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クィトス王国 3

「ではこれより、ナキリ様対ウルティリス様の練習試合を始めます!」



 マナガフの説明回から1週間。場所は王城地下の修練場。そこで修兵vsウルの試合が行われようとしていた。観客は樹、イリナ、黒羽にマナガフと騎士が4人、さらに教会から呼んだ治癒術師が1人だ。



「本当にやるんですね……」

「というか王女サマは戦えるのかしら?」

「そうでなければ許可が出るはずないですわ」

「まあそうなんだけどさ」



 それを見守る3人はちょっと楽しみにしていた。何しろ荒事と関わる機会がなかった人種ばかりなのだ。樹はモデルで、イリナはお嬢様で、黒羽も実は歌手として海外でそこそこ活躍していた。周囲に危険があっても本人達に行きつく前に他の人間が対処してしまっていたので、この3人はそういうことがあったこと自体を知らない。



「よろしくお願いします、ナキリ様」

「女だからって手加減しねえからな」

「ええ、もちろんです。私も貴方が勇者で戦闘初心者だからって手加減など致しません」



 早くも険悪な空気に。

 因みに、修兵は先に述べた3人とは出自が全く異なる。警察上層部の1人息子だったので、むしろ日常的に危険が身の回りに存在していた。逆恨み全開の犯罪者や、身代金目当ての犯罪者に、警察とのパイプを作りたい犯罪者達が年に何回か襲撃してきたのだ。

 そんな立場だから身を守るために色々と鍛えたり、学んだりしたのは当然のことだった。まあそれでも平和な日本でしか行動しなかった修兵と、紛争地帯に飛び込んでいたタクとでは『身を守る』という意識の部分から違うのだが。



「では………………始めっ!」

「「《ウォーター・バレット》」」



 審判役の騎士が声を上げるとともに、水弾が無数に飛び交う。大部分は相手の背後に飛んでいくが、そこには事前に勇者とマナガフが4面に張った《アクア・ウォール》があるので外には出ない。

 《ウォーター・バレット》は水氷系9級魔法で修兵の持ち札の中では最速の技だ。《アクア・ウォール》は7級魔法で、その名の通り水の壁を作り出す。


 なお、階級が上の魔法に下級の魔法を放つと1階級ごとに25%ほど減衰する。つまり9級魔法を5級魔法に放つと完全に無効化されてしまうのだ。今回は2階級も上の壁なので減衰率は50%である。それはもうただの水鉄砲と変わらなかった。



「《ウォーター・ジェット》!」

「《アクア・スフィア》《エミュー・ブラスト》」

「ちょっ、やり過ぎですわ! 《フロスト・ウォール》!」

「「「《フロスト・ウォール》!」」」



 水氷系魔法のオンパレードだ。

 因みに、ウォーター < アクア < エミュー < フロスト < アイス < グラキエスと階級が上がっていく。これ以上もあるが、そんな魔法を地下で使う馬鹿はいない。

 ウォーターは9・10級。アクアは7・8級。それ以降は1階級ずつ上がる。つまりウルが以前使った《アイス・ジェイル》は4級の意外と高度な魔法だったりする。なお、4級以上は上級魔法と呼ばれている。


 もちろん例外はある。カイルの私兵団の1人が使っていた《ダーティー・レンズ》が良い例だ。

 あれは不完全な上級魔法なのだ。4級に《アイス・レンズ》という魔法があり、それを劣化させたものが9級魔法になっている。


 話を戻すが、現在勇者達が使える魔法は5級まで。しかも実は適性が〔水〕しかなかったりするのでフロスト系が最高の技ということになる。これだけ言えば分かるだろうが、修兵がウルに勝つ可能性など万に一つもない。



「く…そっ! 《エミュ――」

「――はぁっ!」

「な!? がぁっ!!」



 魔法合戦となっていた練習試合だが、別に素手での攻撃は禁止されていなかった。武器の使用は禁則事項だったが。

 そういうルールだったので、突然ウルが走り出して修兵の顎に飛び膝蹴りを食らわせたとしても、誰も文句は言えない。修兵は魔法に固執するあまり、そのいきなりの物理攻撃に反応すら出来ずに撃沈した。



「勝者! ウルティリス様!」

「まだまだですね。せめて蹴りくらいは避けてほしかったです」

「「「………………」」」



 その涼やかな声に勇者達が押し黙る。正直予想以上の実力者だった。魔法だって少なくとも4級が使えるというのに、その上で武術まで会得しているとかどこの万能超人だと。それ以上のクソチート野郎もいるが、あれは例外である。



「では私はこれで。次はせめて3級魔法を習得してきてくださいね」



 そう微笑んで、優雅に修練場を後にするウル。その清楚な見た目とは違い、意外とアグレッシブな底知れない王女だった。




~~~~~~~~~~




 所変わってあの殺風景なウルの私室。そこにウルは戻って来ていた。



「……あら? これは……」



 ウルが手にしたもの。それは机の上に置かれていて、シンプルに『報告』とだけ書かれた封筒だった。ただし日本で使われる茶封筒ではなく、何かの薄い革で作られたものだ。



「彼女も謎ですね……あ、それよりも内容でした…………ふむ……やはりそうですか。まあそうでしょうね。彼に対抗するなど私でも不可能ですし」



 その報告書には


『森の中にてアーテリア侯爵が出した追手、13人の遺体を確認。それ以外にも判別不能ではあるが同種と思われる遺体を7体発見。どれも所持品は奪われた模様。ローブを着ていない者も存在。争った形跡が極端に少ないことから圧勝、もしくは奇襲にて瞬時に始末したものと思われる』


 と簡潔に書かれていた。なんというか性格が滲み出ているような文章である。

 それにしても、タクが黒装束を始末してからまだ1日しか経っていないというのに、どうやってウルに報告書を届けたのだろうか? 覚えてはいないだろうが、タクは王城からタークァの森まで馬車に1週間も揺られていたのだ。

 舗装も何もない道だったので時速12㎞程度だっただろうが、それでも1日6~7時間走ったらその総距離は560㎞にもなる。本当に謎のクノイチだ。



「やはり彼女は謎ですね。森に辿り着いたのは昨日あたりでしょうに。それを言ったら精鋭と呼べる追手を簡単に制圧している彼も謎ですが」



 ウルにとっては1週間の隙間を埋めるのも、20人の精強な殺し屋を余裕で返り討ちにするのもあまり差が無い。どちらも不可能だという観点で。


 タクは実にあっさりと黒装束達を仕留めていたが、あいつらは侯爵が雇うだけあってかなりの使い手たちだった。冒険者のランクに換算するとシルバーが16人にゴールドが4人といったところか。それだけ『5人目の災厄』は文字を読める人間にとっては脅威……というか恐怖であり忌むべきものなのだ。


 実は『5人目の災厄』は民衆には広まっていない。文字が読めないという理由が大半だが、それ以外にも“四属教が率先して広まるのを妨害している”のが主な原因だったりする。


 それは4人以外の勇者が存在すると非常に困るという、なんとも身勝手で情けない理由から行われている。この世界には宗教が1つしかないのだから簡単には解体までいかないだろう。正直そこまで警戒しなくてもいいのでは? と思うが、四属教上層部はビビりなので仕方ない。



「ふぅ……私も準備しなくてはいけませんね。失敗は許されません……せめて彼に手傷を負わせられる程度には強くならなくては……」



 このさらに1週間後。謎の黒コート白仮面(シトラス)との大立ち回りに、ギガンテック・オーガ戦や、その巨大な剣による大進行での殺戮劇が報告されて、ウルの溜息が増えたと言われているが真相は定かではない。



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