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クィトス王国 2

 タクが国外追放された翌日。



「――ということは、オレ達以外にもあと十数人の勇者がこの世界に呼ばれているってことか?」

「そうだな。しかしタチバナ殿が呼ばれたように、例外もあるので正確な数は分からないのだ」



 現在、教室のような部屋で4人の勇者達がこの世界について学んでいた。講師役はなんと宮廷魔道士団大隊長である。名前はマナガフ・ドルトロア。意外と若く、今年で37歳だとか。

 ここまでで説明された内容はダレイスがタクにしたのと殆ど同じ内容だった。

 余談だが『魔道士』は国に仕えていて、尚且つ優秀な者しか名乗ることが許されていない特別な職業……というか称号のようなものである。大部分の国に仕えている魔法使いは宮廷魔術師となっていて、それ以外のフリーの魔法使いはそのまま魔法使いと名乗っている。



「この世界では“四属教”という宗教がある。それぞれ〔火〕〔水〕〔風〕〔土〕を司る女神様方を信仰しているのだが、ここクィトス王国では特に〔水〕を司るアラントゥア様を崇めているのだ」

「それはどうしてですか?」

「この国はアラントゥア様が誕生したと言われている土地だからだな。他の3国でもそれぞれ別の女神様方が誕生したと言い伝えられていたはずだ」



 これが、各国が協力できない原因の1つとなっていたりもする。宗教戦争とまではいかないが「〇〇様の方が優れている」とお互いを認めずに話が進まないのだ。タクが聞いたら確実にキレる内容である。



「これの所為で各国の勇者様達はその国の“色”を名乗らなくてはならん。本当に申し訳ない……」

「え、いやちょっと! ちゃんと説明してくれないと頭を下げられても困りますよ」


「それもそうだな……まず、国の“色”を名乗るというのはその国に所属していると公言するようなものなのだ。つまり他国へ遊びに行くのは難しいということになる。調略や勧誘などが実に面倒だからな。仕事として赴くか、『世界の大穴』に向かう以外にこの国から出るのは難しいだろう。


 名乗るときは、ここは〔水〕の国だから『青の勇者』となる。だがタチバナ殿はそれを許されていない……というかその制約から解放されているから、どの国にも自由に出入りできるという訳だ。その部分だけでも私はタチバナ殿が羨ましいな」



 マナガフのその話し方を聞いて、4人は同じ疑問を抱いた。だがなんとなく聞くことが危ない気がして、顔を見合わせて押し付け合う。結果、イリナが質問することになった。ちょっと機嫌が悪くなった上に涙目である。



「その……マナガフさんは現状に不満がありますの?」

「ある。だがこれは他言無用だ。宮廷魔道士団大隊長が国家……いや、女神様関係のことに不満を持っているなど色々と問題もあるからな」



 予想通りなんともキナ臭い返答が。これを聞いて、イリナは3人に恨みの籠った視線をぶつけるが、その3人はウンザリとした表情をしていた。

 この話は掘り下げると危なそうなので、樹が話を逸らしにかかる。



「は、話は変わりますが、マナガフさんの魔法適性はやはり〔水〕なんですか?」



 この質問は別に今考えたものではなく、マナガフが宮廷魔道士だということと、女神の話を聞いて気になっていたものだ。他の3人も聞いてみたかったようで真面目に聞く姿勢になった。まあ先ほどの話題を流してしまいたい、という思いもあったが。



「良い質問だ。答えは〔水〕だけではない、だな」

「『水の国』の大隊長なのに違うのですか?」



 その言葉には苦笑するしかないマナガフ。その数瞬後に自分の失言に気が付き、樹は慌てて謝るが、別にいいと軽く許した。



「その疑問も尤もなことだ。四属教は“魔法は女神様の御加護”だと聖典に記しているが、私はそうは思わない」



 そのあんまりにもザックリした意見に絶句する勇者達。因みに聖典は地球上で最も売れた本のように量産できないので、各教会に1冊しか置かれていない。

 それにこの4人は知る由もないが、タクが四属教の考えは間違っていると知らぬうちに証明している。まあ古代魔法属性とかいう意味不明なものがある時点で四属教の理論は破綻しているのだが。



「極稀にだが、魔法適性を2種類以上も持っている人間がいるのだ。そういう私もそうなのだが、今は関係ない。この2種類の適性持ちを『ダブル』と呼ぶのだが、このような存在がいる時点でおかしいと思わないか? 

 しかも四属教には治癒術師という回復専門の魔法使いもいるのだぞ? 回復は一体どの属性なのか教会は頑として教えようとしないのだ。それこそ女神様が関係していない決定的な証拠だろうに」

「たしかに……産まれた場所は関係ないということですわね?」

「そうだ。この国にだって〔水〕以外の使い手はたくさんいる。つまりは魔法に女神様は関係ないということだ……と、私は推測している」



 マナガフ大正解である。科学が発展していない上に魔法という不可思議な力が存在し、しかも幽霊が魔物として普通に湧いて出るような世界なので女神存在論はかなり有力だったりするのだが、そんな中でも真実に辿り着けるマナガフは本当に優秀な魔道士なのだろう。

 例えるなら、天動説に真っ向から異を唱えた科学者である。ここでなければ処刑されかねない発言だったのだ。

 因みに、タクは治癒術師なる者に会ったことはない。というのも、メルテリアのような辺境に貴重な存在である治癒術師は派遣されないのだ。しかしそれらもタクやフィムの〔癒〕ではなく、それの下位互換にあたる回復系中級属性〔治〕の適性持ちしかいなかったりする。それにも色々と理由があるのだが、ここでは省略させていただく。



「それにな」

「まだあるのかよ……」

「まあ聞け。私達は魔法に階級を付けて行使しているだろう? それも違うのではないかと最近になって思い始めてな」

「ねえ大隊長さん。私達を相談相手か何かだと思ってないかしら?」

「はは、バレてしまったか。いやな、こんな話は誰に言っても相手にされないし、場合によっては謀反だなんだと騒がれるのがオチだろうからな」

「そんな話はわたくし達にしないでほしかったですわ……」



 どうやらこの大隊長、黒い部分もあるらしい。どことなくタクに似ている気がしなくもない。



「さて、雑談はここまでにして、本題に入るとするか」

「アンタが話を逸らしたんだろうが」

「ははは、手厳しいな。しかし必要なことでもあったのだ」

「まあまあ百鬼さん。大隊長自ら僕達に魔法を教えてくれると言っているのですから」



 そう。樹の言う通りで、この場に集まった名目はマナガフによる勇者達の魔法訓練だったのだ。

 たしかに世界情勢やら何やらは必要な知識なので納得できるが、その後の個人的な考えは参考にはなるが絶対に必要というものではなかった。4人はそこに納得できない。

 しかし黒い大隊長はそんなこと気にしない。



「まずは最下級である10級魔法から始めるか。まあこれは簡単で、魔力を手に集めて水をイメージするだけだ。この皮袋に向けて放て。名前は《ウォーター》だ」

「そのままですわ……」

「まんま“水”じゃねえか」



 ぶつくさ文句を呟きながらも魔力を集める。

 やはりなんだかんだ言って平和な勇者達であった。




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