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33話 過去の光景

 タクはその光景を見て、ああ夢だな……とすぐに理解した。何故なら――



『あれが第八世代か。たしか……タク…だったか?』

『はい。正確にはですね。1つの才能に特化させた調整体です』



 ――そこにはまだ生み出されたばかりの自分がいたからだ。それに、会話している2人はタクがその手で確実に始末したのだから、生きているはずがない。



『その才能とは?』

『託は“適応力”に特化されています。生物が持つ最大の可能性です』

『ほう……しかしそれでは戦闘面で劣るのでは?』

『いえ。リッカシリーズの特徴は全て受け継いでいるので問題ありません』

『ふむ……では――』



 そこで唐突に映像が早送りになる。すぐに元の速度になり、泣き喚いている赤ん坊――タクが見えるようになる。どうやら先ほどの光景からはあまり時間が経っていないようだ。


 そのタクの前には巨大なテレビに似た何かが置いてあった。そこで流されている映像は……実際の戦争を録画したものだった。



(あぁ……これは薄らと覚えているぞ。これの所為で50人もいた第八世代が9人にまで減ったとか聞いたしな……幼い頃から殺人への忌避感を減らしておきたいのは分かるけどさ、赤ん坊に戦争を見せて狂わせるのは間違ってるだろ)



 そしてまた早送りになる光景。

 次は少し長く続いて、切り替わった光景はタクが3才ほどまで成長していた。



『じゃあ沓木・・、これの答えは?』

『はちじゅうはち、かな?』

『正解! じゃあこっちは?』

『んーと……あれ? おねえちゃん、これやったことないよ?』

『そうよ~。これは元がこういう式なの。これを踏まえてもう一度やってみて?』

『えっとねー……きゅう、と……ごぶんのに!』

『よく出来ました! 次はこれよ~』


(これな……今思えば3才児にする教育ではなかったな。というか俺も良く覚えられたものだ……13才の時には大学レベルまで詰め込まれた気がするし……)



 そして始まる早送り。次は7才ほどのようだ。その隣には同い年くらいの女の子が2人いる。



(ん? 菜月なつき妲姫たつきか。この頃は……なにしてたっけな……)


『クーちゃん、ターちゃん。これ見てなのだ!』

『んー? これって…ぼく?』

『そうなのだ! こっちはターちゃんなのだ。ナツが作ったのだ!』

『わぁ……! ナツって凄いね! これもあたしそっくり!』


(そうだ……この頃は菜月が創作の才能に目覚め始めた頃だ。思えば、菜月は俺よりも開花が早かったんだよな……今は何をしているのやら……)


『そういえばクーちゃん、さっきは何してたのだ?』

『ぼくは訓練してた。先生が強くて全く勝てないんだ……』

『タクはまだ良い方だよ。あたしなんてナイフが重くて使えなかったんだもん』

『ナツは何してたの?』

『? ナツはこれ作ってたのだ』

『『なんでナツは自由なんだろう……』』


(妲姫は結局、超長距離からの狙撃に才能があったんだよな。それまではナイフを握るのが嫌でよく泣いてたっけ……)



 再度の早送り。今回は結構長めだった。

 その光景はタクにとってはとても――そう、もう二度と戻ってこない大切な思い出が映されていた。

 そこに立っている14歳の少年少女たち。全員で9人の彼ら彼女らは今から戦地へ赴こうとしていた。



(……ここまでが一番楽しい時間だった……俺達は、甘かったんだ)



 映像が切り替わる。どうやらタク視点らしい。その画面に映っているのは――こちらに儚げな笑顔を向けている、血濡れの少女だった。



『……ごめん、ね……タク――』



 その口は最後まで言葉を紡ぐことなく、暴力の嵐に曝されて粉々になってしまった。



『――ぁ…ぁあ…そん、な……』



 画面の外から――否、自分の内側・・・・・から呆然とした声が響いてきた。それと同時に、画面が震えだした。



『………………ク、クク……』



 どうやら笑いを堪えて震えていたらしい。タクはその時の光景を複雑な思いで見ていた。



『くはハははハハはハハは!!!』

『なんだあのガキ? 女が死んで狂ったか?』

『どうでもいい。やれ』

了解ヤー

『……のは…………よ』

『? 待て。何か言っている』

『あんなガキが情報を持っているとは思えませんが?』

『いいから黙って――』

『――死ネ』



 男達の頭が斬り飛ばされたところで映像が切り替わる。その画面の中心には全身を血に染めて、両手に長さの違う刀を握ったタクが。その周囲には例外なく頭部を失っている死体が。その数は100や200ではなかった。



『タク……? おい、どうしたんだよこれ……』

『ああ、楔揮かつきか。彌希みつきが死んだ』

『え……』

『俺は抜けるぞ。俺達は知らないことが多過ぎる。あの施設に――閉鎖空間に戻るつもりはない』

『ちょっ…待てよ! そんなことしたら――』

『――追跡命令が出る……か? それともこの逃走防止用の爆弾チョーカーか? はっ、それがなんだ。そもそもお前らは俺を見つけることすら出来ないだろうが。彌希が死んだからなぁ!! この爆弾だってもう解除済みだ!』

『タク……』

『あのクソ共に伝えておけ……「必ず殺す」と。……じゃあな』

『タク!』

『………………』



 その呼びかけにタクは足を止めるが振り返らない。



『俺達は! 俺達だけはお前の味方だからな! いつか戻って来いよ!!』

『………………』



 その言葉にも振り返らず、タクは無言で遠ざかっていった。



(あれから色々あったなぁ……紛争地帯に突入してはテロリストを狩って……あぁ、そういや公安のあの人とかシスターのあいつとか…今はどうしてるのやら……)


「……―――!」


(……? 何か聞こえた気が……)


「………ター! マスター!」


(フィムか? ……そうだよ、俺はあのデカいのに殴られて……どうなった? まあいいや。声がする方に行けばいいんだろ? こういうのは)



 振り返ると、すぐ近くから光が差し込んでいた。というか真上に黒い水面のような何かがあった。



(泳いでいくとかではないのな。こっちのが俺らしいか)



 そしてタクは躊躇うことなく水面に飛び込んだ――



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