64話 話し合い
「保留だな」
「へ?」
「だから保留だ。別に今すぐ『5人目』に会いたいわけでもない」
タクが出した結論はそれだった。元々あそこまで急いでいた理由は王城内で騒ぎを起こしてしまったからで、『聖女』という強力無比な味方が居るならそれもあまり関係ないのだ。いつまでもダラダラしていたら『5人目』が秘密裏に処分されてしまう可能性もあり得るが、タクの推測が間違っていないのなら簡単に死ぬようなタマでもない。
「君がそう決めたのなら。4人目の方も後回しかい?」
「今はそれよりも聞きたいことがあるからな」
「奇遇だね。ボクも君に聞きたいことがあるんだ」
そう、タクの目の前に居る女性が転生者だったとか、そこら辺は割かしどうでもいいことなのだ。問題はシオンが『聖女』だということで。
「シオン、お前、亜人達に一体なにを吹き込んだ? ここに居る龍瑠もそのクチなんだが」
「別に変なことは言ってないよ。ただ、“今代最強の勇者”とか“亜人差別をしない”とか“『世界の大穴』をどうにかしてくれる”とは伝えたけどね」
「十分に変だろうが阿呆」
「そうかな? 君は自分が巻き込まれる可能性のあるモノを事前に処理したがるじゃないか。それにもう、君は十二分に巻き込まれてしまったよ」
「………………龍瑠と緋煉か」
「その通り。その2人を抱え込み、仲間として守った時点で君は『世界の大穴』をどうにかしなければいけなくなったんだ」
何故その2人が『世界の大穴』を攻略しないといけないことに繋がるのか分からず、フィムと龍瑠は首を傾げる。それを見てシオンは微笑んだ後に事実を事実として話し始めた。
「ふふ、龍瑠ちゃんは自分のことなのに分からないのかい? まぁ、それも仕方ないか。タクは表面的な愛情表現をあまりしないからね。
大前提に、タクは一度でも仲間、もしくはそれ以上に自分に近しい者として認識した相手にはとても優しくなる。甘くはないけどね。だけど決して見捨てないんだ。そう言うボクもそのタクの精神性に何度も救われているんだけどさ。
でね、フィムちゃんはもちろんのこと、龍瑠ちゃんと緋煉ちゃんもタクは仲間だと認識しているんだ。これがどういう意味か分かるかい?
それを前提に考えてほしい。君達はタクが『世界の大穴』を攻略する時の手助け要員として送り出されたよね? つまり『世界の大穴』を攻略しないと君達が村八分か……ま、似たような扱いを受けることになってしまう。しかしタクはそれを許容できないし、容認しない。
だからタクは何が何でも『世界の大穴』を攻略しないといけないんだ。それはタクがタクとして在るために必要不可欠なことだからね」
一同に微妙な沈黙が。
タクは珍しく苦りきった表情をしていたし、フィムはどことなく嬉しそうだった。そして龍瑠はといえば――
「タク様! 今の話は本当のことですか!? もう緋煉の粗相は許してもらえたということでしょうか!? というか妾は仲間以上の存在なんですかね? そこら辺どうなっているのでしょうかっ? ねえ、ねえ!」
「ウザい」
「……無礼」
「あふぁっ」
微妙な沈黙は気のせいだった。
いつの間にか“仲間”として認められていた(らしい)事実に舞い上がった龍瑠は、とてもウザいテンションでタクに詰め寄り2人から同時に脇腹を突かれた。変な声を出した龍瑠は、しかしよほど嬉しかったのか緩む頬を制御できないようだ。ずっとニマニマしている。
「はぁ……チッ。これだからお前とはやりにくい」
「ふふ、褒め言葉として受け取っておくよ。それで、ボクからも1ついいかい?」
「…どうぞ」
「じゃあ遠慮なく。ずばり、どうしてボクが『聖女』だって分かったのかな? あ、“シトラス”の方もバレちゃったっけ。そっちも聞かせてよ」
「結局2つじゃねぇか。……『聖女』の方は娼館ギルドで情報を買ったから分かっていた。お前の容姿が特徴的だからな。白髪はこっちでも珍しいだろ?」
「あ~、なるほどね。最近は演説とかしていなかったのになんでバレたのか気になってたけど……蓋を開けたら実に単純な理由だったね」
「現実なんてそんなもんだ。で、2つ目。シトラスに関しては、簡単に言えば“魔力”だな」
「魔力が? 君はそんなに細かく魔力感知が出来るのかい?」
「いや、視えるんだ。お前は魔力も特徴的だからな。一目でシトラスだと分かった」
「あらら。それはちょっと予想外だよ。君はとことんまで特殊な存在だね」
そう言って呆れたように笑うシオン。どうやら地球でも色々とあったらしい。そう言うシオンだってかなり特殊な人間なのだが、まぁタクには及ばないかもしれない。
その後はフィムと龍瑠も交えての話し合いをした。まだ名前も国籍も不明な赤の勇者をどうするかとか、王国が取引を完遂しなかった場合に『5人目の勇者』をどうやって連れ出すかとか……途中から地球での話になったが、有意義だったことに変わりはないのであくまでこれは話し合いである。
だからタクの性癖だとか、タクの英雄譚(シオンの恋人補正有)だとか、そういう話が出てきても、これは(少なくとも女性陣にとっては)真剣な話し合いだったのだ。
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タク達がぶっちゃけどうでもいい話をしている頃。王都の商業区に怒号と悲鳴が飛び交い、ある意味では阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。その原因は人々の視線を辿れば分かるだろう。その場に居る人間は、ほぼ全てが広場の時計台を見ていた。
「勇者様……!?」
「誰か早く梯子を持ってこい!」
「そんな、嘘だろ……」
時計台には、昨夜フィムと戦い敗北した勇者の3人が縛り付けられていた。まだ意識が戻らないのか大勢の人が呼びかけているのに反応せず、ぐったりとして動かない。
こんな騒ぎになったのはつい先ほど、大時計の針が真上を指した時に起こった。
鐘の音とともに、縛り付けられている人間が突然現れたのだ。別に血塗れだとかそういうことはなかったが、如何せん勇者達は顔が売れ過ぎていた。すぐに縛り付けられている人間が勇者だと判明し、衛兵や騎士が沈静化させるよりも早く騒ぎが広がってしまう。
もちろん、原因はヤツである。
あの少年は時限式崩壊陣という、設定した時間が経過すると効果が途切れる魔法陣を開発していたのだ。それにフィムの《光学迷彩》を記録して、勇者に張り付ければ終了。あとは時間になるまでどこかでのんびりと過ごしていればいい。崩壊陣という名の通り、最後には魔法陣自体が消えて無くなるので証拠も殆ど残らない優れものだ。
まぁ、この陣は終了時刻しか設定できないので使い処は限られてしまうが。それでも画期的で有用なのは言うまでもない。そうでなければタクは使わないのだから。
閑話休題。
「勇者様! 勇者様ー!!」
「いいから離れろ! 救助の邪魔だっ!」
「おい! 梯子1台じゃ足りねぇよ! ユーキ様がどれだけ重いか知らないのか!?」
主に祐樹の体重が問題のようだった。まぁ、いくら鍛え抜かれた衛兵や騎士であっても、80㎏を超える巨体を地上15mほどから降ろすのは厳しいだろう。どうあっても1人ではやらない方がいい。
ただ、叫んでいる衛兵の言葉が若干間違えていることだけは訂正しておこう。この世界の男共はガタイの良い輩ばかりなので80㎏を超える人間は腐るほど居る。一応言っておくがそれは太っているのではなく、身長と筋肉量によるものだ。
とにもかくにも、発見からおよそ20分で勇者達は無事救助された。さらにそこから20分後。城にこの騒ぎが伝えられてまた騒ぎになるのだが……それはもう少し後の話。
これによって勇者の名は地に落ち、これから地獄を見ることになる。特に好き放題やっていた祐樹とかが。
――もちろんこれはタクが扇動者を使って世論を誘導した結果だ。王国も対抗したが勇者の無様な姿は覆せなかった。というか娼館ギルド・グランドマスターであるライラの人脈をフルに活用した扇動など、覆せるわけが無かった。なにせ勇者反対派の貴族まで援護したのだから。
あの白金貨は、このために払ったと言っても過言ではなかった。




