」


「おう。ほとんどのやつは急には襲ってきたりしないから大丈夫だ。でも、針を外そうとしたら威嚇して体の形を変形させたり、水鉄砲みたいに液体を飛ばしてくることがあるから、それだけは注意しろよ」


「そ、その液体が掛かるとどうなるの?」


「目に入るとメッチャ痛い」


「……それだけ?」


「それだけ」


「っていうか、スライムって超低級のモンスターじゃなかった? 非能力者でも簡単に倒せるって探偵が言ってたけど」


「たしかに、スライムは耐久力がないですし、攻撃も隙が多くて、一直線上に飛びかかってくるだけなので動きも読みやすいですから、弱いといえば弱いです。なんなら知世でも一発殴れば倒せるくらい弱いですけど……」


「わかってねえなあ、秋人は。あいつら、弱いけどめちゃくちゃ危険だぜ? なあ静來」


「スライムは透明な水の塊のような見た目ですから、そのへんの草原や荒野で見かけた場合なら脅威ではありませんが、水場に生息するカルセットの中で、水中に身を潜ませたスライムほど危険なものはないと思いますよ」


「あ、そうよね。透明なのにお水の中に入っちゃったら、同化して見えなくなってしまうわ」


「ええ。それにスライムは警戒体勢に入ると自分の体を変形させます。イガ栗やウニの殻を見たことはありますよね? あんな形状になるんです。しかも大きさも結構あって、変形後は硬度も変わりますから、あれの突進をモロに食らえば無事では済みませんし、水中でイガ状になったスライムがいるのに気付かず踏んでしまったら、靴なんて簡単に貫通して足に突き刺さります」


「海や川などで夏場に起こる水難事故は、水中のスライムを踏んでしまったことによる足の負傷が原因となっていることがほとんどなのだそうですよ」


浅葱が操縦席から出てくる。


「川や海にご家族で遊びに来られた際に、川辺で遊んでいた子どもがスライムを触って怪我をした、という事故も多くございます。低級のカルセットとして知られているスライムですが、その評価とは裏腹に、実は多くの人命を奪ったカルセットとしては上位に入るほど危険な存在なのです」


「浅葱さん詳しいね」


「私は戦えませんので。護身の第一歩として、生活の上で遭遇する可能性が高い、身近なカルセットについてはある程度勉強するようにしています」


「あ、知世、竿! 引いてますよ」


「わっ、本当だわ。い、糸を巻き上げればいいの?」


「あわてなくても大丈夫だよ」


キリキリと慣れない動きで糸を巻き上げて行く知世を見守る一同。やがて糸に結び付けた針が海面にあがり、獲物の姿が見える。釣り上げたのは、半透明に濁ったスライムだった。


「ひゃっ、スライムだわ!」


知世が叫ぶのと、勇來の拳がその目の前をよぎるのは同時だった。針に釣られたままのスライムに横薙ぎの拳が雑に叩きこまれた瞬間、ぱしゃんっ、と水風船が割れるように勢いよく弾けて、次の瞬間には海水とまざってわからなくなる。


「惜しい。ハズレだったな」


「噂をすれば、というやつですね」


「勇兄、容赦なーい……」


「なに言ってるんだよ、今のスライムは色が濁ってただろ。あれはあのスライムが弱ってる証拠なんだぜ? 逃がすより、さくっと楽にしてやるほうがマシだ」


「いや、色とか見る前に消えたからわかんないよ」


「そもそも、私たちの本来の任務は知世の護衛ですから。万が一にも怪我をさせるわけにはいきません」


「っていうか素手なんだね」


「手っ取り早いからな」


「海。危険だ」


「來亜、そう思ってるなら船から乗り出さないでください。落ちますよ」


「戻る。する。それは。だ」


「手伝いませんからね?」


「……なんかさ、静來ちゃんはあれで來亜くんの言いたいことを拾えるのがすごいよね」


「フィーリングで理解してるだけですよ。それに如月のほうが会話の機会が多い分、私より翻訳精度も高いと思いますけど」


「そ、そんなわけないじゃん。僕だってそいつがなに言ってるか、わかんないことのほうが多いし」


「ちなみに、今のはわかった?」


「今の? ……落ちても戻って来ればいいだけだ、って」


「訳せるんだ……やっぱりそれなりに付き合いが長いとわかってくるものなのかな」


「やめてよ。それだとまるで、僕とあいつが仲良いみたいじゃん」


「あら? 私は、お二人はとっても仲良しさんだと思うわよ」


「ほ、本当にやめて……」


「で、來亜はなにしてるんだよ。なにか落としたのか?」


ボートから身を乗り出して海面を見つめている來亜の右手側に勇來が座り込む。


「落ちる船だ。見る。海の。おれは来た。コトハが言っていた」


「んー、普通の会話ならわかんのに、來亜になんか説明させると急にレベル高くなるよなあ」


來亜の左手側に月が屈んで、ぼそぼそと返す。


「……それはさすがに、ここからじゃ見えないし。あいつってそういうの好きなわけ?」


「好き? コトハは知る。話す。だからおれだ」


「っていうか、それってここじゃなくて、もっと沖のほうの話……じゃないの?」


「そうか。ここはちがう」


「……まあ、僕も知らないけどさ」


なぜか会話の通じる二人に勇來は静來を振り返る。


「あれってなんの話してんだ?」


「さあ……あのレベルはさすがに私も無理です」


「やっぱりお二人は仲良しさんだわ」


「僕ちょっと眠くなってきた」


「あさぎ」


「あ、はい、いかがなさいましたか」


知世と秋人の隣にいた浅葱は笑顔で応対するが、來亜のあの暗号のような言葉が自分に向けられると悟ってか、一瞬顔が引きつった。さすがに動揺しているようだ。


「落ちる。リラと海の。古い。知っている。昔だ」


「……、…………うーん……?」


「あ、浅葱、無理しなくていいからな」


秋人は気を遣うが、浅葱は一度だけ、使用人として備えていた接客用の顔を捨て、額に手を当てて顔をしかめる。なんでもできる男と称されてしまったプライドからなのか、おそらく本気で解くつもりだ。


「落ちる船……海の? 俺に答えを求めた……リラ国と海……古い……昔……? ここではなく、もっと沖……」


「あ、あの……」


月が來亜の言葉の意味を伝えようとするが、浅葱は手でそれを制した。


「……、もしかして、ですが。……大戦時代に海の底に沈んだ、沈没船のお話でしょうか?」


「それだ。沈没。海の。船だ。落ちる」


「えっ、当たった? スゲー!」


「如月くん、正解は?」


「えっと……浅葱さんが正解。あの、リラの海に、沈没船が残ってる話を、前に聞いたことがあって……せっかく来たから、見てみたかった。らしい」


「まあ……沈没船があるの?」


「はい。今より二百年は昔の大戦時代、我らが祖国リラと、北東の島国リーズベルグは、ここより遥か南の海上で幾度となく船軍ふないくさを繰り広げました。その戦いで沈没した幾隻いくせきもの軍船いくさぶねが、今も海底に取り残されているのです」


「あー、そういやリラとリーズベルグはめっちゃくちゃ仲が悪いって、ロアが言ってたっけか。リーズって北東の島国なのに、こんな南の海で戦ったのか?」


世界ロドリアゼルは丸いですから。南大陸から北大陸、および島国リーズベルグまでの間には、果てしなく広大な海が広がっております。二国が争うときというのは、大抵がその海の上だったそうです」


「どれくらい広いんだ? 静來」


「私たちが今まで見たことのある、五大陸を中心に記された世界地図は、実はこの先の海を全部ざっくり省いたものなんですよ。世界地図と言いますが、あれはいわば世界の半分でしかない。もう半分、つまり世界地図もう一枚分の海がこの先に広がってるんです。北大陸やリーズベルグがあるのはその先ですね」


「うへー、途方もねえ距離だな」


「リラにはたしか、そのころにはもう騎士団があったはずです。その軍事力に対抗するために、リーズベルグは自国の海賊を傭兵として雇っていたそうですよ。海上戦では向こうのほうが有利ですね」


「海賊って、そういうのは国が取り締まるもんじゃないの? 浅葱、リーズベルグのことは詳しいのか?」


「詳しいってほどではないけど……狡猾なやり方さ。もし海賊が騎士団との戦いのうちに戦死すれば、それはそれで取り締まる手間が省けるだろ?」


「エグいこと考えるなあ……リーズ自体は会ったことあるけど、穏やかでいい人そうだったのに」


「化身リーズ・ベルグは、人当たりはよくても、人格としては非常に冷酷で狡猾だと聞くよ。普通、国家同士の争いに人間が参戦することがあっても、国の化身が人間を手にかけることはない。そういう暗黙の了解があるんだ。戦争になっても人間は人間同士、化身は化身同士で戦うのが当然だった。けれど、リーズ・ベルグは平気で人間を手にかける。閉鎖的な島国ゆえに、世間知らずなんだよ」


「リラを斬り捨てるのではなく、わざわざ目だけを潰してなぶるくらいですからね。ロアやセレイアたちにはないような残虐性がリーズにはある、と言われてもおどろきません。戦争のない今の時代は、彼のそういった一面を垣間見る機会がないだけでしょう」


「でも戦いってそういうもんだろ。それが残酷かって言われると、よくわかんねえな。でもリラ本人や、この国の人たちがリーズを恨んでたとしても、それはそれで当たり前だ」


「浅葱さんはリーズのこと嫌い?」


「かの化身とはお会いしたことがございませんので、なんとも言えませんが……歴史を学んでみての所感としては、少なくとも好きにはなれないでしょうね」


「私も浅葱さんと同じだわ。お会いしたことのない人をこういう風に言うのは、失礼なことだとわかっているけど……なんだか怖いもの」


「ふーん。まあ、リラだから他人事みたいに聞いてられるけど、もしそれがロアだったら、たしかに俺もリーズのこと嫌いだったかもな」


「ダウナじゃなくてロアなんですね」


「あっ、いや、ダウナでもそうだけど……」


「愛国心の欠片もないじゃん」

次回は明日、十三時に投稿します。

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