痛み
「本当に、幽霊なんて存在すると思ってるの?」
「そ、それは――」
居る、と思ってる。それどころか、私自身がそうだって認めてる。
けれど、口に出す事はしない。それは質問と言うよりも、明らかな昴君の意見だったから。
「お寺の役目は死んだ人間の供養なんかじゃない。死んだ人間を想って悲しむ人達の心の痛みを少しでも和らげるために存在するのさ。死んだ後幸せになってるから気にする事はない、ってね」
――意外だ。私の想像では「幽霊なんて人間の目の錯覚が生み出した幻想だよ。大体の話は科学的根拠だってあるしね」なんて突っぱねられると思っていたから、こうも人情味のある事を言われるんて、ホント、予想外。
「なんて顔してるのさ。心外だよ」
どうやら、顔に出ていたらしい。私は苦笑いでごまかした。
「納得できないなら別に構わないよ。そんな話をしに来た訳でもないしね。ほら、頭見せて」
そう言いつつ、昴君は片手で軽く手招き。逆の手は小さな木箱に軽く置いたまま。
私はアホみたいに口を半開きにしたまま昴君の様子を伺った。
「馬鹿面してないで早く頭見せて」
再度手招きをされるが、言葉もジェスチャーも全く意味が分からない。
「……」
行動を起こさない私を、今度は無言で手招きした。酷く睨みつけながら。
意味は分からないけれど、昴君の機嫌が急降下していくのは分かる。私はよく意味を理解しないまま、頭を昴君につきだした。
「あれ? 確かこの辺じゃなかった?」
脳天を行ったり来たりする手。
あぁ、きっと髪の毛はぐしゃぐしゃなんだろうな。
「ねぇ、さっき僕が殴った所どこ?」
「ん? ちょうど昴君が触ってるあたりだよ」
「嘘。ここら辺全然腫れてないよ」
「だって、腫れるほど痛くなかったもん」
「は?」
昴君にしては、間抜けな声が漏れる。
チラリと表情を伺うと綺麗な白い肌に、正確には眉間に、しわが寄っていた。
「手加減なんてしたつもりはないんだけどな」
「え……」
ボソリ、と誰にともなく呟くその姿は嘘を言っているようには感じない。
昴君、君って人は女の子の頭を腫れるまでに殴るんですか……。
いや。それよりも気になるのはあの時、それほど痛くなかったという事実。