32話 vsギガンテック・オーガ
フィムが気を失ったタクを受け止める、10分前。
タクは森の中を全力で駆けていた。思っていたよりもギガンテック・オーガの進行速度が速かったので急いでいるのだ。
(っ! 見えた!)
その視界に巨大な足が映った。周囲の木よりも太いがタクはそこらへんを気にしないことにした。地球だったら確実に自重で潰れているが、この世界では違うと強引に納得するしかなかった。
(まずは先手で膝を潰す。無理だろうけどな)
タクは全力疾走そのままの速度でギガンテック・オーガの膝に蹴りを叩き込んだ。両者の足がミシミシと軋む……が、どちらも無傷に終わる。
「ホントに硬いな。実は金属の骨とかじゃないよな?」
そんな冗談を言いつつもオーガの眼前まで移動する。そして何の躊躇いも無く拳銃をホルスターから取り出し発砲……する前にオーガが腕で顔を庇っていたのでダメージはない。それどころか肩に担いでいた斬馬刀を振り下ろしてくる。――後ろへ飛び退りながら。
「なっ!? クソッ!」
結果的に斬馬刀の攻撃範囲に入ってしまったタク。近ければ避けることも簡単だったが、こうやって距離を取られてしまうとその長さ故に、先端の速度がとんでもないことになっていて、ただ避けるだけでは衝撃波に襲われる危険性があった。
だからタクは近づく。斬馬刀だけなら簡単に躱せるので、再度目を狙って発砲。なんと今度は顔を背けてそれを防ぐオーガ。直後に大地を叩き割る斬馬刀。
(こいつ……! なんで拳銃が脅威だと分かるんだ!)
内心で愚痴っていると、オーガが新たな行動を起こす。破裂するんじゃないかと思うほど息を吸い込んで、胸を大きく膨らませ始めたのだ。
タクの本能が警鐘を鳴らし始めるが、何かをする前にオーガの準備が整ってしまった。
「―――――――――――――――!!!!!!」
それはあまりに大き過ぎて聞き取れない咆哮だった。周囲の木々は吹き飛び、少し離れた場所にいた魔物達は破裂した。だがタクは――
「――ぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!」
――空間障壁(《インヴィトレス》で使っていたもの)を1枚だけ纏って、自分だけが助かる最低限の防御……音の相殺でもって咆哮を耐えきっていた。これにはオーガも驚愕し、本来は10秒ほどの咆哮を可能な限り引き延ばす。
しかしオーガが対峙しているのはただの人間ではない。あのタクなのだ。
元々、人間離れしていた肺活量を誇っていたが、それをさらに『気』で強化するのだから地球上の生物とは比べ物にならなかった。この世界特有の魔物と比べたらどうか分からないが。
やがて、轟音の嵐は収まっていく。ただの音での攻撃は――周囲に甚大な被害を与えていた。両者を中心に半径500mほどが更地になり、その外側も吹き飛ばされた木々によって滅茶苦茶になっていた。
「グ……グルァ……!」
「はぁ、はぁ……!」
その原因である1人と1体は肩で息をしながらも、その眼に殺意を漲らせている。お互いに余裕がないのだ。タクはシトラス戦でかなり消耗していたし、オーガは初めて大咆哮を防がれて焦っていた。
(今ので体力がごっそり持っていかれたな……だけどこいつの動きから考ると、やっぱりフィムじゃ勝てなさそうだ。そうなるとメルテリアが滅ぶ。つまり森から出す訳にはいかない。……面倒だなぁ……見捨てることが出来たらどれだけ楽か……)
タクはそんな中でも冷静に現状の分析をしていた。その結果はやはり自分だけで処理するしかないということだったので、心中は諦めで一杯になるが仕方ない。先端が音速を超えていそうな斬馬刀なんてフィムでは対処できないのだ。
そもそも人助けとか俺に似合わないんだよな……なんて呟きながらも殺す計画を練る……が、どう考えても無傷では済まない。というか下手すると死にそうな計画しか思い付かなかった。それにそこまでしか時間もなかった。
「グオォォォオオ!!」
「チッ!」
突如地面から跳ね上がってきた斬馬刀をかなり離れて躱し、反撃に発砲するがやはりその太すぎる腕に防がれる。
と、斬り上げた斬馬刀が、今度はその勢いのままに円を描いて横から迫ってきた。タクはその重そうな岩の塊を扱う技量もあるのかと驚きつつも、ギリギリ上に回避して斬馬刀を思い切り踏み落とす。
凄まじい衝撃と共に斬馬刀と腕が下がった。なんとオーガは取り落とすことなく、しかも斬馬刀は砕けることなくその軌道を大地に向けただけだったのだ。タクも空間障壁を纏っていなかったら足が砕けていたところだ。
しかしタクはそんなこと織り込み済みだった。この状況は先ほど練ったパターンの中にもあったし、ここから体勢を立て直すためにはもう片方の腕を使わざるを得ないことも予測していた。
その一瞬を狙って引き金を引く。その弾丸は残りの魔力を全て注ぎ込んで加速させたものだ。結果、簡単に超音速を超え、その影響でタクが衝撃波に巻き込まれて吹き飛ばされた上に、銃を持っていた右腕がズタズタになった。
「――ぐぅっ!!」
「!? ゴァア!!!」
だがオーガもバカではない。タクが拳銃を自分に向けていることに気付いた瞬間、斬馬刀を引き戻そうとしていた腕はタクを殴りつける方向に変わっていた。
――バアァァン!! と弾丸が衝撃波を撒き散らし、
――ドォォオン!! とタクが巨大な拳に殴り飛ばされた。
その弾丸はオーガの頭に大穴を穿ち、拳はタクの銃を破壊した上に意識を刈り取ることに成功していた――




