20話 魔法の考察
翌日。まだ日が昇ってすらいない時間に、タクは眠っているフィムを背中に乗せながら森へ向かって走っていた。
何故か走っているのにフィムに振動は伝わっていないようだ。すやすやと眠っている。
(街の中だと出来ないことが多すぎる。多分だが〔空〕と〔速〕属性は誰かに見られると面倒なことになるだろうな。それにフィムの〔光〕属性もヤバイ気がする。この世界では基本の4属性しか伝わっていないようだし、もしかしたら〔癒〕もダメかもしれない)
タクは早朝に魔法の練習でもしてみようと思っていたのだが、やり方が分からず、つい余計なことを考えてしまった。そこでふと気が付いたのだ。
これを見られたら、また異端として扱われるのではないか?
タクとしては別にそれでもよかった。だがフィムは? フィムはまだ幼く、世界に対抗する術を持っていない。それでは簡単に潰されてしまう。
そこまで考えてしまったタクは、街中で魔法の練習をすることをやめた。他の場所でも見られる可能性がなくなるわけではないが、それでも中と外では外の方が確率的には低い。それが今の状況である。
(なるほど。勇者……いや、5人目の役割ってやつか。こりゃあ厳しいな。あいつの言葉もあながち間違っていなかったってことだ…だがあの場で言及しなかったということは……ん?)
「……んゅ…………ましゅたぁ…?」
「あ、起こしちゃったか。もう少し寝てても大丈夫だぞ?」
「……ん…ねる……」
「…ふぅ、少し考えに耽り過ぎたな……」
今はやめておこう。そう呟いて走り続けるのだった。
~~~~~~~~~~
「すぅー……はぁー……よし。色々と試してみるか」
現在の時刻は午前5時半ほど。なんとタクは子供1人を背負いながら、1時間半ほど走り続けてタークァの森近辺の草原まで来ていた。草原といっても人の手が入っていないので草はタクの腰ほどまで伸びている。
フィムは寝る分のスペースを切り払った場所で、タクのコートに包まれて眠っていた。
「とは言ったものの……空間ってイマイチ想像できないんだよな……ありがちなものだと、空間を斬ったりとかそういうことか? まあ、そもそもの問題として普通の魔法すら使い方を知らないんだけどな、俺」
学ぶ前に国外追放された身なので、この世界で言う常識を全く知らないタク。
そして、常識を知らない人間は大体が突飛で理解できない、誰も考えたことのなかったことをする。タクもその1人だった。
(別にゲームじゃないんだから決まった形の魔法はないはずだ。態々みんなで形を揃えたりする必要はないからな。すぐに対応されるし、対策も簡単になっちまう。この世界の人間もそこまでバカじゃないだろ。
だけど同じ属性で違う魔法が出来るということは、使う人間の何かしらが魔法を行使するときに影響しているはずだ。
で、魔法の元…魔力は恐らく精神エネルギー的なもののはず。精神とはその人の内面そのものとも言える。そうだとするなら、思考・想像は魔力に多大な影響を与えるんじゃないか?
これらを合わせて考えれば――)
タクはそこまで考えて、徐に足元に落ちていた石を拾って遠くに投げてみた。
バシュッッ!!
その石は音だけを残して彼方へと消えていった。目視が困難なスピードで、だ。
「……おおぅ…自分でやっといてなんだが、こんな簡単に成功するとは思わなかったぞ……まあ、魔法の使い方が分かったんだ。それで良しとしよう」
因みに今タクが使った魔法は〔速〕属性の効果“加速”だ。投げた石の速度を少しだけ上げたらご覧の有り様である。というか空間がどうのとか言っていたくせに試すのは〔速〕なのか。
「……もしかして〔空〕を上手く使えばゲームの『持ち物』みたいに大量の荷物を持ち歩けるんじゃ……というか、魔法の袋とかありふれた物があるじゃないか!」
ありふれてない。だがその言葉は恐らく正しいのだろう。
タクは魔法を『想像力』で発動した。つまり、その属性で出来ることならば何でも出来るということに他ならない。だって型がないのだから。
それからタクはフィムが目を覚ますまでの数時間、延々と魔法の練習を繰り返すのだった。
~~~~~~~~~~
「まずはおはよう、フィム」
「……おはよう、ますた」
「お前にはこれから魔法の練習をしてもらう。ただし街中で使うことは許さない。いいな?」
「……ん。やくそく」
「ああ、約束だ。だけど街で何もしないのは時間の無駄だ。だから街中では体術の訓練をする」
「……たいじつ?」
「体術だ。まあ要するに魔法以外でも戦えるようにしよう、ってことだ」
「……ん、フィムもたたかえるよーになる!」
「その意気だ」
8時を過ぎた頃に、肉の焼ける匂いで目を覚ましたフィム。もう完全に胃袋キャラだった。
約10分で大量の肉を食い尽くして満足した後の会話が上記のものである。挨拶より肉を優先しているあたり手遅れな気配をひしひしと感じる。
「魔法っていうのはな、何をしたいかをより明確に想像することが大切なんだ」
「……?」
「そうだな……あそこに転がっている石は見えるか?」
タクが指差した先――20mほど離れた場所に石というより岩という感じのものが落ちている。当然フィムにも見えるので頷いてそれに答える。
「フィムは〔焔〕を持ってるから……あれを燃やすことを想像してみろ」
「……ん」
タクが返事を聞き取った直後にフィムの魔力が爆発的に跳ね上がり、周囲が荒れ狂う業火に包まれる。
――それはタクとフィムも例外ではなかった。




