40話 聖女
「まず魔力の正体だけど、これは精神そのものでもあり、情報を蓄えるものでもあり、情報を書き換えるものでもある」
「……? ……???」
「詳しく説明するから」
そう苦笑しながら言う。
ふと、魔力が混ざったから表情も豊かになったのだろうか? と考えてしまうフィム。そうだとするなら、もしかしてこの笑顔は自分にしか向けられないものなのだろうか……とも考えてしまった。
「……//////」
「何故いきなり赤くなったし……」
途端に呆れて無表情に戻ってしまったが。
「はぁ……魔力って言うのはな、意思を情報として蓄えて、世界に書き加えることが出来るんだよ」
「……?」
「そうだな……お前は魔法を使う時、どうやって使う?」
「……え、それは、こう…『燃えろ』…って」
「そうだな。つまり魔法とはその人間が考えたことが現実に変換された結果とも言える。ここまでは理解したか?」
「……ん」
「じゃあ次だ。魔法へのプロセスなんだが……これは現実と情報の釣り合いだな。何も無い現実をゼロとして、書き込まれた情報の強度が10ならば魔法の威力は5になる」
「……情報の強度?」
「ああ。意志の強さや魔力の量が関係していて、あやふやなイメージだと魔法の構築自体が失敗する」
「……それは、わかる」
いくつか例を挙げるとするなら、タクが失敗した『持ち物』や、初めてフィムが使った〔焔〕などが該当する。
前者はイメージがあやふやな状態で行ったために掃除機と化したし、後者は〔焔〕という情報を本人が認識していなかったので、的以外も攻撃範囲に巻き込んでしまった。
それでもあの威力なのだからフィムの魔力量はとんでもないの一言に尽きる。
「……でも、結局何が言いたいのかわからない」
「まぁ焦るなって」
言われてみればその通りで、タクは尤もらしいことだけを言って本題には全く触れていない。今言っていたことは『魔法の使い方』だ。タクが最初に言っていたことは『魔法とは何か?』ということだった筈。
「では、俺なりに出した結論を言おうか――」
一瞬の間の後、
「――魔法は、根本的な意味で全て同一のものである」
そんなことを言い放った。
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どことも知れない暗い一室。そこには直径1mほどの巨大な水晶がいくつも円を描くように置かれていて、その1つ1つに老若男女様々な顔が映し出されている。
「皆様、今回は私の呼びかけに応じて頂き、誠にありがとうございます」
その部屋に佇むのはただ1人。純白の髪に夜空を思わせる黒眼をもつ女性だけだ。
「まずは皆様、これをご覧ください」
その言葉に呼応するように、部屋の中央に置かれた一際大きな水晶玉が突然浮き上がる。
それは淡く輝いたかと思えば、内部にある映像を流し始めた。
『これが……』
『ただのガキじゃあないな』
『素晴らしい魔力です! 私達にもここまでの存在は中々生まれませんよ!』
『魔力だけではない。見ろ、“龍気”に似た技も使っておる』
『どちらかというと“竜気”に似ていませんか?』
『ぬぅ…! 拳1つ取ってもなんという技術……!』
『へぇ~、変わった戦い方するねぇ~』
「皆様。この少年こそ、現勇者最強の御方でございます。何か質問などはございますか?」
『儂から1つ』
『あ、僕も聞きたいことが』
『アタシも~』
威厳ある老人と美形の青年、それにいかにも天真爛漫そうな少女が声を上げる。
女性はまず老人に目で質問の内容を促す。
『儂は貴女の見解を聞きたい』
「私の……ですか?」
『そうだ。やはり生で見聞きした人間の意見は重要だろう。どうなんだ、彼は。この虚しい争いに終止符を打てる存在なのか?』
「ええ。それだけは断言できます。彼ならば忘却と誤解しかないこの争いを終わらせることが可能です」
『………………そうか。貴女が言うのならば、そうなのだろう』
それっきり、何かを考えるように黙りこくってしまう老人。
だが良くあることなのだろう。誰も気にせず、司会者的な存在の女性は次に話を進める。
「ではファルス様。ご質問をどうぞ」
『うん。一応の確認なんだけど、彼は“人間主義”じゃないよね?』
ファルスと呼ばれた青年が発した言葉に、この場の若い衆が動揺する。しかし年長者達は逆に「何言ってんだコイツは?」という顔をしている。
その正反対な反応を見て女性はクスッと笑った後に、質問に対する答えを言った。
「もちろん違いますよ。彼の隣には“テンジン”が居ますし、彼自身も純粋な人間ではないですし」
『ファルス。お前はもう少し考えろ。聖女が“人間主義”など我らに薦める訳が無かろう』
『うっ……そうですね』
その会話を聞いてもう一度クスッと笑う女性。
聖女と呼ばれた女性は、まさにその通りで慈愛に溢れる微笑みを浮かべている。その純白の柔らかな髪と相まって神々しくすらある。
『最後はアタシだね~。2つあるけどいいかな~?』
「はい、問題ありませんよ」
『じゃあまず1つ目~。貴女と彼の瞳が似ているのだけど、どういうことかな~?』
「えっ……」
『2つ目~。彼が純粋な人間じゃないって、何が混ざってるの~?』
『おいカロ。矢継ぎ早に質問するな。聖女様が困ってるだろうが』
『きゃはは! ギーズってば分かりやすいな~。頑張ってもギーズじゃ聖女様とは釣り合わないよ~』
『テメェ……!』
『やめんか、2人とも。……それで聖女様、俺も先の質問の答えが気になるんですが……』
「ええ。いきなりのことで驚きましたが、別に隠していることではありませんよ」
そこで一度言葉を切り、ふわりと誰もが見惚れるような笑顔を見せた。
「彼と私は魂で繋がっています。それこそ夫婦以上に……」
その意外な答えに周囲の人間が言葉を失う。が、聖女は気にすることなく2つ目の質問に答える。
「そして彼は――“センジン”の魂の正当な継承者です」
タクの知らない所で、たしかに世界が動き出していた……




