62話 2人目の『5人目』
ちょっと作者の認識と、読者の皆様の認識が異なっていることに今更気が付きました(作者にとっては常識の範疇だったもので。申し訳ありません)。
龍瑠――その名の通り『龍』です。こちらは東方のあれを思い浮かべて下さればお分かりになるかと。細長い、蛇のようなヤツです。翼はありません。
緋煉――こっちは『竜』です。4足歩行で背に翼があります。一般的にドラゴンと呼ばれるのはこちらでしょうか。強いて言うなら西洋風?ですかね。
龍と竜は似ているようで全く違う種族だということをここに明記しておきます。ちなみに龍は〔水〕が得意で、竜は〔火〕が得意な種族です。
……なんか同じ文字を書きすぎてゲシュタルト崩壊を起こしそうですが、ご理解のほど、よろしくお願いします。
描写不足ですいませんでした。2人の登場回で、どこかに姿についての説明を書き加えておきます。本当に申し訳ありませんでした。
王城・謁見の間には、かつてないほどに重苦しい空気が充満していた。
その原因は言わずもがな、国から呼び出しを食らったタクである。
「それで? そっちは俺をどうしたいんだ?」
「………………」
「黙ってたら分からないんだが。そもそも俺は国賊としてここに呼ばれた。それはいい。正確にはその真贋を確かめるためにか。まぁそれも別にいい。だけどな、入ってすぐに罵倒されたら誰だって怒るよな? まさかそんなことも分からない王族じゃあるまい」
「……はい、分かります」
「だったら何故だ? 言葉で威圧しておけば済むとでも思ったか? それともなんだ、別に罵倒しても問題ないと思ったのか?」
「……いいえ、違い、ます」
「じゃああれか。アンタら王族の指導がダメだったわけだ。部下の手綱くらい握れないと上司失格だぞ」
「……すいません、でした」
「おいおい、俺は謝れって言ってんじゃないんだよ。アンタらの能力が足りていたのか否かを聞いているだけ――」
「――貴様! いい加減にしろ! その無礼な態度を」
「あ゛? 死にたいのか?」
「~~~っ!? ……(ブクブク)」
タクが掛け値なしの本気で殺気をぶつけたために、勇敢にも食って掛かった武官の1人は泡を吹いて気絶した。これが戦闘とは無縁な文官であったら、心肺も停止して最悪死に至るほどの殺気だ。その余波だけで周囲の文官達が嘔吐した。武官は辛うじて耐えたが、顔色はもはや真っ白だ。
タクがここまでキレているのには、ちゃんとしたわけがある。
『ふん、勇者を罠に掛けなければ勝てないような薄汚い賊が。その女どももどこかから盗んできたのであろう? 早く国に返したまえ。薄汚い賊が使っていた淫売とはいえ見た目は十分だからな!』
タクを舐めきっていた貴族の1人が吐いた言葉だ。そこからはもう地獄である。フィムや龍瑠ですら怯えるほどに、タクは激怒していた。
ちなみに、最初に吠えた貴族はタクのイスになっている。祐樹にやったのと同じ方法で激痛を与えて廃人に変えたのだ。今もぶつぶつと謝り続けているが……そんなのはもうタクの関知するところではない。
せめて、せめて『淫売』などと言わなければもう少し状況も変わっていたのだろう。しかしもう賽は投げられてしまった。バカな貴族によって。
「で? どうなんだよ。王族は無能なのか、有能なのか。有能と言うなら、どこがそうなのかもしっかりと説明してくれよ。俺は『薄汚い賊』だから学が無いんでね」
「っ! ……私、達は……」
今、タク達と相対しているのは王ではない。運が良いのか悪いのか、国王は年に数回ある4国合同の会議に出席していて不在なのだ。そんな理由もあって、ここに居る王族は王妃と第一、第二王子、さらに第一王女だけ。その4人で対応しようとしていたのだが、王子と王女は口を開くことすら出来なくなっていた。
「(どどどどどどうしましょうか……?)」
「(……龍瑠、落ち着いて)」
「(すすすいません、膝が、言うことを聞かなくてですね)」
一方でフィム達も軽くだが被害を受けていた。もう少し細かく言うのなら、龍瑠が殺気に中てられてガクガクしていた。
それも無理もないことだ。タクが出せる現在の全力なのだから。タクが今まで刈り取ってきた命の怨嗟とでも言うべきものが精神をガリガリと削り取っていくのだ。常人では耐えられまい。
「はぁー……じゃあ話を変えよう。交渉しないか?」
「交渉、ですか?」
「あぁ。俺はこの城の中のあるモノが欲しい。それをくれるのならば、今回のことは許してもいい」
「……断った場合は?」
「戦争に決まってんだろ。今の俺の気分は最悪だ。ここに居る人間を皆殺ししてから王都を破壊して、隣国にアスカトリア崩壊を知らせに行くだけだ」
そのあまりにも惨い発言に、その場に居る人間の顔色がさらに悪くなった。もう頭部から血液が無くなったんじゃないかと思ってしまうほどに。
「う……その、欲しいモノ、とは?」
「その前に。もしこれで渡せません、とか言ったらどうなるか分かってんだろうな? 最初に飛ぶのはお前の首だ。そこを良く考えてから答えろ」
「そ、そんな……」
近衛兵は殊更強く殺気を浴びせられているので立ち上がることすら許されていない。武官の中で戦える人間も完全に戦意を喪失してしまっている。つまり、事実上の死刑宣告だった。
「(フィムさん。本当にどうにかしないと不味くないですか? このままじゃアスカトリアが亡びますよ?)」
「(……今のマスターは、止められない)」
「(え?)」
「(……これは、多分、予定通り。だから、止めちゃダメ)」
「(え、これもですか? ……たしかに、罵倒など簡単に予測できたことですけど……)」
それはタクのみぞ知るところだ。神ではない。
だがしかし、これが予定通りだとしてもタクの怒りが演技かというとそうではない。本当に激怒しているのだ。だから相手の王妃にとっては予定通りだろうが何だろうがあまり意味は無かった。
「ほら、どうするんだ?」
「ぅ、ぁ……ほ、欲しいモノというのを教えて貰えなければ何とも……」
「………………はぁ……俺がそれを教えて、アンタがそれを渡す可能性がどこにある?」
「う、で、ですが!」
「別に国宝とか、金目の物とか、そういうものは要らないんだよ。そっちの損になるわけでもなし。……いや、多少は損になるのか。売ってたしな」
「売ってた……?」
「さて、ヒントはここまでだ。5分やるから俺が欲しがってるモノを考えてみろ。分かっても声に出すなよ。お互いに損だからな」
最後にもう1つだけヒントを与えて、タクは相手に考えさせることにした。こうすることで“欲しいモノ”に見当を付けるチャンスを齎すと同時に、分からなかった場合は『やっぱり王家は無能じゃないか』という方向に持って行くことが出来るのだ。
これで王妃が正解を導き出せば交渉は進むし、王妃が最後まで悩めば無能の烙印を押されて、やはりタクが有利な状態で交渉が進むだろう。どちらに転んでもタクとしてはプラスなのだった。
「……っ!? まさか、貴方は!」
「お? 案外早く気付いたな」
「ど、どこでそれを知ったんですか!? それを知っている人は――」
「――おっと、そこまでだ。それ以上は互いに不利益だぞ」
約3分。王妃が答えに至るまでの時間だ。これは短いのか長いのか。それはともかく、答えが分かった王妃は酷く取り乱した。それが知られれば大混乱に陥りかねないからだ。
「く……そうですね……分かりました。貴方の要求を呑みましょう」
「母様!?」
「母上……?」
「そうか。まぁ、そうなるよな。たしかに利益はあるかもしれないが……懐に入れていること自体が損だ」
「えぇ……あの、これで……」
「…契約だからな。先の言葉を翻したりはしねぇよ」
「――はぁぁぁぁっ……」
クタッ…と、糸が切れたように王妃は崩れ落ちた。それに周囲の人々が焦る。
「フィム、龍瑠。行くぞ」
「……ん」
「いや待ってくださいよ。どこに行くんですか?」
騒がしくなった謁見の間。そこにもう用はないと言わんばかりの態度で、タクは出て行ってしまう。
龍瑠の疑問は尤もだったが、それに返ってきた答えは意外……というか予想外なモノで、あの交渉の時によくバレないように出来たものだと2人の娘は感心した。
「――城の地下だ。そこに『5人目』が居る」
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そこは一見して普通の石造りの部屋であったが、その本質は牢屋だった。外に繋がる唯一の扉の前には金属鎧を身に纏った騎士が2人、常に立って居り、中に閉じ込められている人間は脱出など考えられない環境だ。
では、そんな物々しい空間に囚われている存在とは、一体どれほど恐ろしいものなのか。実は監視を任されている騎士達もその詳細は知らなかった。扉の向こうからは物音1つとて聞こえないのだ。しかしここまで厳重に拘束されているのだから、解き放ってはいけないことぐらい何も聞かされていない騎士達も理解していた。
さてそれでは、牢屋の中に居るモノは何なのか。答えは簡単だ。小学校高学年ほどの容姿をした、ただの少女である。
いや、“ただの”と評するには、その頭脳と身に宿した力は異常かもしれない。少なくとも、この世界の常識には当て嵌まらない存在だろう。
姓は立花。
名は菜月。
彼の少年と似通った出身の、少女だった。




