好きだけど
「な」
と、隼人のかすれた声が耳に入る。
それから数秒の間を開け、
「なに言ってんだよ!」
と隼人は顔を赤くしながら言った。
慌てふためく隼人とは対照的に、私はどこか冷めている風に見えるふるまいをしていたと思う。
酷くもどかしかった。伝えたいことが言葉に出来なくて、必死に自分の気持ちを整理しする。けれど自分の中にある感情が複雑に絡まっていて言葉に変換する事は出来ない。
「隼人、好きなの」
私はたどたどしく、ただそれだけを言った。
「……ッ! お、俺もだ」
いつ誰が通るかも判らない住宅街。そんな事をも気にせず私達は抱き合った。
「ずっと、好きだからね」
だからずっと好きでいてね、と思った。口に出すと押し付けがましくなってしまう。けれど、どうしても望んでしまう本心。
暗闇の中にぽつんぽつんと置かれた電灯が隼人の顔を映し出す。見慣れているの隼人の顔にはいつもとは違う色が浮かんでいる。グレーの瞳に魅入られているなか、徐々にそれが近づいてきた。
「詩織」
甘く呼ばれてハッと我に返る。気が付けば、吐息が顔に掛かるほどの距離になっていた。
「あ、ちょ……。ちょっと待って!」
私は慌てて隼人の胸を押した。
「――なんだよ」
と、不服そうな隼人の声。
同時に少し距離があく。
ドキドキなんて可愛いものじゃない。バクバクと心臓が暴れているようだった。どれ程走ったとしてもここまで心拍数が上がった事はかつてないはずだ。
「は、はははは隼人! 今、」
「だめか?」
「だ、ダメって言うか……」
心の準備ができてない!
「ま、また今度ね!」
私はそれだけ言うと、慌てて自分の家の方へと駆けだした。恥ずかしさで隼人と顔を合わせられるはずもなかった。




