36話 説明回
この世界には4つの国がある。配置は穴の開いたドーナツを上下左右に4等分した感じ、と言えば分かるだろうか?
東の『風の国』アレクトラ神聖国
西の『火の国』アスカトリア王国(タクがいる国)
南の『水の国』クィトス王国(タクが召喚された国)
北の『土の国』ミティルディア共和国
それぞれの国境に山脈・谷・森があり、その全てが5㎞を超える幅を誇っている。その中でも山脈と森は別格だが。
タクが放逐されたタークァの森とは別に、北東側のアレクトラ―ミティルディア間も広大な森で遮られている。
そんな4国は、揃ってある問題を抱えていた。それは大陸中央部にある巨大迷宮『世界の大穴』である。迷宮については後述する。
この『世界の大穴』は少しずつ、少しずつ大きくなっていて、つい10年ほど前に各国で村が2つほど飲み込まれた。それに対して国は危機感を抱き、4国は勇者召喚の儀を調査・研究した。その際に、各国の判断で勝手に召喚してもいいという意味不明な合意が4国の間でなされたのだとか。こんな時でも協力しない国にタクは心底呆れた。
そしてとうとう完成した召喚魔法陣。ダレイス曰く、近々召喚が行われて勇者が戦えるようになったら国が大々的に発表するのだとか。
この勇者は世界を救うために呼ばれた存在であり、『世界の大穴』の成長を止めることが使命となる。
迷宮の成長を止めるには迷宮の主と呼ばれる高位・中位の魔物を倒すしかない。何故なら主がその迷宮を作り続けていると言っても過言ではないからだ。
ここで迷宮の原理・構造についても説明しておこう。
迷宮とは高位の魔物の巣、もしくは巣だったものに他の中位・下位の魔物が住みついて、その濃い魔力で土地自体が変性したもののことを指す。その性質故に魔力を持った鉱物が見つかりやすく、危険だと分かっていても魔鉄や魔銀など様々な資源を求めて連日、冒険者達が迷宮に足を踏み入れている。
高位の魔物の巣が迷宮化したものは、主の眷属が集まって構成されるという傾向がある。つまりドラゴンが主だった場合、中位・下位の魔物は爬虫類系統と亜竜や偽竜が集まりやすいのだ。タクはこれを聞いて「逆に他種族が主に排除されているのでは?」と疑問に思ったが、真面目な雰囲気だったので黙っていた。
次に、巣だったものが迷宮化したものだが、これには3通りある。
1つは、主が死亡してアンデッド化した場合。もう1つは主が出て行った場所に高位・中位の魔物が新たに住み着いた場合だ。最後の1つはまたもや後述。
まずは前者のアンデッド化した場合の迷宮だが、これは主自身が眷属を生み出すことが出来るので、例外なくアンデッドの巣窟になる。しかも踏み入った冒険者達もゾンビとして復活するので精神的にも厳しい迷宮だ。
次に後者の新たに住み着いた場合。これは殆どが中位のパッとしない奴等が主となる。というのも高位の魔物は知能が高いので(ギガンテック・オーガが良い例)使い古されて脆くなった場所に住もうとは考えないらしい。それに、その強大な力があれば住処の1つや2つすぐに造れるのだ。
最後に、説明していなかった3つ目だが、それは乗っ取られたものだ。新しく造られた巣に他の魔物が乗り込んで奪い取り、そこが迷宮化したもの。これは一番危険度が高い。
何故なら、巣を造れる魔物は総じて強く、その魔物を倒せるということはそれよりも強いということだからだ。実はギガンテック・オーガも住処を奪われて出てきた魔物だったりする。偶然大進行と重なってしまい、しかもそこにタクが居たために殺されてしまったのだ。
そしてここに迷宮が成長する理由がある。
住処の奪い合いは魔物達の中では日常茶飯事で、それこそ世界中で行われている。それを防ぐために、高位の知能ある魔物達は住処に工夫を凝らすのだ。主の部屋は奥深くに作り、配下の眷属達に命じて徐々に住処を広くして、さらに眷属達を受け入れる。
こうして力を蓄えるために迷宮は成長していくのだ。
しかし世界の大穴だけは例外で、色々な部分が矛盾している。例えば住み着いている魔物がスライムからアンデッドまで、現時点で確認されている種族のほぼ全てが揃っていたり、世界の大穴を奪い取りに来る魔物がいなかったりと、良く分かっていないことが多い。
話を戻すが、勇者の一番の役目は『世界の大穴』の成長を止めることだ。今や直径20㎞を超える大迷宮を4国合わせて16人で制覇しなければならない。これにはタクも鬼畜だな、と思わず同情してしまった。しかも各国が協力しあう確証はないのだから、実質的には4人での攻略ということになる。もはや不可能な領域だ。
ここに迷い人が入ることもあるとダレイスは言っているが、残念ながらタクは迷い人ではなく、完全な第三勢力である。
これを説明するには、まず各国で崇めている女神が偏っているところから始めなくてはいけないので割愛させていただく。
* * *
「ふぅ……これくらいだな、私が教えられることは」
「…ありがとうございました。まさか一気に話すとは思っていませんでしたよ……」
「はは…君は無駄を嫌うようだからな。ところで、すぐに行くのか?」
「いえ。あと少しメルテリアに滞在するつもりですが」
「そう、か……なにか必要なものはあるか? 武器なんかもある程度は融通できるぞ?」
「いきなりどうしたんですか? 最初とは大違いですね」
何が原因なのか、いきなり親切心を発揮し始めたダレイスを訝しむタク。ギガンテック・オーガ買い取りの時もそうだが、突然の善意を信じられるほどタクは真っ直ぐには育っていない。
「いや……な。私が君ぐらいの歳で君のような考え方が出来たかどうかを、最近になって想像してみたんだ。一言で言えば“無理”…だな。そうなるにはかなり過酷な経験がないと不可能なんだ。温室育ちの私には全く想像できないがそれでも辛かったのは分かる。
今だって私の善意を信じる前に疑っただろう? つまり君はそういう育ち方をしたということだ。だったら私たち大人が教えることなんて1つしかない――」
そこで一度言葉を切る。いつの間にかダレイスは微笑んでいた。
「――人を信じることを、だ」
そして紡がれるタクを思いやるその言葉。
その慈愛に満ちた言葉に対してタクは――
「余計なお世話ですよ。俺が信じる人間は俺が決めます。貴方なんかに言われなくても俺は人を信じることが出来ますし、フィムなんかは全面的に信頼しています」
――バッサリと切り捨てた。しかし何故かその場の空気は悪くならず、その後もダレイスは微笑みながら、タクは相変わらずの無表情で他愛ない言葉を交わすのだった。




