21話 過去の断片
「焦ったー……まさかこんなに大出力だとは……」
タクは眼下に広がる景色に戦慄していた。範囲こそそこまで広いものではないが、燃え盛る焔の色は超高温を示す白だ。それを見てなるほど〔聖〕属性に含まれている訳だ、と1人で勝手に納得していた。それくらい神々しい焔だったのだ。
「……ますた、すごい」
「いやどう見てもお前の方が凄いだろ。全部溶けたぞ」
「……でもフィムはとべない」
「俺だって飛んでる訳じゃない。空間を固めてそこに立ってるだけだ」
今タクが立っている場所は地上30mほどの空中だ。
フィムの魔力が爆発的に跳ね上がった瞬間、本能的に危険だと感じてフィムを抱えて飛び上がっていた。いくつか足場を作ってここに来たときには地上は白一色になっていて、焔以外は何も残っていなかったのだ。
「覚えるべきは制御だな。これじゃあ俺でも生き残れないぞ……」
「……フィム、だめだった?」
「いや? むしろこれだけの威力を証明してくれたのは良かった。これはこれで怖い部分もあるが“知らない”よりはいいだろ。次は小さく、その次はさらに小さくすることを意識して、少しずつ慣れればいい」
「……ん、わかった」
「よし。じゃあここからやってみるか。次は……」
タクは的になるものを探すが、地上は直径50mほどが焼失して結晶化した地面しかない。だからそこから移動して、また新たに岩を見つける。
「次はあれでいいか。あの岩をちょっとだけ溶かす気でいけ」
「……ん」
フィムが集中して魔力を練り上げる。先ほどの暴走に近いものではなく、穏やかに、尚且つ縮小を重ねていく。最終的には手のひらの上に白金色のビー玉のような魔力の塊が出来上がった。言うまでもなくフィムの金色の魔力と白い〔焔〕属性が混ざった結果である。まあそう見えるのはタクだけで、他人には白いビー玉にしか見えないだろうが。
「フィムって魔力の扱い方が上手いよな。それともこの世界ではこれが普通なのか……?」
「……ますた、これ、どうしよ?」
「いや撃てよ。ここで暴発したらそれこそ死ぬぞ」
「……ん」
次の瞬間、目標と定めていた岩が消えた。というか岩があった地面もろとも半球状に消失していた。
「………………は? え? フィム、今なんかしたのか?」
「……ん。ちっちゃくしたやつ、あれにとばした」
「おいおいマジかよ……」
「……フィム、まただめだった?」
「凄すぎてビックリなんだけどな。俺も全く見えなかったぞ」
「……んふふ…フィムすごい?」
「ああ。お前は天才だよ。絶対に俺より強くなる。まだ負ける気はないけどな」
事実、タクはフィムが放ったという魔法に気付くことすら出来なかった。それもそのはずで、あの魔法には〔焔〕だけでなく〔光〕も混ざっていて、亜光速にこそ届かないものの雷速と言ってもいいくらいには速かったのだ。集中すれば銃弾ですら見切るタクにも見えない訳である。
(難点は溜めに時間がかかることか。さすがにそこまで求めるのは酷だが、これは実戦では使えないだろうな。もう少し密度を下げれば使えるかもしれないが……まぁ今回の目標は制御だったんだから問題ない)
たとえ見えない攻撃だったとしても対策はされる。拳銃だって射線上に入らないように動かれるのが常だった。だからこそタクは強力無比なこの魔法は使えないと判断する。
(今考えることじゃないか。将来性抜群だし。今はこの力を伸ばしてあげるのが俺の仕事だな)
「フィム」
「……」
「…フィム?」
フィムは褒められた嬉しさのあまりタクの胸に頬擦りしていた。ずっとしていた。だから頬が真っ赤になっていたがまだ続けていた。話しかけられてもなお続けている。
「……お前何してんの? いや、気付かなかった俺もどうかと思うけど……」
「……なんかやりたかった」
「はぁ……まあいい。やりながらで良いから話を聞け」
「……ん」
「これから森の中に入って大進行の前兆を調べることになる。場合によっては生き物を殺すことになる。それでもお前はついて来るか?」
「……ん。わかってる」
「何を?」
「……フィム、おかあさんがいなくて、おなかがへって、それで、うさぎさんたべたの。おいしくなかったし、とっても、かなしかったの」
それはフィムが奴隷商人に保護される前の1ヵ月の話。
心が壊れる寸前まで追い詰められた3才の女の子の話。
世界はとても汚いと初めて知った、ただそれだけの話。
いつの間にかフィムは泣いていた。さっきまで笑っていたのに、泣いていた。声も上げずに、ただただ静かに涙を流していた。
タクはそれを見て、何も感じなかった。ただ、似ているな、と思った。だからだろうか……その涙を無意識のうちに指で拭っていたのだ。
「フィム。絶対にそのことを忘れるなよ。忘れたら人でいられなくなる」
「……? ……わかった。ぜったいにわすれない。やくそく」
「ああ。だから泣くな。俺が1人になんてさせないから、俺も独りの辛さは知ってるから……な?」
「……ぁ」
タクは自分にそっくりの女の子を抱きしめた。
抱きしめられて、その暖かさを感じて、フィムは今まで溜め込んでいたものを吐き出すかのように泣き続けた。
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その日の夜。
あの後フィムは日が暮れるまでずっとタクに縋り付いていた。タクがフィムの好きなようにさせていたからでもあるのだが、それは置いておいて。
今は泣き疲れたのかベッドですやすやと眠っている。泣き止んだ後に急いで街まで戻ったのだが、早朝に出たとき門を通らなかったのでちょっと焦った……が、空中を走って普通に侵入した。犯罪とかは気にしない。タクに法律を当て嵌める方がバカなのだ。
そのタクはフィムの過去の断片を聞いて、新たな疑問が出てきてしまったため、それについて考え込んでいた。
(どういうことだ? いくら5人目が召喚されたからと言って、ここまでの偶然が起きるものなのか? フィムの過去は状況こそまるで違うが、俺たちにそっくりだ。まあ俺だけは親すらいないけどそこは関係ない。
問題はまるで誂えたかのような人物が俺の行く先に現れたことだ。あんな魔力と過去を持っていたら俺は絶対に何かしらの形で関わったはず……もし、それが、俺が来る1年も前から計画されていたとしたら? そして、これからも同じことが起こるとしたら?
……そうなったら俺は………………絶対に放っておくことができない。
ちっ……仕方ない。手の平の上ってのはウザいが、そういうやつを俺の前に集めてくれるんなら乗ってやろうじゃねぇか。
待ってろよクソ野郎……何処の誰が俺を呼んだのか知らないが、今この瞬間、お前は俺の敵になった。確実に消してやるからな……!)
タクのその眼の奥では冷たい焔が猛り狂っていた――




