居候
「僕はまだ信じてないから」
昴君は部屋に入ってくるなりそう言った。
私の事を幽霊と認めた昴君のお父さん(怜治さんと言うらしい)は行くあてのない私に部屋を貸してくれた。
本来の私なら、そんなずうずうしい真似できない、と言って丁重にお断りするのだけれど、それはできなかった。実際のところ私には行くあてどころか帰る場所さえもない。しかも怜治さんの言う通り私が幽霊ならば、すでに死んだ事になっているはず。となると、もちろん戸籍も存在しない訳で、私ひとりでは部屋を借りることもバイトをすることもできない。つまり、ここのお寺に厄介になる以外他に方法はなかった。
住む場所を提供してもらった私にとっての当面の問題は、目の前で私に冷ややかな視線を送っている昴君だけだった。
「なんのつもりで偽名まで使ってうちにあがりこんだか知らないけど、僕の目の黒いうちは好きな事はさせないから」
昴君は凛とした佇まいで私を睨みつける。
傍で見ていたらきっと絵になるだろう、と苦笑した。睨みつけられている私としては、容姿が良い分だけ嫌われるのは普通以上に堪える。
「まったく、父さんも何を考えてるんだか……。幽霊なんているわけないのに」
「その考え方はお寺の息子としてどうかと思うけど」
しまった、うっかり口が滑った。
およそお寺の子、将来はきっと住職になるであろう人間の発言とは思えないそれに思わずツッコミをいれてしまった。しかも、相手は機嫌が良いわけでもない。いや、むしろ悪い。
「まったく、君は何も分かってない」
ため息混じりにそう言いながら、昴君は私の隣に腰を下ろした。




